1月元日の神社
年が明けまして元旦です。そばを晩御飯として食べたあとは割と暇で年末特番を見て暇を潰していた。大晦日はバイトがなかったのでここが心残りだ。
その大晦日の前に松野宮店では棚卸しが行われ僕と六倉さんはそれの手伝いをした。帰り際に六倉さんは「初詣に松神社」と押してくるものなので僕は午前中の墓参りが終わり次第、初詣に出向こうと思う。
墓参りは特に何事もなく終了した。ご先祖様のお墓をタワシと雑巾でしっかりと磨いて花を添えて線香をあげました。線香の火をつける際に灰が手の甲に少しだけ落ちてしまって「ぎゃぁぁぁ!あっついぃぃぃぃ!」と墓場で奇声を上げてしまったが特になにもない。なにか起こっているような気がするが何も起こっていない、絶対に何も起こっていない。
「昼飯どうしようか・・・」
1月1日の神社であれば屋台くらい出ていそうな気がするが・・・家で食べてから神社に向かうべきか、それとも屋台で適当に食べることでお昼ご飯とするのか・・・
「ん、まてよ・・・」
確か六倉さんの実家であるタイヤキ屋は屋台として出店する際は人形焼屋としてオープンする。もしかすると松神社にも屋台として出店するのではなかろうか・・・それならば六倉さんが初詣に来るようにと強くいうのも納得がいく。
「おやつに人形焼でいいか」
人形焼だけでは昼ごはんにはならない、おやつと考えればちょうどいいだろう。それに今は銀行に行っていないせいでお財布の中身が薄い、屋台のご飯は高いのでお昼ご飯は食べてから出かけることにした。
「・・・・・でねぇ」
20コールまで粘ったが携帯はダイアル音のお経をただひたすら流していた。このまま聴き続けていると眠くなってしまいそうなので通話を終了しておいた。
「大地、いるかな?」
初詣でぼっち感を僕の体全身から放出してしまうことになるし自分自身も寂しい。ここは大地を誘っておくことにしよう。
「大地くらいは出ろよ、出ろよ・・・」
願望も踏まえながらコール音を数えること12回、ようやく大地の声が耳元から聞こえていたので安心した。
『すまん、ちょっと出るの遅れた』
『いや、全然大丈夫だ。本当にありがとう』
僕としては先ほど千佳が出なかった分、大地が電話に出てきてくれたのがとても嬉しく感じる。電話の向こうで大地のポカンとした表情が見えるようだが・・・まぁそこは気にしないでおこうか。
『初詣に行こうと思ってな・・・』
『初詣ぇ?なぜまた急に・・・』
『一人で行くのはさみしいだろうが・・・』
一人で初詣は一人祭りや一人焼肉に通じる何かを感じるので回避できるものなら回避したい。
『じゃぁ行かなければいいだろうに・・・まぁいいや、松神社に直接集合でいいか?』
『おう、でかい杉の木の前で待っている』
『りょーかい、着替えたらすぐに出かける』
でかい杉の木は松神社の御神木的なもの・・・だと思う。しかし“松神社”なのに御神木が杉なのは何故でしょう、それは永遠の謎だと思う・・・調べればすぐにでも分かりそうな気がするが・・・
松神社は自宅から数分くらい、紅葉学園とは反対方向に位置するが徒歩で行ける。徒歩で行ける位置に神社があるので狭い駐車場や狭い駐輪場に悩ませられる必要はない。やすやすのスルーパスだ。元日だったせいもあって車道は大混雑だった。徒歩で来れて本当に良かった。
「お、大地」
自宅の位置的にはむしろ大地の方が神社に近いのだが大地の方が15分ほど遅れてやってきた。着替えてから行くとか言ってたからその分遅れたのだろう。
「で、なぜに初詣?進は千佳に似て人は苦手だろう?」
「ああ、それなんだが・・・」
そこまで話したところでポケットに入れてある携帯電話がなった。取り出して画面を見てみるとそこには千夏の名前、着信に気がついたのかかけ直してきたのだろう。
「早く出ろよ・・・」
「あぁ・・・そうだな」
千佳は電話を無視することはあっても電話を折り返してくることはもしかすると初めてかもしれない。
『千佳、どうした?』
『どうしたって・・・進からかけたんじゃない!』
そういえばそうでした。千佳からの折り返し電話があまりにも珍しいのでつい「どうした」と聞いてしまった。
『いや、初詣に誘おうとしたから・・・』
『初詣?あぁ~』
千佳は一人で納得していた。もしかして知っていたか?
『初詣に来たならお守り買う所に来て、そこにいるから』
『なぜに?』
しかし、携帯の向こう側からはツーツーと寂しげな音を流していた。
「切りやがった・・・」
「来ているのか?珍しい」
横で僕の声だけ聞いていた大地が珍獣でも見たように驚いていた。最近人前に出ることが多くなったとは言え・・・
「で、どこにいるんだ?」
「お守りを買うところ・・・並んでいるのか?」
お守りを買うために並んでいるのでしょうか・・・
千佳は確かにお守りを買う場所(授与所というらしい)にいた。しかも六倉さんも一緒にいた、僕が初詣に来るのを知っていたのも六倉さんから聞いたのだろう。
「ち・・・近寄っていいのだろうか」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔とは今の僕のような顔のことを言うのだろう。確かに2人は授与所にいる、いるのだが授与所で並んでいるのではなく授与所の中でなんとお守りを売っていた。しかも巫女服で。
「なあ、あいつらは何をやっているんだ・・・」
大地までもが豆鉄砲を食らっていた。状況から整理するに恐らく2人は・・・
「バイト?」
とりあえず並ぼう、客として2人に接近して事情を聞き出してやる。
列の先頭まで来るまで約5分を要した。千佳も六倉さんも流石に気がついていたのか並んでいる僕たちを見てニマニマ笑っていた。
「で、何をしている・・・千佳、それに六倉さんも」
「バイトですよ」
あまりにも普通に六倉さんは返事をした。というか巫女のバイトなんてあったんだ・・・今度僕もやろうかな?いや、無理か・・・
「てっきりまた人形焼を焼いているのかと思った・・・」
「あ、お父さんなら東の方にいますよ」
本日も人形焼屋は点在だったらしい。そういえば六倉さんちの人形焼は食べたことがあるのに肝心のタイヤキは食べたことがない。僕の中では六倉さんはタイヤキ屋の娘ではなく人形焼屋の娘に置き換わってしまってる。
「そういや仕事中だったな、お守り買うよ。あとおみくじ一つ」
「俺も」
「おーす」
「いま用意しますね~」
仕事の邪魔をするのもアレだったのでお守りをおみくじを買うとそのまま退散した。
「お、大吉だ」
大柄な大地が小さくガッツポーズをした。そんな姿を見てみると笑えてくる。
「さてさて、僕の今年一年の運勢は・・・」
末吉・・・待ち人はいずれ来る。少し先に困難があるが必ず乗り切る・・・
「さ、先に何があるんだ・・・」
なんとも微妙な運勢だった。
「そういや大地、午前中は何してたんだ?寝てたのか?」
昼頃に電話をしたとき、大地は着替えたら行くと言っていた。基本的に早起きな大地がそれまで寝ていたとは考えにくい。
「あぁ、バイトしていた」
「バイト?」
なんということだ・・・バイトに一番執着していた僕のはずなのに千佳にも六倉さんにも、そして大地にも抜かされてしまった。これは恥じる自機自体だ。
「ああ、郵便局のバイトだ。この時期は年賀状で忙しいからな、短期バイトを募集していたんだ」
「そんなものがあったのか・・・?」
「知らなかったのか?割と有名な短期バイトだと思うが・・・」
年末はミハラ薬品の棚卸しで頭がいっぱいだったのでそこまで気が回らなかった。巫女とは違ってこちらは男でも大丈夫だろう。来年は絶対に参加してやる・・・
「おっまたせ~」
別に待っていたわけでもないのだが千佳と六倉さんがバイトを終えて帰ってきた。服装は既に私服、ゆっくりじっくり巫女服を拝みたいところではあったが・・・残念だ。
「巫女のバイトがあったんだ・・・」
「千佳さんが見つけてきたんですよ」
元凶は千佳か・・・
「やっぱりお正月は忙しいみたいでさ、巫女服は貸してくれるといったし」
巫女服が着たいだけか!?
「だって進は前にメイド服も着たし!ウサギも着ていたし!」
なぜにその話題を持ちかけてくる!?というかメイド服はともかくウサギは着ぐるみだろうが!いや、メイド服もアレだけど・・・
「千佳はいつからコスプレマニアになったのだ・・・」
「うっさい大地!」
大地はうっさい呼ばわりされてしまった。
「進さん、似合ってました?」
あれぇ・・・六倉さんも乗り気だった?
「あ、あぁ・・・似合っていたよ」
「本物の巫女服を着れる機会なんてなかなかなかったですし良かったですよ」
まあ本人が嬉しそうだったので良かったとしよう。
時刻は午後3時半、六倉さんのお父さんのところで人形焼を買って一緒に食べてはいたのだが、食べ終わるとなんとも地味な時間だった。
「巫女の次は何をしようか・・・」
千佳のコスプレ欲求はまだ満たされていないようだった。コイツ来年あたりは大変なキャラになってしまっているのではないか・・・幼馴染として将来が心配だ。
「初詣自体は二礼拍手一礼だけだからな」
初詣にかける時間の大部分は並んでいる時間か屋台を物色している時間である。並んでいる時間の方が長いというのはなんだか損をしている気分だ。
「あ、そういえば・・・」
ここで何かお思い出したように六倉さんが声を上げてポーチの中身をガサゴソとあさり始める。手を抜くとそこには紙切れが3枚握ってあった。
「私の商店街で福引しているのですよ。3枚分」
「今、4人だけど・・・」
千佳が六倉さんの手に握られた福引券を見ている。“松野宮商店街お正月福引券“この街の商店街はネームングセンスがなかった。
「なんで大地来たんだよ・・・」
「オメーが呼んだんだろ!」
スマヌ、さみしいと思って呼んだが今となったらちょっと邪魔になってきた。
「大地以外の3人が引くでいいよねー」
「そこはジャンケンだろ!」
千佳の容赦ない口撃に冷静に突っ込む大地。横っちょでは六倉さんが「まぁまぁ」と場を抑えていた。
「ここはジャンケンにしましょ、公平に」
松野宮商店街、本日はお正月ということもあってか半分位のお店がしまっている。商店街の存在自体は知っていたし来たこともあるが本当に久しぶりに来たような気がする。本日は一応福引がある、場所は商店街の中央。福引のための券を持っているのは先ほどのジャンケンで勝ち取った3人・・・
「結局、俺は・・・福引なしか」
福引券を勝ち取ったのは僕と千佳、そして六倉さん。なんとも酷い結果だ。
「まあどうせ当たらないよ」
初詣の神社よりかは短めの列を並んでまずは商店街の娘六倉さん、福引担当のおじさんとは知り合いだった・・・というか近所のおじさんのようだ。
「はい、白ですね~ティッシュですね~」
わかりきったように六倉さんがポケットティッシュを受け取る。ちょびっとだけ残念そうだが「まあそうだよね」と・・・そんなノリで。
「次は僕いいか?」
「いいよ~」
ガラガラ~と福引のハンドルを回転、中から出てきたのは六倉さんとは違う色・・・
「ティッシュ6箱ですね~」
六倉さん同様に僕にもティッシュが渡された。六倉さんとは違って僕は箱だが・・・
「こ、ここの商店街の福引はティッシュしかないのか・・・」
「いや、そんなことないです・・・」
まあ暫くはティッシュを買う必要がなくなったか・・・
「最後あたし~」
最後くらいはきっちり決めてもらいたいが・・・
「おや、また違う色・・・」
六倉さんでも僕でもない色が出てきた。一体何がもらえるのだろう?
「トイレットペーパー・・・」
ティッシュではない、ティッシュではないが紙製品であることには変わりがなかった。
「全員神の引きだな、紙だけに・・・」
大地よ・・・そんなうまいことを言えと誰も注文していない・・・
「まあ福引こんなもんだよな」
「じゃ、時間的にちょうどいいし帰ろ~」
「あ、私はここなので・・・」
「おお、じゃあな~」
僕たちはそれぞれ帰路についた。
進たちが帰った後も福引は続いていた。ちょうど進たちの姿が見えなくなった頃、商店街に鐘の音がおめでたく響き渡った。
「大当たり~商品券5万円分です!」
「あらら~どうしよう・・・」
「すいません、商品券なのでここに受け取りのサインを・・・」
「ここですね・・・はい、確かに」
受け取りのサイン欄には“白沢姫梨”と書かれていた。




