喪失感
レイド失敗。
その悲劇の元凶は、殲滅戦の告知だったのかも知れない。
たった三人で呼称有りの魔物を倒すという衝撃的な内容で焦りを焚きつけられた末、総力戦のような無謀に打って出たと多くの者は考える。
ギャレットらの死は、ザグレブホーンにとって致命的な損失だった。
終わらない迷宮探索、フィールドの魔物さえも手強く、このザグレブホーンで狩りを続けるために必要なタンクという重要な役割の戦士の殆どが失われた。
残っているクラス3のタンクは、パーシモンとイザベラのみ。
そのイザベラが惨劇の元凶に加担していたのだから、もう、この地から冒険者が消えてもおかしくはない。
今日は、雨。
こんなことが起きてもルーティン・ワークのようにシャアリィとアンソニーだけは迷宮に潜る。
かつて、シャアリィとアイシャが経験したレリットランスのガーゴイル殲滅戦。
まるで、その再現のように。
この寒冷の街が再び多くの若い冒険者で賑わうようなことはあるのだろうか。
水属性、氷結属性の魔石ならば、質や数は劣るが、アーシアンでも、ナセルバでも、手に入れることが出来る。
街を去れない理由がある冒険者だけが残り、ダンジョンの浅層域で細々と狩りをする状態が続いた後、乾涸びるようにザグレブホーンの迷宮の灯は消えるのかも知れない。
既に用を為さなくなった告知が、ギルド掲示板からイザベラの手によって剝がされた。
アイシャ、イザベラ、ロザリーの三人にしてみれば、レイド失敗は予感していた事であり、控え目に評価しても、大健闘の部類。
冷たい数字に置き換えれば、撃破率百三十八対七。
生き延びた者のほうが大多数であり、それを為し遂げるために自らを捧げたギャレット達パーティ・リーダーは英雄の域に達しているのだ。
生き残った者達は、誰もアイシャ達を恨むべきではないと心得てはいるものの、自分たちの胸の中にある喪失感を誤魔化せるものは強い酒と元凶の糾弾しか残されていなかった。
持ち帰った魔石と少々の戦利品を、ザグレブホーン冒険者ギルドは二倍の値で買い取り、さらには、戦死したメンバーの遺族に支給するための基金の設立を行った。
生き残った冒険者の約半数が、受け取った買い取り金全てを基金に寄付し、それと同時に冒険者章を返却した。
陰鬱な天気の下、イザベラ、ロザリー、アイシャは、昼間から酒を飲む以外に思いつくこともなく、山鳥亭の最奥テーブルでグラスを傾けた。
ロザリーが、珍しく神妙な顔で最初のグラスを掲げ、
「ギャレットと勇敢な冒険者達へ」
と、これが追悼のテーブルである意志を示す。
イザベラも、アイシャも、それに倣い、グラスを掲げ、打ち響かせることもなく、ひといきで飲み干す。
予想していた結果の一つとは言えど、イザベラは耐え難い痛みを吐露した。
「馬鹿者め」
「お前が死んでどうする・・・」
「私は面倒くさがりだからな、レイドの主催なんて絶対にごめんだ」
アイシャは思う。
もしも、自分たちの殲滅戦に追加募集の項目を書き入れたなら、どうなるか、と。
それは余りにも酷い劇薬。




