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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
227/396

殺戮者は哄笑する

イザベラが『三日月』だけを引き連れて、アイシャ・パーティの迎撃地点に戻ってきた。


「あとは頼むよ」


四十分に及ぶ逃走劇をこれまでを上回る速度で疾走したイザベラの余力は乏しい。


「さぁ、どうなるかね」


ロザリーが軽口を交わし、イザベラにアドバンス・ヒールを投げる。


「ここからは、私が相手をするよ」


イザベラと『三日月』の間に割り込み、その魔眼で魔物を射抜く。


大剣と大型メイスがぶつかり、膂力で勝るはずの『三日月』の剣が、鋼鉄球に弾かれる。

その勢いで体勢を崩した『三日月』が、激情を露わに二度目の咆哮を挙げた。


しかし、それに呼応する魔物はいない。


一瞬の困惑、その隙さえも、ロザリーは悠然と見過ごし、『三日月』の次の剣戟を待つ。

殺意を剥き出しにし、片手で繰り出される大剣の連撃。

その一撃が届けば、人の身体など簡単に砕かれる。


最早、大剣の形をしてはいるが、それは剣ではなく、鈍器。

摩擦を用いて切断する武器ではなく、その遠心力、武具自体の重さ、そして膂力を乗せて相手を粉砕する武器と化したならば、ロザリーにとって恐れる相手ではない。


メイスの握りを両手で持ち、僅かに角度を変えるだけで、その連撃は悉く弾かれる。

ロザリーの鋼鉄球の内側は、反発性の高い金属が仕込まれているのだ。

その絡繰りを見破ることなど、並みの戦士、剣士には不可能だろう。


イザベラのヘイトが火を着け、同胞の躯に怒りを燃やし、長時間の疾走が、『三日月』から無尽蔵とも言えるスタミナを確実に奪っていた。


それでも尚、ロザリーに対する殺意は漲り、届かぬ刃を振り下ろす。

ロザリーは、大剣を受け流しながら、『三日月』の刃の軌道を確実に理解し、最早、打ち合うまでもないまでに時は満ちた。


右手に持っていた、大きな鋼鉄球のメイスを放り、小さなメイスに持ち換える。

正中に振り下ろされる『三日月』の大剣を躱し、左足の脛にフル・スイングを叩き込む。


メキャリという滑稽な響きと共に、『三日月』の脚は曲がってはならぬ方を向き、痛みに悶絶しながらも、大剣を杖に立ち上がる。


ロザリーは再び、『三日月』を凝視し、その殺意を確認した後、残った右足も同じように叩き折る。

立ち上がることも出来ぬまま、膝立ちになり、それでも尚、大剣を振る。

その手に残った(よすが)を断ち切るべく、剣を握る手をロザリーのメイスが打ち据える。


殺意の炎を吹き消したのは、『三日月』の脳天に振り下ろされた断罪の一撃。

大きく頭頂部を陥没させ、眼球が飛び出す程の渾身の一撃が、この地に三十年という長い月日君臨し続けたオーガの王の命を奪った。


魔眼の他には何一つ特別な手段も、達人の技巧も、ありはしない。

それでいて、身震いするような殺戮。


シャアリィに比すれば、至極、真っ当も真っ当、武器の打ち合いによる正々堂々の果し合い。

それを見届けたイザベラは背筋に冷たいものを感じていた。


やがて、忘れ物を思い出したように、自らのダガーでロザリーは、『三日月』の魔石を抉り取る。

そして、事も無げに、


「リーダー、討伐完了ね」


と、魔石をアイシャに放り渡す。

その魔石はなんの変哲もない、ハイランド・オーガの魔石だった。


シャアリィはそれを眺めて、楽しそうに笑う。


「この魔石の価値は、私達が知っている」

「さぁ、胸を張って街に帰ろう!」


ロザリーは、初めて哄笑する。


「あは、あはは、ふははははははははははははははは」

「実に楽しかった」

「ああ、私はまた試練を一つ乗り越えたっ」


イザベラは、それをやるせない思いで見つめていた。



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