ハッピー・バース・デイ
喧嘩中。
だから、どうした、と、アイシャは開き直った。
二人は未だ互いの誕生日を祝ったことがないのだ。
思いついてしまった以上、自分を偽ることは難しい。
「シャアリィ」
不意に呼び止めたアイシャも、呼び止められたシャアリィも、あの頃のような笑顔ではない。
ただの顔見知りに呼び止められたかのように、シャアリィは面倒そうに頭を掻いた。
その仕草が示すものは拒絶。
しかし、言葉が続いた。
「アイシャ・・・元気にしてるの?」
その言葉にアイシャの表情が崩れる。
大して感情のこもっていない言葉でさえ、涙が出そうになる。
「ああ、問題ないよ」
「実はちょっとした提案があるんだ」
シャアリィは、『三日月』狩りのことかと思い、身体を強張らせた。
自分の中でもアイシャのパーティが『三日月』を単独パーティで狩ることに少なからぬ拒否感があるからだ。
例え誘われた所で今更ではあるし、断るつもりだが、その言葉を用意していなかった。
「一緒に食事・・・じゃなくて・・・だけじゃなくて祝わないか?」
「私達は未だ互いに誕生日の祝いみたいなことをしたことがない、から」
アイシャが何を言っているのか、シャアリィには一瞬わからなかった。
ただ、レイド・パーティへの誘いをどんな言葉で断るかしか、思考が巡っていなかった。
だから、思わず、遠慮するわ、と、言い掛けて慌てて言葉を飲み込んだ。
「やっぱり、まだ、一緒にいるのは嫌だろうか」
此処が冒険者ギルドだと言うことも忘れ、アイシャの視線にはシャアリィしか映っていない。
ただ、以前のように、柔らかな髪を撫でることが叶うのであれば、この瞬間、欲しいものなど何もない。
二人の間に緊張が高まり、ついにシャアリィは耐えられなくなって吹き出した。
「いいよ。一度、休戦だね」
「その代わり条件がある」
「私は、まだ、自分の答えに至っていないんだ」
「だから、必要以上に求められても応えることは出来ない」
「それを理解してくれるなら、一緒に食事に行こう」
まるで告白が成就した少女のように、アイシャの顔が赤く染まって、小さなガッツポーズを取る。
これから一ヶ月も経たないうちに、かつてない程の暴力を振るう少女であることなど、誰が見た所で信じられない。
「ありがとう」
「明日、夕方四時に此処で待ち合わせでいい?」
さすがにシャアリィは、苦虫を噛み潰した顔をした。
「アイシャ・・・待ち合わせは夕方六時、場所は、あなた達が溜まり場にしている山鳥亭」
「冒険者ギルドでデートの待ち合わせするバカなんて、見たことないんだから」
「もう少しくらい、しっかりしてよね?」
喜びの顔のまま、アイシャの顔色が羞恥でさらに赤く染まる。
それを見ていた受付嬢の、『よかったね』の、一言で居たたまれなくなったアイシャ。
走り去ろうとしたものの、開けていない扉に阻まれて焦って尻もちをつく。
「あは、あはは、じゃあ、シャアリィ、明日ね?」
アクシデントから逃げるべく、急ぎ足で帰るアイシャを見送ったシャアリィが、ぽつりと呟く。
「私がいないと、アイシャは駄目ね」
その表情は、今まで誰にも一度も見せたことない優しい微笑みだった。




