数の暴力に抗う戦術
初日から高難度の敵と遭遇したことで、イザベラは新たな戦術の必要性を確信した。
タンクが集め、アタッカーが撃破し、それをヒーラーが守るという、今までの尋常な戦術では、初日のような大打撃を受けることは明白。
談話室で交わした会話の中で、イザベラは一つの光を見出す。
それが、シャアリィの砲撃を中核に据えた『大吸引大破壊』という極めて斬新でありながら、パーティの特性を生かす戦術だ。
シャアリィが枯渇状態から魔力を完全回復するまでの時間は約四十分。
その時間の間だけ、アイシャがシャアリィを守ることが出来れば、この戦術は成立する。
スノウ・ウルフのように自分たちよりも機動性に優れた魔物相手には出来ない戦術だが、ハイランド・オーガの移動速度は、人間と同程度。
イザベラが広範囲を疾走し、群れを吸引しながらシャアリィの魔力砲台の元に集め、迎撃する。
シャアリィの射線から外れた個体は各個撃破。
この方法ならば、一度に五十体以上の群れを殲滅可能!
恐らく群れの半数までは、この戦術で削れるだろう、と、イザベラは考えた。
残りの半分、つまりは『三日月』本体を含む主力は、簡単なことでは引き摺り出せない、とも。
兎にも角にも、机上から現実へのシフト、つまり、実証実験は必要だ。
殲滅戦二日目、目指すのはシャアリィのキャノンが性能を発揮出来る場所。
『三日月』の集落に付近に点在する、オーガの木材伐採地。
切り株は多少邪魔だが、巨木のものとなれば、見落として躓くようなものではない。
まず、周辺の魔物を一掃し、待機するシャアリィとアイシャの安全を確保する。
ロザリーが牽引、待機のどちらに回るべきか、少々、思案したが、実験では待機に。
イザベラが慎重に待機場所の地形を観察し、シャアリィの射角をアドバイスする。
「あの場所で、私の姿が見えたら、約七秒で会敵だ」
「そこからチャージでは間に合わない、アイシャはあの方角を索敵し、シャアリィにチャージ開始の指示を」
「オーガの群れを聞き漏らすようなことはあるまい?」
アイシャは僅かに顔を曇らせる。
「初日もそうだが、イザベラの負担が多過ぎではないか?」
「この作戦に反対しているわけではないよ」
「だが、それにしても、だ」
イザベラは涼しい顔で答える。
「何を言っている」
「魔力切れになったシャアリィを守るには、アイシャの攻撃力やロザリーの吸引が必要だろう?」
「それに、ロザリーをフリーにしておかなければ、ヒールが間に合わない」
「これは、適材適所だよ」
「私には桁外れのスタミナと防御力だけでなく、百錬で得た様々なスキルがある」
「見くびってくれるなよ?」
ロザリーは少々気まずげに言葉を絞りだす。
「パーティを組むようになってから、正直な所、私はイザベラを見直したね」
「それに自分の言動を恥じた」
「彼女は本物の騎士だよ、アイシャ」
「イザベラがやれると言ったら、私もやれる、と、思うね」
イザベラが、照れ臭そうに笑う。
「そういうことは、全部片づけた後に言ってくれ」
「思い出してトチったら、お前のせいだぞロザリー」
シャアリィが号令を発する。
「さぁ、ステーキ狩りの時間だよ」
「出来ることなら、みんなにもあのまずい魔力回復薬を飲んでみてもらいたいね」
「おっと、ここで私からの支給品です」
そういって、皆の手に小さなキャラメルの包みを乗せる。
「生きていなければ味わえない」
「幸せの味ってのを覚えておいてね!」




