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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
183/450

文様

アイシャが『三日月』の群れの追跡を初めてから一週間が経過した。


時間的な余裕もあることから、探索範囲を最大限に広げようかとも思ったアイシャだったが、追跡初日から大きな発見があったので、それを頼りに追跡することに切り替えた。


ハイランド・オーガは、他の亜人と同様に、その身体に文様を刻んでいる。

ゴブリンでも、オークでも、タウロスでも、アラクネでも、ラミアでも、それは同様だ。

ゴブリン・ジェネラルのように、ただの装飾であることもあれば、アラクネやラミアのような強力なエンチャントの術式である場合もあり、一概に文様の機能は同一とは言えない。


そして、ハイランド・オーガのそれは、個体同士の主従や血縁関係を示すものであることが、アイシャの観察によって判明した。

同じ文様を持つハイランド・オーガには、何らかの繋がりか、共通の役割が存在する。

人間が見て、左肩に逆三角形のような文様を持つ個体は、比較的小柄で戦闘能力が低そうに見えることから、いわゆる下層のオーガであると見られ、その三角形の周囲に追加の文様を持つ個体は、少数のリーダー個体。

さらに複雑な文様になれば、それ以上の存在ということが理解出来た。


顔に文様のある個体は、十体程度以上の群れの統治者個体。

そして右の肩から胸に掛けて彫られた文様こそが、血縁関係を示すものだと予想される。


アイシャが多数のハイランド・オーガを観察した中で、その文様に多様性が感じられないことから、装飾のためのものではなく、何等かの意味を持つものだと推測し、的中した。


もしも、群れを構成する要素が血縁関係だとするならば、最も数の多い文様の個体が『三日月』のグループに属する個体であるという疑いが濃厚になる。

こうでもしなければ、広大な生息域を虱潰しにしながら、会敵や戦闘をなるべく避けて『三日月』の所在を探すなど、藁に落ちた一本の針を探すようなものだ。


そうなれば、済し崩し、会敵する敵を片っ端から殲滅し『三日月』を炙り出すようなやり方をも検討しなくてはならない。


だが、そうなれば二百もの群れの統率者が簡単に姿を現すとは思えない。

どんな亜人でもそうだが、彼らは人間が考えている程に知能が低い存在ではない。

ラミアやアラクネに至っては、人間を凌駕する戦闘術式すら備える魔物だ。

言語の複雑さだけが、知能の水準と勘違いしてはならない。


文様を追う方法が、極めて有効なのは会敵を極限まで減らすことが出来るからだ。

アイシャの視力であれば、三十メートル先の個体の文様を判別することが出来る。

そうして観察を続け、統計によって浮かびあがった右肩の文様は、やはり極めて目立つ、特殊な形。


『V字』型だ。


地道な統計作業から割り出した七日間の成果。

アイシャはついに『三日月』配下の個体を識別出来る方法を得た。


しかし、実際には此処から正念場。

二百ものオーガが生息する中央まで、歩を進め、実際に『三日月』を確認する作業が残っている。


気配遮断というスキルは、透明人間になれるスキルではない。

視覚を衰えさせるような効果は全くなく、聴覚と嗅覚、感熱感覚を欺瞞し、発見を遅らせるスキル。

その根幹は、代謝制御・・・つまり、呼吸や発汗、心拍、体温の抑制と特殊な歩行技術。


混み合った群衆の中ならばいざ知らず。

目の前を通れば当然のように見つかるし、相手の先制攻撃を許すことになる。

森林限界よりも標高の高い遮蔽物の少ないエリアでは、これまでのように会敵を避け続けるのは不可能なのだ。


よって、アイシャの選択は二つ。

イザベラ、ロザリーに増援を頼むか・・・

或いは、より中心域まで進むために、武装するか・・・だ。


但し、武装すれば最初の戦闘こそ完遂出来るが、そこから先、オーガの血臭は欺瞞できず、気配遮断は無意味となる。


「一度、二人に相談したほうがよさそうだな」


そう、アイシャの斥候は手詰まりとなった。


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