仲直り
――― 初めての恋というのは、どんなに短く、儚くても。
痛みや羞恥に塗れていようとも。
誰もの心に鮮烈に残るもの。
初めて見るものが全て眩しかった幼い記憶を上書き出来る強力な魔法。
恋する前と、恋した後では、何もかもが違って見えるのだから。
この世界で出会えるひとの数は、お世辞にも多いとは言えない。
けれど、初めての恋は、確率なんてものを呆気なく飛び越えて目の前に現れる。
何が、何処が、どんな風に好きか。
そんな余分なことを考える間もなく、ひとは恋に落ちるもの。
過ぎてみればくだらなかった、と、繰り返し思ったとしても。
感情の嵐に舵を失って沈んだとしても。
初恋はひとの記憶の深い場所で、何時までもずっと残り続ける。
シャアリィが泣き止んだ後、二人は山鳥亭を出て、程よく賑やかなバーに出掛けた。
「私は、シャアリィと一緒に旅をする前から、きみに憧れていたんだよ」
「鍛錬、鍛錬で、私の身体はこんなふうに筋肉がついてしまってるだろう?」
「きみのように可愛らしい女の子だったなら、どれ程、幸せだったか、とね」
今日のシャアリィは、本当に綺麗だ、と、アイシャは何度も思った。
「えー、アーシアンの頃なんて、私、寝癖のついた髪のまま、だらけた生活してたんだけどなぁ」
「人の好みなんてわからないものね」
「私は、だんだん・・・そうね・・・千本足を倒した頃かな?」
「自分の気持ちに気付いたのは」
「あ、私、このひとのこと好きだーって」
「でも、やっぱりフローズン・ドラゴンのこともあるから、手放しで甘えるには随分時間が掛かったよね」
今となっては笑い話だが、思い出せば互いに命を預けあったのは、アレが最初だ。
全身全霊の一撃。
後にも先にも、たった一度の暴挙。
「シャアリィ、仲直りに依存はない?」
「今、言いたいことがあるなら、何でも聞いておくよ?」
アイシャが慎重にシャアリィの意志を確認する。
シャアリィは、天井を見上げて暫く考え込んだ。
「折角だから、もう少しの間、別々の生活がいいかなって」
「実はね・・・アンソニーに告白されたんだ」
「別に八方美人したいわけじゃあないんだけどさ」
「多少はノーマルなお付き合いというものをしてみてもいいかなって」
アイシャは、口をあんぐり開けて、じっとシャアリィを見つめる。
「それって弄んでるんじゃないのか?」
「元々サディスティックな性格だと思っていたが、ちょっと驚いた」
「程々にしといてあげないとね」
「間違っても全財産貢がせるような真似はしないように」
誰がシャアリィに熱を注いだ所で、明日になれば、皆、気付いてしまうだろう。
結局、元の鞘に収まるだけの話。
ただ、こんな辺境の街では娯楽も限られている。
可哀想なアンソニーは叶わぬ恋を暫くの間、追いかけることになるのだ。
トラウマを残さなければ良いのだが、と、アイシャは思った。




