裸の王様
殲滅戦五日目、午前十時。
冒険者ギルドのテーブルで、最終確認。
「運が良ければ、今日で終わりだ」
「これだけの密度で関わると、歴戦の友のように感じるな」
「おっと、終わるまで礼は言うまい」
「まだ、最悪の事態というのはあり得ないことじゃない」
イザベラの切り出しに、ロザリーも応じる。
「そうだね」
「終わった気になるのは、まだ、早い」
「気を引き締めていくべきだよ」
アイシャも依存はない。
「このパーティは、まだ、解散していない」
「それはまだ、やるべきことがあるからだ」
シャアリィは何時もの調子で、
「三日月の魔石かぁ・・・でも、あの千本足でさえアース・ランスだからねぇ」
「あまり過剰な期待は出来ないね」
・・・
昨日の狩りですっかり魔物の密度を失った三日月集落の一角。
最早、拠点を作る手間もなく、アイシャの索敵に感はない。
「三日月の一本釣りとは、面白いことを考えるね」
ロザリーがシャアリィの斜め上の発想に賛辞を贈る。
「我々と視点が少し違うというだけで、難しい狩りの難度を簡単に下げてしまう」
「末恐ろしいな、琥珀のシャアリィ」
「期待に応え、見事一本釣り、成功させてみせようとも」
イザベラの体調は万全らしい。
アイシャは不測の事態を警戒しつつ、イザベラに、
「最悪、どれだけ引いてこようが、どんな失敗をしようが、構わない」
「だが絶対に、ここまで戻ってくるんだ」
「我々ならば離脱程度、造作もない」
「それだけは忘れないでくれ」
シャアリィが楽し気に号令を出す。
「裸の王様を釣り上げて、昼間っから美味しい酒を飲もう!」
皆が大きな首肯をし、イザベラが戦端を開くように自己エンチャントを開始する。
「ウィンド・ウォーク」:移動速度向上
「ストロンゲスト・ボディ」:防御力向上
「ディセイブル・アロー」:投射武器無効化
「マッスル・アップ」:筋力強化
「行ってくる!」
戦闘開始の一言に、三人は己の武具を突き上げて返答した。
最早、イザベラに複雑な思考はない。
ただ、集落の中心を目指し、三十年もの間君臨し続けた、宿敵の長たる魔物『三日月』の姿を捉えるために疾走する。
今までヘイトで沈黙させていた斥候を初めて無視し、その疾走を続けた時、斥候から最初の警報が、発せられた。
高らかに鳴り響く法螺貝の笛の音が、長く長く響き渡り、可聴範囲全てのオーガを集落中央に呼び寄せる。
直後、降り注ぐ、投石の雨。
それを撥ね退け疾走する、孤高の高速戦車。
十五分の孤独な疾走が目指す先、集落の中央では、ハイランド・オーガ『三日月』が、冒険者から奪った大剣を携え、待ち構えていた。
イザベラは、盾を構え、腰からレイピアを引き抜いて、高らかに澄んだ声を手短に響かせた。
「ヘイト!」
我を忘れたかのように怒りに満ちた裸の王との追跡劇が幕を開ける。




