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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
177/479

高原の魔物たち

テーブルの端に座ったアイシャの前に、三冊の本と高原地帯を含む地図が置かれた。


「魔物図鑑、地理解説、気象解説と、地図か」


イザベラが丁寧に一辺が腕の長さ程の正方形の地図を広げ、その端を鉛製の装飾駒の重しで固定する。


「この地図の原版は領主の所に行けばあるし、多少の費用は掛かるが追加で印刷も可能だ」

「だから、直接、地図に書き込みを入れて貰って構わない」

「極論、隅っこに落書きをしても目を瞑ろう」


イザベラは、そこで呼吸を整え、重要な扱いをアイシャに伝える。


「但し、紛失だけはしてくれるなよ?」

「この領地を切り開いた数万の人間の労力、そして、測量、修正」

「どれ程の時間と手間、そして膨大な費用が掛かったか」

「理解してくれると思うが、この地図は、我々、統治者の共有財産なのだ」

「此処に一人いるような狼藉者の手に渡り、悪辣な商売をされたり、他国の者の手に渡るような最悪の結末は避けなければならない」


現在こそ戦時中ではないが、火種は世界中のありふれた場所に潜んでいる。

攻めるべき領地の精巧な地図など、それ自体が火種になるやもしれない。


「焼失、欠損、全損、多いに結構」

「だが、紛失や譲渡、売却を故意に行えば、私の刃でお前の首を落とすことになる」

「それを肝に銘じておいてもらいたいのさ」


己に向けられた狼藉者という言葉の痛痒もないかのように、ロザリーが大雑把に地図の一部に囲みを入れる。

山岳地帯中高度から湖付近、高原の三分の一程が囲まれた。


「私が知る限りでの、ハイランド・オーガの生息地帯」

「多少の狂いはあるかも知れないが、そこはイキモノである以上、仕方ないね」

「オーガの生息域の中では、他の魔物はそれほど多くない」

「魔物以外の動物は、オーガの生息域に左右されず、何処にでもいる」

「勿論、標高が高くなる程、オーガも魔物も減る傾向」


それに対してイザベラが、一つ例外を述べた。


「この地方のグリフォンだけは別だがね」

「奴らは標高の高い低いに関係なく、巣穴に適した場所があればそこを拠点にする」

「有毒ガスが発生する火山の火口だろうと、隕石で出来た窪地であろうと」

「人間よりも遥かに長命の魔物でありながら、繁殖力は絶望的に低い」

「だからこそ、うっかりテリトリーに入って雛の安全を侵害するようなことがあれば、彼らは容赦なく襲ってくる」


ロザリーが先ほどの囲みに『orge』と走り書きを添えた。

そして、もうひとつ地図に囲みを書き入れる。

その囲みは森林と山肌の境界から、湖周辺に大きく描かれ、『golden』の文字を書き入れた。


「このエリアは、スノウ・ウルフとハイランド・ベア、ハイランド・ディアー」

「他にも様々な哺乳類型の魔物が多く潜む黄金地帯(ゴールデン・エリア)

「オーガの生息域とも重なる部分が多いけれど、実際はオーガが狩りのために足を延ばしていると見られているね」

「よって、夜間に限れば、遭遇の危険性が高いのはスノウ・ウルフ」

「陽が出ている間ならば、どんな魔物や動物と遭遇しても不思議はない」


イザベラが森についての危険度をアイシャに説明する。


「森林限界付近の針葉樹と違い、樫、楓、檜が雑多に混ざり生い茂っているのがザグレブホーンの森の特徴だ」

「旧人類時代から原生林と考えて差し支えない」

「故に冬以外の時期には、両生類、爬虫類に近い魔物が散見される」

「いわゆる有毒種(ポイゾナー)だな」

「迷宮内で出会うような毒は、多くの場合、出血毒、麻痺毒だが、奴らの使う毒はもっと凶悪で致死率が高い」

「神経毒、腐敗毒の類で相手を殺し、溶かして啜る」

「一見、森林を進むのが斥候として正しい在り方だと認識しているかもしれない」

「空からの追跡者がいる場合、特にグリフォンのような神獣手前の強力な敵が何時飛来するかわからない場合には、森を進みたくなる」

「だが、この地方に限れば、森の中を突っ切るようなことは推奨しないよ」


アイシャは、自分の認識の甘さに意図せず喉を鳴らせた。


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