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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
214/416

本物の騎士

『三日月』は、戻らぬ群れが気になり始めていた。

過日起きた人間による同胞の大量殺戮。

例年にない程の数が奪われ、今日もまた、同じように帰らぬ者が多い。


今まで起きたことのない配下の群れの異常な減少。

自らが集落の長として君臨してから三十年の月日が流れ、初めて味わう脅威。

この要塞を捨てて移住する時が来たのか、と、弱気な考えも頭に浮かぶ。


変わったことと言えば、今日はスノウ・ウルフの姿を見ない。

何時も縄張り、獲物を取り合う小賢しい犬達。

反面、ディアーは何時もより多く捕獲出来たのだから、気にするまでもないか。


明日は、事の把握のために雌達を斥候に出すべきだろう。

この速度で群れが減れば、秋を待たずして全滅する危険がある。


唸り声にしか聞こえない言葉で、『三日月』は、明日の狩りと斥候の指示を出した。

配下の統治者達は、恭しく命令に土下座で応じる。


・・・


魔石の精算を終えて、アイシャ達が山鳥亭の何時ものテーブルに着く。

そこには既に木製ジョッキを二つ並べたイザベラが陣取っていた。


「頭に来てしまって面目ない」

「たまには統治者として、小言の一つも、と」


シャアリィが元気な声で、店員を呼ぶ。


「今日も暑かったから、麦酒でいいね」

「あと、コレ、おみやげだよ」

「私たちの分のステーキを出してくれたら、残りは好きに使ってね」


ハイランド・オークの腿肉を店員に渡し、イザベラを眺める。


「私は嫌味言われるのに慣れちゃってて」

「結構、すっきりしたよイザベラ!」


アイシャも倣う。


「同感だ」

「手品でもあるまい、種も仕掛けもあるに決まってるよ」


ロザリーは、少し控え目に。


「もう二度と、イザベラの出自に関して悪く言うことはしないね」

「今更だけれど、私もイザベラを見習って聖職者の本分を磨くよ」


イザベラは、思わず吹き出す。


「そう殊勝になられても、対応に困る」

「別に、私ときみならば、軽口の範囲だろうさ」

「私としてはね、あまり、きみに大人しくされても、少々、困るんだ」


目を細め、表情を引き締めたイザベラが、ロザリーに告げる。


「『三日月』狩りを為した暁、私は、きみに決闘を申し込みたい」


三人の顔から笑顔が消える。


「零れたワインがグラスに戻らぬように、きみは過去一度、私の逆鱗に触れた」

「亡きアラン・シーザー・シュベルドの名誉を汚した者を許す訳には行かない」

「きみが私を本物の騎士として認めた以上、避けては通れない事なんだ」

「彼は私を愛してくれた、様々なものを投げ捨て、私を選んでくれた」

「その博愛、恩義をこの刃に」


ロザリーがそれに応じる。


「良い」

「百錬の騎士よ、相手にとって不足なし!」

「この鏖殺のロザリー、貴殿からの決闘の申し入れ、承諾する」


殺戮者の瞳から涙が零れる。


「良き友になれると思っていたのは、私だけのようだね」

「傷つけてしまったことを深く詫びるよ」


イザベラがその涙を指で払い、


「良き友だとも!」

「私が本物の騎士になれたのは、きみがいたからだ」

「だからさ・・・尚更、遺恨を残したままではいられないのさ」


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