殲滅戦の鮮烈な幕開け
多くの離脱者を出し、それは既にザグレブホーンの街中に広まっている。
商店の品物の価格は僅かばかりだが値を上げ、諦めの迷宮の街も諦観に染まる。
掲示板に新しく貼られるクエストはギルド指定が目立ち、再び、過疎の始まりの鐘が鳴らされたと残った冒険者が嘆く。
そこに戻った、アイシャ、ロザリー、シャアリィ。
隊列にイザベラの姿がないことが周囲の目に留まるや否や、殲滅戦の失敗を嗅ぎつけた野次馬の下衆な視線がパーティに注がれる。
「こちらを換金してもらいたい」
アイシャが差し出した革袋から覗いたのは、極上の氷結魔石。
年に数度もお目に掛かれないスノウ・ウルフのものだ。
ギルド職員が、それを鑑定皿に乗せようとして、革袋の重さに小さな悲鳴を上げる。
「ちなみに、幾つくらいありますか?」
ロザリーが事も無げに片手を開く。
それが五十だという意味は、誰の目にも伝わった。
鑑定皿の上に晒された魔石は、その全てがスノウ・ウルフから採取されたもの。
大きさ次第では、一粒で金貨一枚に達することもある。
「スノウ・ウルフ五十・・・さすがにこれだけの価値のある魔石の場合には、詳細鑑定も必要ですので、少々、お時間を頂きます」
「ちなみにイザベラ嬢の姿が見当たらないようですが・・・」
誰もが聞きたかったその答えを発したのは、シャアリィだった。
「ロースト・ウルフを作りに、先にお家に帰ったよ?」
よく見れば、此処に来ている三人の誰もが、傷一つ負っていないことに今更ながらに周囲の者は気付かされた。
野次馬の一人が、帰還したパーティメンバーに問う。
「じゃあ、イザベラは健在・・・初日でスノウ・ウルフ五十撃破ってことか?」
アイシャが呆れて、少し大きめの声で返答する。
「それ以外にどんなことがあるっていうんだ」
「さすがに五十もやれば疲れもする」
「今日は早めの手仕舞い・・・それだけだ」
ざわめきが起き、冒険者連中が掲示板に急ぎ足で駆け寄る。
「狩れるものを狩らなきゃ、奴らに全部喰われるぜ?」
「まずは、旨味のあるクエストから片付けよう」
「ちょっと、そこの伝票!俺が受けようとしてたやつ!」
「早い者勝ちって言葉知ってるか?」
小さな『さざ波』かも知れない。
だが、諦めの迷宮には、まだ、冒険者が残っている。
その光景に、受付嬢は少しばかり期待を膨らませ、
「殲滅戦、無理しないで下さいね」
「あなたたちの成功をギルド一同、心から願っていますから!」
此処はザグレブホーン。
終わらない迷宮に心を折られ、それでも、まだ、挑む者がいる街。
その行方の天秤を傾けるのは、アイシャ達の殲滅戦パーティ。
「少しばかり休息を挟むが、殲滅戦は続行するね」
「私達は『三日月』討伐を必ず成し遂げる」
「今後も魔石の買い取り、宜しく頼むね」
厳かに、必勝を言い放つ殺戮者の若草色の瞳が、この殲滅戦の苛烈さを物語っていた。




