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20/21

2月中旬のバレンタイン

 2月中旬、あの店長代理による騒動もようやく落ち着いてきたところだ。やっと一息ついてきたミハラ薬品松野宮店だ。

「相井くん、お菓子の補充頼んでいいかな」

すっかりインフルエンザから復活した店長からお菓子の補充を頼まれた。僕は早速台車に乗せて仕事に取り掛かることにする。しかしながら補充するお菓子には何やら偏りがあるようで・・・

「チョコ系ばっかだな・・・おい」

台車の上のお菓子はチョコが中心、千佳の好きな一口チョコはもちろんのこと板チョコも大量に入荷してある。それだけでなくクッキーもチョコチップを散らしたり挙げ句の果てにはポテトチップスにまでチョコが塗ってある。

「そろそろバレンタインですからね」

通りかかった六倉さんが気づいたのか僕に補足の説明をしてくれた。確かにそろそろバレンタインの時期だ。少し気の早い気もするがお店というものは基本的に季節を少し先取りするものだ。

「バレンタインか・・・」

「進さんは千佳さんから貰ったりしないのですか?」

ぐっ・・・そんなことを言われてしまうと今までのバレンタインを思い出してしまう。

「今までのバレンタインは逆チョコだったんだよ・・・」

千佳は言うまでもなくチョコが好きだ。チョコさえ貢いでいれば機嫌がとれるほどである。そんな千佳が僕なんかにチョコを渡すはずはない、つまり今までのバレンタインは僕が逆に千佳にチョコを渡す日なのだ。

「ち、千佳さんらしいですね・・・」

「今日買っていこうかな・・・一口チョコ」

多分こだわりなんかを入れずに一口チョコを10袋くらい買えば済むはずだ・・・本当にそれで済めばいいのだが・・・



 バレンタイン当日がやってきた。僕は当然一口チョコ10袋をこれまた綺麗にラッピングして学園に持っていった。30個くらいでひと袋になっているこのチョコ、当然持っていくにはかさ張るし何より目立つ。タチの悪いことにバレンタインなわけだから周りからは僕が貰ったと勘違いされてしまうのだ。僕は周りからの「リア充爆発しろ」的な視線を何度も浴びながら登校した。もう何年もやっている行動なので慣れが来てしまっているのが恐ろしい。

「偉いチョコだな進・・・千佳からか?」

案の定教室に入ると大地が勘違いで家化してきた。

「大地よ、あの千佳がチョコを・・・こんなに大量に渡すと思うか?」

「じゃあそれは・・・」

「“千佳から”ではなく“千佳へ”だ」

大地は幼馴染ではあるが再開は数年ぶり、流石に僕が毎年チョコを貢いでいるとはしならないだろう。

「おはよーございます!」

そしてやたらテンションの高い千佳が登場、誰が見てもわかるようなスマイルをあたり全体に振り回している。

「はっぴーばれんたいん・・・ホレ」

「棒読みね・・・まあいいけど」

とりあえず無事にチョコを渡すことができた。

「本当に貢いでいるのだな・・・」

そして大地は痛い視線をこちらに送っていた。その目は本当に痛い、痛すぎる。

「千佳・・・それ全部食べる気か?」

「食べるに決まっているでしょう」

本当にこの量を食べる気なのか!千佳には毎回大量のチョコを貢いでいるが本当に全てを食べているのだろうか?カロリーうんぬん以前に鼻血でも出してしまいそうな気もするが・・・

「太るぞ・・・」

大地・・・それは禁句だぞ!

「ハッハッハッハ~大地よ!私の胃はチョコレートのみカロリーごと消化するのだ!」

あっ予想よりも千佳の反応がマイルドだ。よかったよかった・・・

「そういうわけだからさっき進からもらったチョコの10倍もらおうか・・・」

「進、さっき千佳にどれくらい渡した?」

大地が表情をニュートラルにしたまま訪ねてくる。これは同様をかさぶたで誤魔化している感じだ。

「10袋だよ」

「100袋ォォォォ!!」

僕と合計して110袋、多分300袋くらいになってしまうだろう・・・1日1個でも食べきるのに1年かかる、チョコは割と日持ちする食べ物だが・・・食いきれるのだろうか。

「確かに賞味期限が心配ね・・・大地、1月に10袋ずつで」

「うぎゃああああ!!めんどくせぇぇぇぇぇぇ!!」

あ、多分これで僕が千佳にチョコを挙げる必要がなくなるかもしれない。面倒事がなくなるのは嬉しいがなんかちょっと淋しい。


「えぇっと・・・今、大丈夫かしら」

聞きなれた声に教室の入口を見るとなんと白沢先輩がいた。

「白沢先輩!どうしたんですか?」

「今日はバレンタインよ、これ以外に用事があるかしら?」

白沢先輩の手に持っているのはなんとチョコ!小さい箱を2つ持っていた。

「はい進くん、藤和くんも」

「あ、ありがとうございます」

まさか白沢先輩から貰えるとは思っていなかったので面食らってしまった。これはホワイトデーの時にしっかりお返ししなければならない。

「試験監督の時とか色々お世話になったから・・・」

「いや、むしろお世話になっているのはこちらです!」

大地まで面食らってペコペコとお辞儀している。白沢先輩とは身長差もあるので見ていて結構面白い。

「あぁチャイムが・・・短くなっちゃったけど私は帰るね」

「「ありがとうございます!」」

僕と大地は90度でお辞儀した。生徒会長直々に貰えるなんて大変名誉だ。

「進と大地が姫梨先輩から貰うなんて・・・」

「どうした?」

正直、ニヤケが止まらない顔で千佳の目線に入ってしまった事を事後になってから気がついた。

「別にぃ、ほら!授業始まるよ!」

やっぱりちょっと拗ねたかな・・・




 一連のチョコ騒動もひとまず収まり(結局大地が渡すチョコは僕と同じ10袋で落ち着いた)放課後になって僕は本日、普通に帰って宿題でもしようかと思った。本日はバイトもないため、本来の僕であるならば宿題を真っ先にするところなのだが・・・

「あっ相井さーん」

普段の僕の普段のスケジュールはバイト先の仲間によって崩れた。

「六倉さん、どうしたんですか?」

「あ、いえ・・・これからお時間ないかと思いまして・・・」

「あれ、でも進のことなら・・・」

長い付き合いでしかも同じクラスである千佳は僕の放課後の行動が読めていたらしい。宿題が出ていてバイトがない日はとっとと帰って宿題を終わらせる。

「いや、大丈夫だよ」

確かにいつもなら宿題をするところだが・・・六倉さんに誘われてしまったら断るわけにはいかない。

「よかったです!急なお誘いだったので心配でした」

六倉さんの笑顔の横で本人に気づかれないように千佳が顔を寄せて耳打ちしてきた。

(進、いいの?宿題やりたいんじゃ・・・)

(宿題は帰ってからでもできるよ)

「あれ、千佳さんどうしました?」

「いや、なんでも・・・」




 そういうわけで六倉さんに連れてこられてきたのは商店街、ちなみに六倉さんに誘われたのは僕だけだったのだが・・・

「なんで千佳まで来てるんだよ・・・」

並んで歩いている僕と六倉さんの一歩後ろを千佳が静かに歩いていた。まるで抜き足差し足で気づかれないように・・・まあ姿が丸見えなのでバレバレだが。

「いや、なんか・・・その」

「嫉妬か?」

「違う!」

「ツンデレ・・・」

「違う!」

おやおや、今回の千佳はやたら食いついてくるな。意見が正反対だ。

「痴話喧嘩はその程度にしてください・・・」

「「痴話喧嘩じゃない!!」」

どうやら今度は意見があったようだ。

「それで今日はなぜ商店街?」

「はい、そういえばまだ私の店に来たことがないなと思いまして・・・」

そうなのだった。六倉さんと出会ってから早くも1年が経とうとしているが未だに六倉さんの家、もとい店に行ったことがない。自宅が商店街のタイヤキ屋なので行こうと思えば行けるのだがなんだか機会がなかった。

「この機会なのでお店に招待しようかと・・・タイヤキ屋なので歩き食いですが」

「この機会?」

バレンタインにタイヤキ?

「まさか香苗ちゃんの所、チョコタイヤキでもあるの?」

「そうなんですよぉ毎年バレンタイン限定で」

タイヤキといえばメインウェポンは餡子、そしてサブウェポンはクリームだ。しかし最近は変わり種のタイヤキも存在する。

「六倉さんのところにもあるのですか」

「いえ、餡子とクリームしかありません。チョコは期間限定ですし」

無いのか・・・ちょっと期待してしまった。

「確かに最近のタイヤキはすごいよね」

千佳が何かを思い出し用に斜め右上を見る。六倉さんの期間限定チョコタイヤキはまだわかる部類だが・・・

「実際に見たことはないけどお好み焼きはあるわね・・・」

千佳が真っ先に思いついたのはお好み焼き・・・それはおやつではなくお惣菜ではないのだろうか。そしてかなりカロリーが高そうでそれだけでお腹がいっぱいになってしまいそうだ。

「私、一度プリンやアイスでも添えてパフェにしようかと思ってお父さんに掛け合ってみたのですが無理と言われました」

六倉さん、これまたボリューミーなものを・・・確かにどこかで見たことがあるような気がするが普通のタイヤキ屋で出せるようなものではないような気がする。というか六倉さん、お父さんに掛け合ったのか・・・

「あ、付きましたよ」

六倉さんのタイヤキ屋は商店街のちょうど中間くらい、ちょっとだけ横道に入ったところにあった。僕も千佳も商店街の存在は知っているし何度か足を運んだこともあるのだが基本的に街の方に買い物に行ってしまうので行く機会が少ない。六倉さんに会うまでタイヤキ屋の存在も知らなかった。

「おかえりなさい、そしていらっしゃい」

六倉さんのお父さんがカウンター越しに出迎えてくれた。夏祭り以降はなんだかんだで1、2ヶ月に1度くらいあっている。

「お父さん、私がチョコ焼くから待ってて」

おや、どうやら六倉さん本人が焼いてくれるようだ。ちょっと期待してしまう。

「昨日から自分が焼くと聞かなくてね、いや珍しい」

「香苗ちゃんは焼いたことあるんですか?」

「何度かあるよ、腕はまずまずだけどね」

まずまずとの響きが気になったが焼いたことがあるなら大丈夫だろう、さすがタイヤキ屋の娘だ。

「あたし・・・邪魔だったかしら」

「何を今更・・・」

「女同士の友チョコに期待!」

これまた何を期待しているのだ・・・


 タイヤキ焼く音と熱気、そして匂いが漂う中、六倉さんはタイヤキを焼いてくれた。焼いたことがあるとはいえ目つきは物凄く真剣だ。その真剣な顔がゆっくりと溶けてきた頃、チョコタイヤキが2つ出来上がった。

「相井さん、千佳さんもどうぞ!バレンタインなのでプレゼントです!」

「あ、あたしもいいの?」

笑顔で渡す六倉さんに驚いた表情で受け取る千佳、僕もタイヤキを受け取って頭から一口頂いた。板チョコを焼いたものだろうか、タイヤキの熱に溶かされたチョコはいい感じに美味しい。ちょっとだけ溶けきれていないチョコがあるがそれがむしろいい感じに歯ごたえを感じて餡子やクリームとは違った美味しさを感じる。

「イケますよコレ、すごく美味しい」

「期間限定じゃなくて年中やってほしい!」

そういう千佳はなんと腹から食べていた。普通頭からだろう・・・

「私はいつも尻尾から食べます」

六倉さんの意見は聞いていない。

「え?あたしはいつも腹からガブリだけど・・・」

「お前は熊か!」

「それは鮭!コレは鯛!」

「鯛ではなくタイヤキです・・・」

六倉さんの的確すぎるツッコミだった。

「とにかく喜んでくれてよかったです!」

「香苗はいつか出来る彼氏のために小さい頃にチョコタイヤキを提案したからな」

「ひっ・・・」

「「そうだったのか」」

六倉さんがいつ提案したのかわからないがまぁなんとも恋のキューピットっぽいというか・・・

「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!」

遂に発狂した。




 六倉さんの店でチョコタイヤキを食べると商店街の街頭には明かり照らしていた。放課後になってから来たので当然といえば当然だ。

「送ってくぞ・・・格好つけてな」

「どうせ通り道じゃない・・・」

まあ確かに商店街から最短で帰ろうとすると千佳の家を通るのだが・・・そこは格好つけさせてくれ・・・

「そんな格好つけの進に・・・」

「ん?」

千佳がスクールバックから取り出したのは綺麗にラッピングされたオレンジの箱、オレンジというあたりがなんとも千佳らしい。そして箱の形はハート型だった。

「これってまさか・・・」

「チョコよ、香苗ちゃんとは違って手作りではないけど・・・進だけなんだからね」

「明日は・・・雪か?」

千佳からバレンタインをもらうのは・・・多分幼稚園以来だと思う。

「中身は生チョコだよ」

「開ける前にネタバレ!?」

そんな皮肉れているところがいかにも千佳らしい、そして生チョコをチョイスするというところも僕の好みをついている。僕はチョコの中では生チョコが好きなのだ。

「まぁホワイトデーに期待しているよ!じゃあね!」

千佳は捨て台詞のように言葉を投げつけてそのまま全力疾走で逃走した。

「僕はホワイトデーのお返しをもらった事がないんだがなぁ」


でも千佳がチョコを上げること自体が成長か・・・今年のバレンタインによるチョコ取得は3人とマイナス1人(千佳にあげた為)平年よりも断然多かった。


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