ヘイトと魔眼
アイシャが山小屋を拠点として斥候の活動をしている間、二人は別々に行動していたようだ。
イザベラは他の地域よりも前倒しで始まる徴税の準備。
ロザリーは、なんと慈善活動で孤児院を訪問していたらしい。
急に姿を消したアイシャは、シャアリィに捨てられ何処かに籠っているという噂が流れていたのだから、平気な顔で本人がギルドに立ち寄った際に、
「酒を奢るから飯でも行かないか」
という誘いの多さに、アイシャは辟易した。
一方のシャアリィは、今日もアンソニーと一緒に迷宮で乱獲の最中らしい。
「たった一週間なのに、久しぶりに感じるね」
「首尾は順調かね?」
アイシャの白毛の耳は、ここでは無二のトレードマーク故に、ロザリーはすぐに見つけた。
今となってはお目付け役のようにロザリーについて回るイザベラもアイシャの元にやってきて、
「ふむ」
「その表情は、良い知らせと悪い知らせ、両方だな」
「此処で話しにくいならば、何時もの店で夕刻から飲もうじゃないか」
相変わらず目敏い二人に同意し、夕刻までの間、アイシャは、近くにある温泉に行くことにした。
疲れと汚れを落とすには、この世界でも温泉に代わるものはない。
水浴びをしたくとも、黄金地帯のど真ん中で無防備になるわけにもいかず、森の湧き水を得るにも有毒種の危険があり、結局、雨水しか使えなかったのだから。
まだ、日も高い夕刻から、この一週間の報告会が始まった。
山鳥亭の賑わいは、密談にちょうど良い。
近くのテーブルにさえ注意を払っていれば、雑多な音に会話はかき消される。
「どちらから聞く?」
と、アイシャが自身の手にいれた情報の価値を暗に二人に伝える。
「お約束としては、良い方からね」
ロザリーの意見に異論を挟むこともなく、イザベラも頷く。
「もしかしたら、イザベラあたりは既に知っている情報かも知れないが」
「奴の群れを識別する方法を手に入れてきた」
二人は驚嘆し、前のめりになる。
「そんな方法があるなんて・・・」
と、イザベラは素直に驚嘆し、ロザリーは、
「オーガなんて、どれも一緒に見えるね」
と、訝しげだ。
そこでアイシャは、判別方法の種明かしをした。
どうやら、イザベラも、ロザリーも一度は文様の意味を考えたことがあるらしい。
だが、大したことではないと忘却し、殺戮に専念していたのだ。
「悪い方の知らせは、それがわかったとしても群れの中心まで戦闘を最小限にして辿り着く方法が浮かばない」
ロザリーは首を捻り、イザベラはそれがどうした、という顔だ。
「会敵したら、私たちが片っ端からオーガを集めれば済むのだろう?」
「そんなこと、造作もないさ」
「敵を惹きつけるのはロザリーだけの専売特許じゃあない」
「私にもヘイト・コントロールのスキルくらいあるんだ」
「騎士の基本にして、神髄、使えないほうがおかしいと思わなかったのか?」
「普段は大剣だが、そういうことならばレイピアと盾にするよ」
ロザリーも呆れた。
「以前、イザベラも言った通り、私とイザベラだけでも鏖殺は可能」
「最大級の発見をしたのだから、アイシャは大船に乗った気でいればいいね」




