ラック・アンラック
終わってみれば鮮やかな虐殺劇。
だが、何かが僅かに嚙み合わなかったなら、誰一人無事では済まなかった。
――― 幸運。
その一言で片付けるには、馬鹿馬鹿しい選択の積み重なりが此処にある。
まず、シャアリィのキャノンを見せていなければ、イザベラの卓越した戦術指揮はあり得なかった。
どれ程、自分の頑強さに自信があったとしても、危険度十五のスノウ・ウルフを四十五体同時吸引する等、意図的な自殺行為。
イザベラのレベルが仮に百五十相当だとしても、その通常限界は八体。
それを明確に示すのが、ロザリーへの最初の指示だ。
吸引数五体・・・タンクでないロザリーが一度に耐えられる限界値をイザベラは把握している。
そこに最大火力のシャアリィまでも瞬殺を期待して投入した。
この戦術指揮は、騎士称号を持つイザベラ以外には不可能だっただろう。
次にアイシャの判断。
シャアリィにさえも秘匿していた天塵破砕という攻撃スキルの選択。
次の戦闘を捨てて、腹を括った魔力総動員の攻撃スキルは、魔力だけでなく不足する攻撃力を補うためにアイシャの体力をも浸食する。
セロニアス、面目躍如の連撃だった。
ロザリーはトチったようにも見えるが、そうではない。
この局面、誰もが出し惜しみをしない中で、一人、イザベラの通常戦術からレールシフトせずに、冷静にヒーラーに徹した。
歴戦の冒険者ならば、前衛が喰われた末路、自分がどうなるかをわからないロザリーではないのだ。
それでも尚、必要十分な魔力を温存しながら、備え、戦う胆力は賞賛もの。
シャアリィは、キャノンを使わなかったのではなく、使えなかった。
単純明快、指示がないままに火力を沈黙させるわけにはいかなかったからだ。
乱戦の中で、シャアリィの射線からタイミング良く脱出するのは至難を通り越し、神掛かりの回避が求められる。
それならば、火力集中による殲滅、一秒でも早くイザベラを救出するべきだった。
――― 不運。
スノウ・ウルフの強襲の引き金になったのは、間違いなくキャノンの砲撃だ。
イザベラがファンファーレと例えたように、普段ならば、五から十体程度で群れているスノウ・ウルフの群れを複数同時に引き寄せた。
それは同時に、他の魔物や動物との遭遇を遠ざけ、アイシャの索敵を容易にしたという加点要素もあるだろう、が。
・・・
各自が、自身の状況、装備の点検に入る。
アタッカー、ヒーラー、共に、身体、装備ともダメージは皆無。
但し、全員が深刻な魔力不足の状態であることは明白だ。
ただ一人、イザベラだけは流石に無事ではなかった。
上級ヒールを施されたとは言え、受けた痛みまでがすぐに癒えるわけではないのだ。
常人であれば、痛覚ダメージで死にかねない程の攻撃を防ぎ続け、その蓄積は重い。
癒された身体と痛覚残滓のミスマッチは、味わったもののみが知る地獄の苦痛だ。
気を抜けば、失神昏倒しかねない。
そして、装備にも中破とも呼べるほどのダメージがある。
強化繊維のスパッツは裂け、穿たれ、所々が露出してしまっている。
盾を構え続けた左手の肘装甲は罅割れ、大群を圧し留めるために踏み込んだ足鎧の先端は変形している。
この状況は即ち、本日の戦闘継続断念を意味した。




