今、私は
子気味よくグラスを合わせて、一口、酒を喉に流し込めば、冷えたソーダの炭酸が喉を焼く。
そして広がる爽快感。
夕暮れ近い空とは言え気温は30度を超えている。
それもついさっきまで決して短くはない帰路を汗ばみながら歩いて来たアイシャには一杯のカンパリ・ソーダが痛快な程に旨い。
「ふふっ、この一杯のために生きてるーって顔になってるよ?」
シャアリィが微笑むとなおさら美味しく感じる。
「じゃあ、料理を頼もう」
「オススメのものがあれば・・・でも、魚の気分じゃないから、魚はナシで」
何度もアイシャが山鳥亭を利用していることから、シャアリィは良い店なのだなと思っていた。
「シャアリィは鶏肉が好きだったね」
「此処の鶏は沢山種類があるけれど、うっかり強烈なジビエを頼むとひどい目に遭う」
「オススメは、揚げた鶏にマスタードソースを掛けたやつ」
「それとね・・・吃驚なんだけど、ハイランド・オーガのステーキが旨い」
「出所さえ気にしないなら、是非、食べてみてほしい」
アイシャのオススメに興味を示したのか、シャアリィは『じゃあ、まずはソレで!』と同意した。
「そういえば、アイシャ、黒猫のチョコレートかキャラメル持ってない?」
「ついに最後の一つを昨日食べちゃってね」
「あの甘味が恋しくて・・・」
残念ながらアイシャも、あの絶品の甘味を切らして一週間程になる。
「ああ、私も、もう持ってない」
「ごめんよ・・・此処に来てからずっと狩りばっかりだから、商店巡りもしてないんだ」
シャアリィも似たようなものだけに、言い返す言葉もない。
・・・
こうして表に出て食事を摂ると、ファイヤー亭の料理が本当に美味しかったことがよくわかる。
アレックスの料理は、少しだけ野暮ったい所が安心出来るのだ。
山鳥亭の料理は確かに美味しく、品揃えにしても辺境の街を感じさせない程に多い。
一流レストランとまでは言わないが普段使いにするには申し分ない。
小腹を満たした所で、やっと、まともに話が出来そうだ、と、アイシャは思った。
「シャアリィ・・・私は答えを得た」
「だからと言って、シャアリィを急かせるつもりはないよ」
「それに氷結耐性の取得も、まだまだ完全ではないし」
「そっちはシャアリィの方が、ずっと先を行ってることも知ってる」
その言葉を聞いたシャアリィがアイシャに告げる。
「私は・・・自分が少しばかり異常者なんだって気付いた」
「この街の迷宮で、一度のミスもせずに狩りを楽しんでいる自分に呆れることさえない」
「アイシャのことさえ考えなければ、私は精密な殺戮者でいられるんだって、ね」
「でもね・・・この歯車は永遠には廻り続けない」
「突然、あの時のような不運に見舞われて、全部失うんだっていう予感がある」
シャアリィは顔を伏せて震えながら零す。
「私は、一人で死ぬのは嫌だ」
「何時かアイシャは自分のことをエゴイストと言ったけれど、私だってそうだ」
「あなたへの愛を口にしながらじゃなきゃ、まともじゃいられない」
「一人眠る時、音のない胸のせいで深い眠りにつくこともない」
「こんな私でいいの?」
「その解答が怖くて、今まで一度も聞けなかった・・・」
アイシャは気付かぬうちに、シャアリィの髪を撫でていた。
「きみじゃなきゃダメなんて、思考を放棄したことは言わないよ」
「でもね、シャアリィ」
「きみは何時も、私のために命を投げ出してくれたじゃないか」
「私の代わりに嫌な役目を負ってくれたじゃないか」
「命の対価に見合うものは、命しかないんだよ」
「今、私は、きみが誰よりも好きなんだよ、シャアリィ」
テーブルの下で、そっと。
アイシャはシャアリィの手を握った。




