戒律違反と失態
ロザリーが目を覚まさなければ、パーティが全滅する・・・
アイシャがそう思った矢先、幸いにもロザリーは意識を取り戻した。
「戒律違反のペナルティで・・・」
その言いながら左手の甲をロザリーがアイシャに見せる。
まるで鍛冶屋の道具で無理やり剝ぎ取ったかのように、五指の爪が全て喪失していた。
「今回は初回だからコレで済んだよ」
「術式や魔力上限は健在ね」
イザベラは重篤だ。
美貌や装甲のある部分こそ無事だが、頭部にも、二の腕にも、太腿にも激しい打撃で出来たような傷が散見される。
ロザリーは躊躇なく、イザベラの治療を最優先した。
一先ず安堵したアイシャは、シャアリィの口に魔力回復薬を流し込む。
「ぐぇ、ふぇ、びやぁああ、まずいぃいい」
シャアリィのポーチからチョコレートを取り出し、鼻先に近付けると、ぱくんという音と共にシャアリィの唇がそれを捉える。
ロザリーが更なるヒールの必要があるかをアイシャに確認。
「大丈夫だよ」
「被弾や物理ダメージを負ったのは、二人だけだ」
「安心して、自分の治療をしなよ」
ロザリーは小さなため息をついて、右手を左手に翳し、
「キュア・ブリード」
と、最下級の血止めの術式を短縮詠唱した。
「私はね・・・自分を治癒するための術式は、最低限のものしかないんだ」
「セルフ・ヒールすら持ち合わせていない」
「これで聖職者の司祭だというんだから、御笑い種だね」
まだ意識を回復しないイザベラの顔を見つめて、
「ヒーラーなら、ましてこのパーティなら、何の問題もないことね」
「イザベラには内緒にしておいて貰えると助かるよ」
歯車が軋むと、即、全滅する戦域で戦っていることはわかっていた。
ただ情報になかったのは、雌個体の戦闘方法。
そもそも、雌個体との遭遇例自体が稀過ぎて、情報が不足していたのだ。
イザベラが目覚めたら、また、戦術を変更する必要があるだろう。
・・・
アイシャの索敵がさらなる敵を捉える前に、一人をイザベラの元に残し、残りの二人で手早く魔石を回収することにした。
十分程が経過し、半ば魔石の回収が終わった所で、イザベラの目がゆっくりと開いた。
「大失態だな」
「非力な雌だと思っていたら、オーガはやっぱりオーガだ」
たまたま番をしていたシャアリィが、大声でイザベラの覚醒を皆に知らせた。
「まぁまぁ・・・」
「失態なんかじゃないよ」
「不測の事態が起きただけ」
「それでもイザベラは、ちゃんと此処まで戻ってきた、すごいよ!」
「とりあえずは、コレを食べて落ち着こう」
相手の返事も待たずに、シャアリィはチョコレートをイザベラの口に放り込む。
「旨い、なぁ」
「今回も、なんとか勝利だ」
「最大の成果を手放すことがなくて、良かったよ」
その瞳には、涙が滲んでいた。
悔し涙か、それとも生還の喜びか、それを問わない程度にはシャアリィも空気が読める。




