工房と甘味
イザベラが急ぐ理由があるとすれば、それは単に気が逸っているだけ。
自分でも理解しているが、それでも尚、装備の修復を急がせた。
強化スパッツは半ば消耗品である為、鉄鋼線を編み込む時間を勘案して、予備も当然、複数所持しているが、さすがに肘当てや足鎧の予備はない。
ドワーフの秘伝たるミスリルの金属を溶かせる鍛冶師は、この街ではただ一人。
腕の良い職人にありがちな気難しい男、ロンバルト・ジョンバルド。
一風変わった名の男は兄弟で鍛冶を生業にしており、弟のフンボルトも一流の鍛冶師だ。
様々な合金を製錬する技術を持ち、その芸術的な配合によっては安価な金属からでさえ、強力な武具を生み出す名匠。
イザベラの防具一式は、ロンバルトが製造した一点物。
故に、ロンバルト兄弟の助力なしでは、修復もままならない。
彼らが一番に何を欲しがるか・・・それは『材料』と『燃料』だ。
ミスリルを修復するとなれば、東方のミヤマでさえも簡単には受け入れない。
その理由こそが、『燃料』である。
ミヤマがイルオールドの地を工房として選んだ理由。
それは、イルオールドに満ちる風雷の精霊の力。
その火力は、ドワーフの溶鉱炉を玩具と吐き捨てる程の、超高温。
それがあるからこそのミヤマの刀剣。
ザグレブホーンでは、氷結の精霊が強過ぎて溶鉱炉を加熱するには相応以上の燃料が必要になる。
だが、反面、地層が剥き出しになった鉱山が豊富であり、高水準の材料、希少金属の供給に関してはザグレブホーン以上の場所は、見当たらない。
「冒険者が減って鍛冶の需要も落ち込んでいる」
「少々の間、品薄騒ぎが起きるだろうが、ありったけの木材を買い集めろ!」
イザベラの指示によって山積みの木材が集められ、ロンバルトの元に送られる。
「お嬢の頼みとありゃあ、しゃあねえなぁ」
「炉を熱する時間だけは少々掛かるが、二日で仕上げようじゃないか」
シュベルドが代替わりしてからというもの、穏健な先代と違い、騎士になったイザベラは手に入る最高の武具を求めた。
結果、ロンバルトの工房の評判は一気に高まり、このザグレブホーン最高の鍛冶師という名誉を手にいれた。
「さぁ、久しぶりの見せ場だ」
「者共、我が工房の威信を掛けた大仕事、しっかり頼むぜ」
「今回はフンボルトが、鍛冶の指揮を執る」
「シュベルドへの恩返しだ、皆、心して薪を燃やせ、鉄を溶かせ、槌を叩け!」
・・・
ぽっかりと空いた二日間という時間。
イザベラは鍛錬に余念がなく、ロザリーは教会での奉仕活動。
シャアリィとアイシャはと言えば、カフェ巡りと菓子店の探索。
「戦場に必須なものと言えば、チョコかキャラメル!」
「風通しの良いポーチに入れれば、多分、解けないだろうし、買い込もう!」
シャアリィの掛け声で始まった、甘味探し。
それに火を着けたのは、シュベルド邸での晩餐のデザートだった。
生菓子から、焼き菓子に至るまで豪華絢爛なデザート・プレート。
そして極めつけはアイスクリーム。
こうなれば、物欲に歯止めはないシャアリィとアイシャだった。




