3月上旬のこれから
3月某日、本日は紅葉学園の卒業式だ。なんだか僕が入学して間もないような気がするがあっという間に卒業式・・・あと数日でなんと2年生です。後輩まで入学してきてしまいます。うわお、これはすごいことに・・・・
「・・・・在校生代表、白沢姫梨」
在校生代表はもちろん生徒会である白沢先輩、在校生代表の挨拶を終えて席に着いた。しかしさすが白沢先輩、代表として立つ場面は今更かもしれないが様になっている。
ちなみに今回の卒業式、なんと準備に千佳が参加していた。入学するときは省エネを心がけるエコ少女だったのだが気がついたら行事にも積極的に参加するようになった。生徒会にも結構顔を出すようになっている。最近は白沢先輩のお墨付きもあって自室生徒会の人間となっている。多分次の選挙には立候補するのではないだろうか?
卒業式は滞りなく終了、卒業生を追い出し・・・送り出して僕たちは教室へ戻った。今日は卒業式ということもあってホームルームを簡単に済まして本日はお開きとなった。
「・・・・寂しい」
千佳は卒業式の片付け、大地はサッカー部の先輩の見送り・・・つまり放課後だというのに話し相手がいないのだ。
「そんな寂しい寂しい言わないでくださいよ・・・こっちまで寂しくなりますよ」
「ふぬぉ!」
教室の人口密度が下がってきた頃、僕の背後にはなんと別クラスのはずの六倉さんがいた。
「変な奇声を上げないでお昼食べましょ・・・」
「あれ?クラスで食べないのですか?」
「みんな帰ってしまいまして・・・」
本日は半日のため大多数の人は帰ってから食べるかどこかで外食をしている。購買部も本日はお休みのため学園内で食べ物を買う手段がないしせっかくの半日なので街中に繰り出したいところだろう。
「相井さんはお昼ご飯ありますか?」
六倉さんの手には小さいお弁当、僕は幸いにも登校途中に昼ごはんをコンビニで買ってきた。普段はこんなことはないのだが千佳も大地も卒業式後はいろいろと忙しいため、あたかじめ昼ごはんを買っておいた。後で一緒に食べようと思ったし。
「ただいま~」
「俺も戻った~」
お、ちょうど戻ってきたようだ。
「私も混ぜてもらっていい?」
「白沢先輩!」
「クラス違うけどいいのでしょうか・・・」
「みんな帰っちゃったしいいんじゃない?」
本日のお昼は大勢によるわいわいとなった。
「さてと、来年は私の番ね」
白沢先輩は弁当箱をカバンにしまうと未来を考えるように目を閉じる。来年になれば僕達は2年生だし白沢先輩は3年生・・・改めて見るとあっという間だ。
「来年はあたしが送りますから!」
千佳がどんとこいと言いたげに胸を張っている。入学するときには見られない光景だけど本当に大丈夫でしょうか・・・
「でもそうなると後輩も入ってくるな・・・誰が入部するかな」
「気が早いな大地・・・」
「来年になれば大会の方も結構出られるだろうし」
今年は1年生ということもあって大地は大会の方にはそんなに出ているわけではなかった。一応スポーツ推薦なので出たことには出たのだがこれといって目立った活躍はなかった。残念極まりないが運動部の本番は2年生からだろう。大地は体格に恵まれているし今後が期待できる。
「私のところにも後輩のバイトが来るでしょうか?」
「店長が募集の広告を依頼したと言っていたしそのうち来るかもしれませんね」
数日前にとある求人広告誌にバイトの募集をする広告を出したと店長が言っていた。
早ければ4月にも新しい仲間が増えるだろう。そうなると学園だけでなくバイトの方にも後輩ができることになる。今度は僕たちが色々と教えるんだろうな・・・
3月の春休みにはバイトずくめだった。途中には工場などで短期バイトもしたので結構稼いだつもりだ。そして3月も終わって4月、新学期はもうちょい先だがバイトは引き続き平常運転です。
「しかし、一年に稼いだのは90万弱・・・」
ちなみに日本のサラリーマンが一生に稼ぐお金は2億ちょいといったところか・・・全然足りてない、具体的には222.22222・・・・割り切れなかった。とてつもなく微妙な感じだ。
「いや、割り切れるとかどうでもいいですから」
六倉さんいたのか・・・そして聞いていたのか。
「そりゃいますよ、ここで働いているのですから・・・」
現在、ミハラ薬品松野宮店・・・シフトイン前でこれから朝礼が始まるところだ。
「じゃあ朝礼はじめるよ~」
店長がやってきたところで本日の朝礼がスタート、内容は大体いつもの通り・・・と思っていたのだが・・・
「それと本日、新しいバイトの子が面接に来ます」
「最後に重要な事をいいますね・・・」
募集をしたとは聞いていたが本日面接だとは・・・恐れ入った。
「1時間後くらいに来るから来たら事務所に通してね」
多分店長自身も電話越しでしか会っていないのでどんな人かはわからないだろう。
「ま、了解しました」
「じゃあ今日もよろしくお願いします」
バイトが始まってちょっとだけ経つと明らかに客ではない人が入口から店内に入ってきた。
「あれ?面接の人でしょうか・・・」
先に気がついたのはレジに入っている六倉さん。
「どうでしょう?」
僕も入口の方を覗いてみるとどこかで見たような顔が・・・
「可愛い子だと思った?残念、千佳でした!」
千佳だった。
「俺もいる」
大地までいた。
「なぜ来たし・・・」
「なんだかんだ来るのは初めてですねー」
「うん、見物に来た」
見物・・・嫌な響きだな・・・
「俺は・・・巻き込まれた」
だろうと思った・・・大地よ、本日が部活休止日だったことを呪うがいい。しかし確かに今まで千佳と大地が来たことなんてなかった。まあいい機会だったかもしれない、動機はアレだが・・・
「ほら、ボサッとしてないで仕事仕事!お客さん来たよ!」
「いや、調子狂わせたのは誰だよ・・・」
千佳はいつまでも千佳のままだった。この一年でちょっとは成長したと思っていた僕が馬鹿だったかもしれない。
「いらっしゃいませ~」
次に店内に入ってきたのはまたしても見知った顔だった。
「あら?今日は知った顔が多いわね」
相変わらず見事なウェーブの髪を揺らしながら白沢先輩が来店してきた。様子から見るに単純に買い物に来ただけだろう。以前にも来たところを見ると白沢先輩の家はこの辺りなのだろうか?
「姫梨先輩!先程はどうも!」
真っ先に飛びついてきたのは千佳、後ろで大地がやれやれと見ている。
「花粉症の目薬買いに来ただけなんだけどここまで揃っているなんて珍しいわね」
白沢先輩は目をこすりながら会話していた。よく見ると目が赤くなっている。花粉シーズン本番には少しだけ早いような気がするが天気予報では既に花粉情報を伝えている。
「相井さん・・・花粉シーズンが来ますよ・・・」
「だな・・・」
店長によれば4月始め辺りから花粉系の商品が飛ぶように売れて忙しいとのこと。僕と六倉さんは本番を過ぎてから働き始めたのでイマイチ分かっていないが慣れていない時期だと考慮しても4月は忙しかった。冬場は冬場で風邪、インフルエンザシーズンで忙しかったのだか春も十分に忙しいのだ。しかし、そんなことを言い始めると年がら年中忙しいと言い始めてしまうのでこのあたりで留めておくことにする。
「バイト戦士は忙しそうだな・・・俺は俺で部活だが・・・」
「大地よ、方向性は違っても皆、苦労しているのだよ・・・」
バイトと部活は全くの別物だが忙しいことには変わりない。そしてやりがいがあるということも変わらないだろう。
「あ、相井さん!あの人が面接の人じゃないですか?」
六倉さんがちょっとだけ背伸びをしながらお店の外をのぞき始めた。確かにお店の外に僕と同じ位の女の子がメモとにらめっこしながら入るか入らないかを迷っている。
「あの緊張している様子・・・間違いないな」
「今日、バイトの面接来るんだ」
千佳も外の女の子を観察するがすぐに視線を元に戻した。
「邪魔しては悪いし私たちはこのあたりで・・・目薬買っていくわね」
「白沢先輩、ありがとうございます!」
白沢先輩は迷うことなく花粉用の目薬を購入した。
「あたしもチョコ買ってく~」
「お前相変わらずだな・・・」
千佳は例え成長しても大元はブレない、そこが千佳クオリティ。
「俺もせっかくだから何か買っていくよ・・・」
「藤和くんはやっぱりプロテイン?」
「白沢さん・・・それはスポーツマンに対する偏見ですか?」
スポーツマン=プロテイン、確かに考えないことはないが・・・白沢先輩、それはボケでしょうか、それとも天然でしょうか?
「相井さん・・・それよりも外の人・・・」
「あ・・・」
忘れてた・・・
「ちょうど決心して入ってきたみたいですし」
おや、遂に例の女の子が入ってきた。僕と六倉さんの着ているエプロンが目に入ったのか・・・また固まった。そしてそのまま2分、ようやく僕たちに話しかけてきた。
「あの・・・面接に来たのですが・・・」
ミハラ薬品松野宮店に新しい風が吹きそうだ。




