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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
192/455

『三日月』の夜

ギャレットの目に映った敵影は、予想もし得なかった数。

既に数えるのも馬鹿らしい。

パーティを布陣した所で、瓦解まで数分すら稼げないだろう。


ありったけの声で、ギャレットが叫ぶ。


「もう、遺体は守れない」

「ここに置いて行け!」

「皆、稜線をただ走れ、逃げろ、生き延びろ!」

「もう、パーティ・メンバーすら気にしなくていい」

「一人でも、少しでも、遠くまで走れ!」


呼応するように、ルシアノ、カシアス、ロッキー、ジョー、ベルリネッタ、パーシモンがギャレットの元に駆け寄る。


「パーシモン!お前は若過ぎる!」

「皆と早く逃げろ!」

「口答えは一秒も許さん!」


普段、狩りを共にするロッキーが、パーシモンに逃走を命令する。

パーシモンはただ頷き、先輩の言いつけに従った。


ルシアノが、ギャレットの次の行動を知り尽くしているかのように、


「ギャレットだけに英雄になられてたまるか!」

「なぁ、みんな!」


残りのパーティ・リーダー達が口角を吊り上げ、同意する。


「馬鹿共め、でも、有難いよ」


六人が並んで盾を構え、怒鳴るようにスキルを叫ぶ!


「ヘイトォオオオオ・オーラァアッ!」


剣で盾を打ち鳴らし、広域誘導術式ヘイト・オーラが数百体ものオーガに届く。


「こっちにこいよ、化け物共!」


ベルリネッタは、腰をくねらせお道化てみせる。


「私を捕まえてごらんなさい?」


何体そこにオーガがいるのかはわからない。

だが、その八割以上の数をたった六人のタンカーが吸収する。


「おお、上出来だな、じゃあ、お前ら、先に向こうについた奴の奢りで飲み明かそうぜ」


ギャレットは泣いていた。

自分ひとりでやるつもりだったことを見抜かれていた。

ひとりだけでは、これ程多くのオーガを釣ってレイド・メンバーの逃走を助けることなど出来なかっただろう。


完全に追い詰めたと思った敵に、まんまと逃走を許した『三日月』は、ヘイト・オーラから逃れたにも関わらず冒険者を追わない個体を、苛立ち紛れに文字通り捻り潰した。


・・・


今回の衝突、数の上では人間側の圧勝なのだ。


だが・・・


ベースキャンプに逃げ込んだレイドメンバーが、ポーター達に状況を知らせる。

魔石の入った革袋だけを抱え、ベースキャンプは放置され、皆、走れる限界まで走った。


逃げ果せた誰もが、皆、敗北を認めざるを得ない。

ザグレブホーンの名立たるタンク達を失い、メンバーが一人殺され、『三日月』本体どころか、その群れは健在。


もし、アイシャ達の掴んだ情報があれば、上手くいったかと言えば、恐らくは無理だろう。

『三日月』の集落に足を踏み入れたならば、生きて戻ることは叶わない。

それ以前に、中型、大型の群れと接触してしまう危険も大きい。


現実に起きなかった『たら、れば』を考えても詮無きことだが。


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