『三日月』の夜
ギャレットの目に映った敵影は、予想もし得なかった数。
既に数えるのも馬鹿らしい。
パーティを布陣した所で、瓦解まで数分すら稼げないだろう。
ありったけの声で、ギャレットが叫ぶ。
「もう、遺体は守れない」
「ここに置いて行け!」
「皆、稜線をただ走れ、逃げろ、生き延びろ!」
「もう、パーティ・メンバーすら気にしなくていい」
「一人でも、少しでも、遠くまで走れ!」
呼応するように、ルシアノ、カシアス、ロッキー、ジョー、ベルリネッタ、パーシモンがギャレットの元に駆け寄る。
「パーシモン!お前は若過ぎる!」
「皆と早く逃げろ!」
「口答えは一秒も許さん!」
普段、狩りを共にするロッキーが、パーシモンに逃走を命令する。
パーシモンはただ頷き、先輩の言いつけに従った。
ルシアノが、ギャレットの次の行動を知り尽くしているかのように、
「ギャレットだけに英雄になられてたまるか!」
「なぁ、みんな!」
残りのパーティ・リーダー達が口角を吊り上げ、同意する。
「馬鹿共め、でも、有難いよ」
六人が並んで盾を構え、怒鳴るようにスキルを叫ぶ!
「ヘイトォオオオオ・オーラァアッ!」
剣で盾を打ち鳴らし、広域誘導術式ヘイト・オーラが数百体ものオーガに届く。
「こっちにこいよ、化け物共!」
ベルリネッタは、腰をくねらせお道化てみせる。
「私を捕まえてごらんなさい?」
何体そこにオーガがいるのかはわからない。
だが、その八割以上の数をたった六人のタンカーが吸収する。
「おお、上出来だな、じゃあ、お前ら、先に向こうについた奴の奢りで飲み明かそうぜ」
ギャレットは泣いていた。
自分ひとりでやるつもりだったことを見抜かれていた。
ひとりだけでは、これ程多くのオーガを釣ってレイド・メンバーの逃走を助けることなど出来なかっただろう。
完全に追い詰めたと思った敵に、まんまと逃走を許した『三日月』は、ヘイト・オーラから逃れたにも関わらず冒険者を追わない個体を、苛立ち紛れに文字通り捻り潰した。
・・・
今回の衝突、数の上では人間側の圧勝なのだ。
だが・・・
ベースキャンプに逃げ込んだレイドメンバーが、ポーター達に状況を知らせる。
魔石の入った革袋だけを抱え、ベースキャンプは放置され、皆、走れる限界まで走った。
逃げ果せた誰もが、皆、敗北を認めざるを得ない。
ザグレブホーンの名立たるタンク達を失い、メンバーが一人殺され、『三日月』本体どころか、その群れは健在。
もし、アイシャ達の掴んだ情報があれば、上手くいったかと言えば、恐らくは無理だろう。
『三日月』の集落に足を踏み入れたならば、生きて戻ることは叶わない。
それ以前に、中型、大型の群れと接触してしまう危険も大きい。
現実に起きなかった『たら、れば』を考えても詮無きことだが。




