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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
220/396

忖度

『三日月』は、未だ状況の把握には至っていない。

戻ってきた斥候は皆、敵との遭遇なし、敵所在の感なし、という同じ報告。


この集落は、『三日月』の恐怖政治で成り立っている。

出過ぎた発言をすれば、その場で粛清されることも珍しくはない。


ハイランド・オーガの文化レベルが低い理由。

それは代替わりの度、敵対勢力を一掃し、最初から社会基盤を作り直すからだ。

老いて役に立たなくなった個体は、群れの中に居場所がなくなる。


人間の社会のような『老後』は、オーガの世界には存在しない。

激しく世代交代する波の中で、ただ、種の存続だけが脈々と続く。

それはオーガだけでなく、文化的に未開とされる亜人に共通のものだ。


明日のことさえわからず、今を生きる。

積み上げた過去を葬り去ることで、統治者は尊敬を得る。

弱者は忖度し、従い、より僅かでも自分の地位を向上することに腐心する。

亜人の歴史の中で延々と繰り返されてきた出口のない迷路。


故に、例え情報があったとしても、『三日月』が気にいらないだろうと判断すれば、その情報は揉み消される。


滅びの日は近い。


・・・


ロザリーは、冒険者ギルドに顔を出すことなく、教会に戻った。

あの時点では戦闘継続を意志表示したが、身体はとうに悲鳴を上げていた。

それは戒律違反のペナルティだけではない。

ハーフ・プレート・メイルのイザベラを抱き抱えたままに吹き飛ばされたのだ。

自分で体感できるだけでも、右肋骨二本は確実に折れていた。


幸いにしてそれが内臓に干渉することもなく、細身の身体にゆったりとした聖衣とあっては、他者に気付けるはずもない。

教会に戻るや否や医務室に担ぎ込まれる始末。


「司教様、すぐに上級ヒールを施します」

「もう暫くの辛抱です」


柔らかな癒しの光がロザリーの身体を包み、徐々に傷は癒えてゆく。

痛覚の残滓に、時折、眩暈を覚えながらも、今日の出来事を振り返る。


教会(ここ)での私は、司教であり、鏖殺のロザリー、北方大教会枢機卿のお気に入り、誰もが私を大切にし、敬い、尊び、何もかもが意のまま。


しかし、先ほど感じた誉れはない。

私を敬いもせず、尊びもしない奴らといる方が心が安らぐ・・・。

私はどうしてしまったのだろう。


積み上げた徳に瑕をつけるようなことを何故・・・

わからない、ただ、あの場所で彼女に死なれるわけにはいかなかっただけ。


そうだ、私は彼女と決闘の約束をしたのだ。

犯した罪の贖罪なしに勝手に死ぬことを許された身では・・・ない、のだな。


「神よ、願わくば、この私に贖罪と延命の両方を与えてください」

「この願いそのものが強欲の罪を犯しているとしても!」

「私が捧げた祈り、それが僅かでも届いていることをお示し下さい」

「でなければ・・・私は」


その先の言葉は、あまりにも冒険者らしいもの。

きっと、シャアリィならば、こう言う。


「好き勝手やらせてもらいます」


と。


―――殲滅戦リザルト。


三戦目まで:

スノウ・ウルフ五十体。

ハイランド・オーガ雄個体百七十七体、但し、未確認殲滅数を除外。

ハイランド・オーガ雌個体二十一体。


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