巨人の集落
ザグレブホーンの広大な原生林の向こう。
ついに三人はハイランド・オーガ『三日月』の拠点を発見した。
未だ『三日月』そのものとは遭遇していないが、最早、疑いようもない。
冒険者がフィールドでハイランド・オーガの雌個体を発見することは非常に稀だが、此処に存在する雌個体の密度は、半端ではない。
素朴ながらも『村』のような区画があり、更には井戸までが作られている。
この場所は恐らく『三日月』だけでなく、その他のオーガも集う集落なのだ。
その基盤となっていたのは、朽ち果てた旧文明の遺産である巨大な廃墟だった。
天然の落石にはありえない人工的で巨大な石の数々。
但し、それは集落の中心付近にしか残っておらず、やはり長い歳月で殆どが風化してしまったようだ。
旧文明が滅びてから、数千年とも数万年とも、或いは千年足らずとも言われるが、極めて頑強な金属の骨組みや、此処にあるような整形された石の塊。それだけが時間を超えた。
建物として機能するような建造物は残されていない。
しかし、全くの平地から集落を作るより、絶対的な近道であることは容易に想像出来る。
「雌個体が、うじゃうじゃいるぞ・・・まぁ、そりゃ何処かにいなきゃおかしいんだが」
「こんな光景は初めて見る」
「恐らくこの場所に人類が踏み込むのは初めてなんじゃあないか?」
イザベラが小声ながら感慨の声を漏らす。
「多分、そうだろうね」
「下手すれば魚類の一部の種みたいな性転換する亜人とも考えられていただけに」
「これは学術的にも非常に価値のある発見ね」
雄個体の殆どは、『三日月』の直縁のようだが、雌個体の文様には多様性が見受けられる。
近親交配の影響を少なからず忌避しているのだろう。
「此処までくれば、後は殲滅戦の開始日を待つだけ・・・」
イザベラは続く言葉を失った。
「いた!」
まるで王侯貴族のように『三日月』は悠然と歩く。
その行く手を阻むことが重罪であるかのように、雌雄関係なく他のオーガは道を開ける。
血塗れのハイランド・ディアーを引き摺らせ、集落の中央でそれを他のオーガの前に放り捨てた。
大型の雌個体が、それを拾い血抜きを始める。
周辺のオーガ達は、手を叩き、まるで英雄を褒め称えるかのように空に己の武器を突き上げる。
そこには歌があり、言葉があり、社会性があった。
当初、二百と目論んでいた『三日月』の群れの総計は、実にその倍以上。
何故ならば他の血縁の個体、そして膨大な数の雌個体が上乗せされたからだ。
三人は、抜け目なく集落を観察した後、敵に視認される前にこの場を離れることを決めた。
此処まで来れば問題ないという地点まで、足早に戻ると、イザベラが切り出す。
「おいおい、こりゃあ、激戦必至じゃあないか」
「正直、三人の手に余ると思うんだが」
ロザリーも同調する。
「二百じゃなくて、五百ね・・・一人百七十がノルマ」
「口笛吹きながら倒せる数じゃなくなったよ」
アイシャだけが、何故か顔色を変えずに淡々と言い放つ。
「『琥珀』は絶対に呼ばないよ」
「コレは私たちの獲物だ」
「激戦必至?ここまで辿り着くだけでも、私一人では為し得なかった」
「私は、二人を信頼しているんだ」
アイシャの目には強い意志が滾っていた。




