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2月上旬の代役

 2月上旬、年が明けて1ヶ月経ちましたがまだまだ寒いです。そうそう、寒い季節といえば風邪の季節でもある。実際、紅葉学園でも休校ほどではないにしろインフルエンザが出ている。それでは今回はインフルエンザにまつわるストーリーをお送りしましょう。


 僕のクラスである1年3組では本日、インフルエンザで2人休んだ。ちなみにその中に僕は含まれていない。大地はインフルエンザになるような奴ではないし千佳は・・・大丈夫だろ。別のクラスだが六倉さんは心配だ。以外に丈夫な方だが気にはかけておこう。

「進は今日もバイト?」

ホームルームも終わって一息ついた頃、いつも通りに千佳が近づいてきた。大地は・・・あれ、もういないぞ・・・部活に行ってしまったか?

「そうだよ、ドラッグストアだからインフルとかは気を付けないと・・・」

「じゃあ忙しい時期かぁ・・・マスクとか売れるでしょ?」

どっちかというと忙しいのは4月だ。実際入りたてということもあったかもしれないが4月は忙しかったような気がする。4月は花粉症シーズンなのだ。

「てか、そろそろバイトに行かなくてもいいの?」

「あ・・・」

いけない、話していて時間が経ってしまった。2分くらいだが早めの行動を心がける身としては自分が自分に許せない。さっさとバイトに行くことにしよう。




 というわけで僕はいつもより2分遅れてミハラ薬品松野宮店にやってきた。シフトインの13分前にバックヤードに入るとそこには見慣れない人がボーしていた。

「お、おはようございます・・・」

どこか別の店舗の人だろうか・・・

「おはよ~」

地味~に気の抜けた挨拶を返してきた謎の店員、一応ミハラ薬品のロゴが入った白衣を着ているので従業員であることには間違いないのだが・・・


事務所で待つところ2~3分、六倉さんが顔をハテナにしてやってきた。

「相井さん・・・おはようございます」

「お、おはよう・・・」

「あの人誰です?」

「さ、さあ・・・」

さっきも見たが本当に謎の人物。小柄な店長とは違ってひょろ長い、背丈は大地より5センチ程小さいくらいだ。横幅はえらく短く白い肌も相まってもやしっぽい。

「はい、こんにちは~朝礼始めま~す」

気の抜けた挨拶と共に先ほどの謎店員が登場・・・

「ちょ、朝礼!?・・・店長は?」

確か今日は店長が来ているはずだ。店長が来ているのであれば朝礼は店長が行うはずなのだが・・・

「店長は・・・インフルエンザです」

「「インフルエンザァ!?」」

「申し遅れましたが店長代理の行田(ぎょうだ)です」

どうやらこの人は店長代理だったらしい。店長がインフルエンザにかかったからどこかの店舗から応援に来たのだろう。

「え~と今日の予定は・・・何をするん?」


・・・・・・・・・


この1年でいろいろありましたが・・・本当にいろいろありましたがここまで青空の下の大草原でため息をしたくなるのは本当に久しぶりだと思います。それは六倉さんも同じようで・・・

(今日ほど不安なバイトは初めてだ・・・)

同時に心の中で思いました。


 とりあえず僕はレジに入る、目の前で品出ししている店長代理にいろいろ不安があるがその不安が現実のモノにならない事を祈る。ひたすた祈り続けて約10分、そのミハラ薬品松野宮店の平和は長くは続かなかった・・・店内中に響き渡るようなガラスが割れる音が聞こえてきたのだ。

「・・・はぁ」

悪い予感が現実になってしまった。場所はレジの目の前、さっきから店長代理が健康ドリンクを補充していたのだが見事に棚をひっくり返してしまっていた。黄色の液体があたりを漂っている。

「ぐぅ・・・ぐお・・・ぁぁぁぁぁぁぁ」

仕事中でシャットアウトするわけにはいかないので必死で叫び声をこらえた。

「えと・・・なんということでしょう」

六倉さんも駆けつけていては顔が完全に引いていた。最悪なことに栄養ドリンクの売り場はレジ前・・・ミハラ薬品松野宮店はそれほど広い店舗ではないのでレジ前にブチまかれてしまったらレジの半分を締めないとならない。

「な・・・なぜにこんなことに・・・」

そしてなぜか掃除していたのは僕と六倉さんだった。




昨日は本当に散々だった・・・時間帯的に混み始める時間だった上に商品までベタベタになってしまった為それはもうレジ前は大混雑・・・終わる頃には僕も六倉さんもぐったりでした。

「進・・・どうした」

翌日の教室で僕は机で寝てた・・・両手を思いっきり伸ばしてグターと干物のように・・・大地が肩をツンツンついてきて僕の生存確認をとってくるが僕はそれを総スルーした。

「早く店長戻ってきて欲しい・・・」

「店長?バイト先の?」

今までミハラ薬品で店長とは結構仕事をしてきた。店長は小柄ながら頼れる人、それだけあって店長がおらず、そして代わりに使えない代理が来たので・・・もう僕の心はミキサーにかけられたようにトロトロのジュースと化している。

「進のバイト先の店長がインフルなんだって」

僕の視界は現在、机の木目が広がっているので見えないが声からすると千佳が来たようだ。

「千佳、なんで店長がインフルだと知ってる」

今日も千佳と登校はしたが店長は愚かバイトの話題すらしていない。僕は今日の朝、無言でうつむきながら歩いていた。千佳が気を利かせてくれたのか終始無言だったのがありがたい。

「あぁ・・・昨日の夜に香苗ちゃんから嘆きのメールが来て・・・」

ぐおぉぉ・・・もしかすると六倉さんは昨日、ひとり寂しく泣き寝入りしていたかもしれない。今日はバイトがないがもし学園であったらどうやって声をかけようか・・・

「インフルエンザは確か一週間くらい休まないといけないんだな」

大地のおっしゃるとおりインフルエンザは5日から7日間の休養を要する、つまり店長は来週まで帰ってこない。今週のシフトは昨日を含めて3日、つまりあと2日間はあの行田という店長代理の面倒を見なければならない。店長の面倒をバイトが見るというのも変な光景だと思うが・・・




 日が明けて店長代理のミハラ薬品2日目・・・店長代理は昨日も来ていたらしいが流石に連絡ノートによると注文品を取り違えるミスがあったらしい。犯人の名前は書かれていなかったが・・・多分店長代理だろう。

「き、昨日もやらかしたのか・・・」

「いや、名前は書いていませんし決まったわけでは・・・わけでは・・・」

六倉さんの声からだんだん自身が消えていった・・・

「今日はミス無しで・・・」

結局僕も・・・店長代理に疑惑が向いてしまった。


本日も店長代理との朝礼から始まる。

「じゃあ・・・まあ、そんな感じで」

前回に引き続いて今回もよくわからない店長代理との朝礼が終わってお勤めが始まり、そしてこの店長代理がいる以上松野宮店に平穏は訪れないのであった・・・

「どうしてこんなことに・・・」

「ここまで来るとミラクルですね・・・」

バックヤードを抜けるとそこは店内だというのに雪が降っていた。屋内だというのに雪でござんす。もちろん屋内に雪がふるはずなどなく実際には屋根裏に潜むアレだった・・・

「ホコリ・・・」

よく見ると非常用の排煙口が空いている。本来は火事とかが起こった時に煙を外へ追い出すための設備なのだが何故これが開いているのだろうか・・・

「滅多に開かないアレ開いたらそりゃホコリが落ちるだろ・・・」

ちなみにあの排煙口は消防点検の時くらいにしか開かない。

「あのレバーなんなの~」

店内にホコリの雪が降ったというのに店長代理はいたって平和そうに聞いてきた。

「・・・・多分排煙口のレバーですね」

僕の代わりに六倉さんが答えてくれた。店長代理がどのレバーを引いたのかは見ていないが状況を見る限り排煙口としか考えられない。

「ブラインドのレバーかと思ったぁ・・・」

何をどう間違えればそうなってしまう!!

「掃除か・・・前回に引き続いて余計な仕事が・・・」

その日の仕事の半分は床や棚の掃除に当てられてしまった。”星川和人”・・・店長にはいつも世話になっているのでじっくり休んで療養してもらいたいができれば早めの復帰も願いたい・・・




 案の定、翌日の教室では机に向かって頭突きして気絶したように僕、相井進がうなだれていた。

「進・・・おーい」

僕の前では大地が僕のうなじの前あたりで手をパタパタさせているが僕の視界には入らない。

「また店長代理だとさ」

千佳がやってきたようだ・・・しょうがないので僕は起き上がることにする。

「ひでぇ顔だな」

「疲れているからな・・・」

店長代理と働くのはあと1日、苦行だ・・・バイトが大変な時もあったがその時は大体たくさんのお客さんが来たなどの理由があるがまさかの上司の失敗での疲労だ。

「これは滅入る・・・」

「そんなんでよくまぁ店長代理になれたよねぇ」

六倉さんから話を聞いているであろう千佳は他人事のようだった。

「今日だけでも働くか?」

「それは遠慮しておくわ・・・面倒なことになりそうだし」

やっぱり他人事だった。


なるべく放課後なんて来て欲しくなかった。放課後が来てしまうとバイト先に向かわないといけない・・・バイトが面倒だと思ったことは何度かあったがここまで面倒と思ったことはない。

「あ、相井さ~ん」

よたよたとした足取りで六倉さんが僕のクラスにやってきた。もう見るからに疲れた表情で・・・

「六倉さん・・・」

「きょ・・・今日で終わるのですよね・・・」

六倉さんが戦地に赴く兵士のように見えたのは気のせいでしょうか・・・

「ええ今日で終わります・・・」

六倉さんがこんな表情をするもんだから僕だって同じ表情をしてしまう。

「ねえ、大地・・・」

「どうした、千佳」

僕と六倉さんを尻目に僕の幼馴染2人がこそこそ話している。

「あの2人、大丈夫かな?」

「どうだろうな、流石にその店長代理とやらもそこまでミス続きのはずが・・・」

「それフラグだから・・・」

千佳からのフラグ宣言を聞いた大地は何か心に引っかかるものがあったのか僕に体を向けると

「・・・・・進、すまん」

しっかりと謝った。




 今日のバイトにも店長代理が何かしらやらかすだろうと思ったが・・・今までは働いている途中に事件が起こっていた。しかし今日はミハラ薬品松野宮店のバックヤードに入った瞬間に本日の事件を理解した、つまり既に事件は既に起こっていたのだ。

「うわぁぁぁぁぁ・・・」

「ひえぇぇぇぇぇ・・・」

事件は起こるだろうなとは思っていたがまさか既に起こっていたとは・・・これはもう僕と六倉さんそれぞれ思い思いのリアクションをとるしかない。

「前にも似たようなことがあったような気がしますが・・・」

そう、これはデジャヴを感じる。バックヤードに入って真っ先に目に飛び込んできたのはダンボールの山、まさかの大量発注だった。

「これは・・・洗剤か」

「衣類洗剤ですね、前回みたいに食べ物じゃなくで良かったです・・・」

前回、5月くらいに起こった大量発注事件はカニカマだった。カニカマは食品であるが故に賞味期限が存在する。そのためカニカマの時はあの手この手で売りさばいていたが。今回は洗剤なので急ぐ必要がない・・・倉庫は圧迫されるが。

「おはようご・・・うわぁ」

事務所に入るとそこには何か書類を書いている店長代理の姿、ちなみに事務所にまで洗剤のダンボールが置かれている。

(あれってまさか始末書ですかね?)

六倉さんが耳打ちしてきた。確か以前カニカマ大量発注の時は業者側のミスだったので何もなかったが、その時に店長は「首が飛ぶかと思った」と言っていた気がする。クビはないにしろ一体どんな処分になるのだろうか・・・ちなみに話によると洗剤10箱を100箱と間違えたらしい。洗剤は賞味期限がないので一度に何箱も発注することもあるが流石に100は多い。これが食品だったら前回のカニカマ以上に大変なことになっていた。当然バイト時間の一部は大量に来てしまった洗剤のダンボール整理に一部費やされた。




 店長代理はその後も何かしらやらかしたようだが僕も六倉さんもシフトに入っていないので関係ない、正直なところ関わりたくもなかった。そして週が明けた月曜日、僕と六倉さんは1週間ぶりに彼の姿を目玉に移すことになる。

「「てんちょおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」」

「ちょ、相井くん・・・六倉さんまで!」

ミハラ薬品松野宮店の店長、星川和人の復活である。もう神様だ、これはキリストの復活に等しい。

「まあ、インフルエンザで寝込んでいる間に色々あったみたいだね・・・」

「はい・・・戻ってきたぁ・・・」

「店長、もう気をつけてくださいね・・・」

「あ・・・あぁ」

店長・・・それは正しく店の長だ。店長変わればお店が変わる・・・我が店舗の店長は背丈こそ小さいが本当に頼れる存在だった。居なくなって初めて気づくものである。


ミハラ薬品松野宮店、本日は平和です。

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