手加減
まるで巨大な蛇が通過したかのように、地面は抉れ、木々は倒れ、誰にも踏まれたことのないであろう森の一部が欠損している。
一体どれだけの土砂を巻き上げたというのだろうか。
倒したというよりも、破壊したオーガの破片の半数以上は予想を超えた場所まで吹き飛ばされているのだから、この場所での魔石採集は『魔石探索』、『魔石採掘』の様相。
惨たらしいなどという言葉が生温い。
高木の枝にまで千切れた身体が引っ掛かり、その木の根元では一瞬のうちに圧死したと思われる残骸の胸から、魔石が顔を覗かせている。
多少の予想はしていたものの、この破壊の規模は、所謂、想像を絶するというもの。
百近い群れを吹き飛ばして、手に入った魔石は、僅か、十九個。
欠損した魔石ならば他にも見つかったが、使用用途はせいぜい冷凍保管庫の足し程度だ。
アイシャがイザベラに提案する。
「討ち漏らしを恐れず、五カウントにすればいいんじゃないかな」
「そうすればシャアリィが魔力切れを起こす前に、回復薬でも対処出来る」
「報酬と労力の釣り合わない狩りでは、イザベラの奮闘も報われない」
イザベラは、別に構わないと思っている。
「私の望みは、オーガの殲滅」
「魔石は、副次的な恩恵に過ぎないよ」
「だが、他の皆にすれば重要な問題の一つであることは理解しよう」
シャアリィから意外な提案がされる。
「アース・スパイダーの時みたいにさ、ウォーター・キャノンならイケるんじゃないかな」
「規模も少し緩めて十カウントくらいなら、捜索範囲も五十メートルくらい?」
「あの時は、洞窟の崩落を起こさないことが前提だったし」
「ちゃんと魔石も回収出来たでしょう?」
ロザリーが、シャアリィの規格外っぷりにうんざりしながら、
「キャノン・・・他にも持ってるなんて、聞いてないよ」
「でも、ウォーターだと、かなりの数が生き残るんじゃないかね?」
「火力そのものを削り過ぎたら、後が面倒になるね」
アイシャが応じる。
「さっきみたいな百近い群れだと、半数は生き残るかもね」
「でも、圧死させられなくても、骨折や内臓破裂、脳震盪、そういうもので、まともに動けるような個体は極少ないと思うんだ」
ハイランド・オーガの群れに対して『手加減』を論ずるという破天荒。
この大破壊を体験すれば、自分が常識外れな部類に足を突っ込んでいることも忘れるだろう。
意見が出揃った所、イザベラが戦術方針を総括する。
「さっきは獲物を欲張り過ぎたが、自重しよう」
「最大で六十まで、術式はウォーター・キャノン、威力は十カウント」
「シャアリィのクールタイムは、魔石採集の時間と戦術の微調整に充てる」
「これで、良いかな?」
皆の賛同を確かめた後、次の狩場の選定のためにアイシャの簡易地図が開かれる。
「イザベラ、凡そ通ったルートは覚えてる?」
「その場所はカラになっているはずだから、次の殲滅時には外そう」
「此処はもう、『三日月』の集落にも近いから、本体との接触は避けたい」
勿論、イザベラはアイシャの意見を聞くまでもなく、
「避けると言っても、だ」
「既に『三日月』直下の群れも、少しばかり巻き込んでいる」
「ルートについては工夫可能だが、本体との接触を回避出来るかは約束出来ない」
「今日に限っては、本体直下の大部隊が動いた場合、戦域離脱、撤退としよう」
「歯車が嚙み合わないまま、狩りを続行すれば、必ず綻びが生まれる」
「出来る限り、慎重にやるさ」
四人は視線を交わし、次の狩場に向けて腰を上げた。




