雌個体の脅威
イザベラが駆け出してから、二十分程が経過し、アイシャの耳に来訪者の足音が届く。
「軽い」
思わず呟いた言葉は数が少ないのか、或いは雌個体が多いのかという意味。
正解は後者であると、数秒後には判別出来た。
「ロザリー、ヒールを打てる準備をしておいてくれ」
「恐らくだが、イザベラは被弾している・・・あの気の強い彼女が速度を若干落としているんだから、その被弾は少なくはない」
ロザリーの顔色が変わる。
「了解した」
「引き続き戦術指揮を任せるね」
アイシャはシャアリィに準備を促す。
「迷わず敵影の濃い部分を狙ってくれ」
「今回ばかりは、さすがに撃ち漏らしが出ても仕方ない」
「事前にわかっているだけでも、幸いだ」
「十カウント・ウォーター準備」
イザベラと敵との距離が近い分、発動タイミングは必然シビアになる。
アイシャは全神経を注ぎ、その距離を見極め、
「チャージ開始!」
勢いよく水の精霊が活性化する。
氷結程荒々しくないが、その分、密度の濃い風がシャアリィの周囲に巻き起こる。
「七・・・六・・・五・・・」
アイシャの指示した発動タイミングは完璧だが、其処で問題が発生した。
雌個体の投石がイザベラの脚を直撃し、イザベラはそのままの勢いで転倒。
このままではシャアリィの砲撃に巻き込まれる。
「くっ」
アイシャが撥ねる刹那、それよりも早くロザリーが動く。
「三・・・二・・・一・・・」
「テンカウント砲撃!」
ロザリーの手から投擲されたメイスが先頭のオーガの頭蓋を砕き、その勢いのまま前転しながらイザベラを救出。
辛うじてウォーター・キャノンの直撃は避けたものの、余波の水圧が二人の身体を弾き飛ばす。
ウォーター・キャノンの後を追い掛けるように、アイシャは二人の落下地点に向かい、そこに打ち漏らした雌個体四体が集まる。
セロニアスの健脚が、三歩程勝ったものの軽装備のアイシャがイザベラ達を守りながら相手に出来る数ではない。
シャアリィはキャノン後の魔力酔いになりながらも、自らもイザベラ達の落下地点に急ぐ。
「くそっ、どんだけ石持ってんだよっ!」
投げられた石は、人間の拳大、直撃すればイザベラの二の舞だ。
しかし、投石を弾き、直撃を回避するだけならば、アイシャの三節混に不可能はない。
「シャアリィ、殲滅を頼む!」
言われなくともとばかりに、シャアリィから術式がバラ撒かれる。
「閉ざせ」:カース・シャドウ
「貫け」:アイス・ランス
「散れ」:アイス・ブラスト
「穿て」:アース・ランス
「飛べ、ふたつ、みっつ」:ストーン・バレット三連撃
シャアリィは魔力枯渇に足を縺れさせ、そのまま地に伏した。
アイシャだけが戦域にただ一人立っていた。




