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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
178/461

気象と対処

斥候として活動する際、厄介な条件になりがちなのが気象状況だ。

旧人類が使っていた気象観測資料は、この世界ではアテにならない。

永劫のような時が流れ、地形、気流は随分と変わった。

それは気温や降雨を主とした気象が、旧世界とまるで異なることを意味する。


だが、気象原理は旧人類が残した書物が役に立っている。

気流の条件と高低差によって雨量に大きな差が出ることや、砂漠化の要因等。

新文明当初のような『雨乞い』をするような部族は、辺境の亜人くらいだろう。


「高山地帯が厄介なのは、降雨、時には降雪」

「私たちは温度の低下に極めて弱い」

「だが、ザグレブホーンのフィールドに生息する魔物は、その逆だ」

「その身が物理的に凍りでもしない限り、少々の低温で動きを鈍らせることもない」

「幸い、降雪が重なるような時期ではないが、雨はもっと厄介だ」


イザベラがザグレブホーンという地理を説明する。


「私たちの装備で雨を凌ぐものと言えば防水布だが、高山地帯では凍り付くこともある」

「防水布でさえ凍るのだから、それが我々の身体にどれ程の影響を与えるか想像が着くだろう?」

「例え氷結のような状態でなくとも、気温が十六度を下回れば、低体温症で活動不能になる場合もあるだろう」

「真夏の日差しが降り注ぐ場所でこそ三十度程度まで上昇するが、気温が落ちるのはあっという間だ」


真夏に低体温症。

それはアイシャの常識外の情報だ。


「身体がズブ濡れになったのなら、すぐに火を起こして乾かせばいいって?」

「斥候の最中にまさか、焚火にあたるような間抜けではあるまい?」


じゃあ、どうしろというのだ。


「少々、荷は嵩張るが着替えを持ち歩くんだ」

「少しの雨や、霧にも注意を怠るな」


至極、真っ当な対処だが、舐めて掛かれば疎かにしがちなことだろう。


「魔物の生息域の反対側では、夏季には登山を楽しむ連中もいる」

「だが、山が一度牙を剥けば、人間の命の実に儚きことか」

「背負って行動出来る限界まで準備した所で、下山よりも確実な延命方法はない」


改めて説明されなければ、アイシャ自身見落としていただろう。

恐ろしいのは雪だけではない、雨、風、霧、雲が落とす影さえもが命を落とす要因に繋がる。

このザグレブホーンという場所では、フィールドよりダンジョンのほうが安全だと言っても過言ではない。


「詳しく語ることではないがね」

「私自身、この高原地帯では手痛い思いを何度もしてきたんだ」

「時には一度に、数十名もの同胞を失うこともあった」

「まだ、統治者として日も浅い頃、スノウ・ウルフの群れに遭遇したんだ」

「雪の中の戦闘、悪天候、それがどれほど人間にとって過酷なものか」

「私は、自身の身を持って知っている」


アイシャは無言で大きく頷き、イザベラに感謝する。


「斥候はその役割からして、持てる装備が限られている」

「だからこそ、より十分な知識でそれを選ばなければならない」

「そして、状況が変われば、或いは変わる前に次の行動を取る」

「そういうことが如何に重要か、肝に銘じておくよ」


地図を広げてから、たった半刻。

説得力のある教訓は、この至宝の部屋にいるからこそ真実味を増す。

あらゆる情報が閲覧でき、意見を交わすことがこれほどまでに有意義だと感じたことのないアイシャだった。


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