12月年末の棚卸し
12月年末、クリスマスを過ぎたため今年も残るところわずかだ。学校は冬休みだがミハラ薬品は年末まで営業だ。松野宮店の入口には12月30日から翌年の1月2日までの間は休業と書かれた張り紙がしてある。
30日は年末のためお店はお休みだがお店として行うものがある、棚下ろしだ。
「そういうわけで今日お店はお休みだけど来てもらったわけだ」
時刻は朝、基本的に遅番であることの多い僕と六倉さんだったが今回は早番だ。年末の忙しい時期ではあるが僕も六倉さんも実家通いのため時間があった。僕なんかは年末の大掃除や宿題をとっくに終わらせていた為、むしろ暇でどうしようかと思っていたくらいである。年末はお店が休みだからバイトをしたくてもできないと思っていたので正直助かった。
「ところで店長、棚卸しってよく聞きますけど何をするのですか?」
六倉さんが肩のところまで手を挙げて質問する。確かに棚卸しという言葉自体は聞いたことがあるが実際に何をするのかは知らない。
「棚卸しは簡単に言えば在庫の数を数えることだ」
「在庫ですか?毎回データをとっているのではないでしょうか?」
商品の在庫に関しては発注の時と納品の時にデータとして残してある。お客さんに在庫などを聞かれたときはそのデータを確認すればいちいち目視で確認しなくても済むわけだ。
「まぁ確かにそうなんだけどデータと現実には必ずズレがあるものでね・・・」
「僕たちの管理が甘かったですか・・・」
データにズレがあるということは管理がなっていないことであろうか・・・
「いやいや、相井くんと六倉さんはよくやってくれているよ、ただ・・・」
店長はここで一度オデコを掻いて再び話を続けた。
「返品や破損とかもある、これらはきっちりデータ管理しているが人間が行う都合上どうしてもミスは起こる。これは人間である以上、君達にも起こるし僕にも起こる。起こらないように気をつけなければならないけどね。さらに・・・こういうのもなんだが・・・」
「なんです?」
店長が気難しそうに、そして起こっているようにも見えた。
「世の中には万引きというものがありまして・・・」
万引き、小売店としてはもはや宿命とも言える存在だ。幸い僕が働き始めてからはまだ松野宮店に万引きが入ったとは聞いていないがほかの店舗では被害にあったとかでFAXに防犯カメラの写真付きで送られたことがある。
「まあ、正直どこのお店にも出てくるものなんだけどね・・・」
「ここにはまだ来ていないですよね?」
六倉さんが暗い話題に顔を落としながら聞いてきた。
「でも去年はあったりしたんだよなぁ・・・その時の僕は別の店舗の店長だったから聞いた話だけど・・・」
なんとここにも万引きがやってきたらしい。悲しいことだ・・・
「まあ来た時は相井くん、よろしく頼むよ」
僕ですか・・・確かに女の子の六倉さんに任せるわけにはいかないが・・・
「来ないことを祈ります」
「まあ、そのうち来るよ。気づいていないだけでやられているかもしれないし・・・」
店長は当たり前のように万引きがやってくることを宣言した。
「正直怪しいお客さんは何人かいた」
いたようだ・・・今後は気を付けよう。
気を取り直して・・・早速棚卸しに取り掛かることにする。
「店長、最初にすることはなんでしょうか!」
普段とは違うことをすると考えるとワクワク感もある。僕としては棚卸しが何かのイベントのように感じた。
「相井くんノリノリだねぇ」
店長もその様子にテンションが上がってきたようだ。六倉さんだけが横で微笑んでいるのでこちらまで微笑んでしまう。
「それでは!そんな相井くんと六倉さんに棚卸し最初の仕事を授けよう!」
「私はそこまでノリノリでは・・・」
確かに六倉さんはどちらかというとうんざりしているようだった。確かに店内すべての商品をひたすら数えるのも大変かもしれない。
「君たちの仕事は!?」
「「仕事は?」」
果たして僕たちの仕事内容は!?
「品出しだ!」
仕事内容はいつもと至って普通、平常、通常通りだった。
「な、なぜに品出しですか?在庫を数えるのですよね?」
思わず六倉さんは目玉を丸くして聞き返していた。正直言おう、僕だって聞き返したい。まるでやっていることが変わらない、お客さんがいない中の品出しなだけだ。
「倉庫にはダンボールに入っていない商品もあるでしょ?」
「ありますね・・・」
倉庫に入っている商品は基本的に箱単位だが中には1個単位で倉庫にある商品もある。ダンボールの半分だけの商品もある。
「なるべく箱単位で数えたほうが楽なんだ、そんなわけで1個単位でしまってある商品を店内に出してくれ」
数えやすいようにするための下準備といったところらしい。理由もわかったことで早速特殊な品出しをはじめることにしましょうか。
いつもは事務作業が多い店長も今回は品出しに参加してくれた。本日は棚卸しということでお店も閉めているので量の割には早めに終わったと言える。
「ちょうどいいし休憩にしよう」
品出しを終えると時刻はお昼、お腹もすいてきた頃合だった。いつもは順番に休憩を撮るのだが今回はお店自体がお休み、つまりお客さんが来ないので順番に休憩を取る必要がなかった。
「こう一緒にお昼を食べるのも珍しいですよね」
お弁当を持参してきた六倉さんが箸で卵焼きをパクリ、六倉さんのお弁当はだいぶ小さいものだった。大きさは大体千佳と同じくらいだろうか?千佳もそうだがその量で足りるのだろうか?
「まあ新鮮ですね~」
僕も自前の惣菜パンをモグモグしていた。僕と六倉さんは基本、学園が終わってからの遅番であることが多い。休日であれば昼間働くこともできるが昼間は昼間働いている人がいるので休日でも午後の勤務が多め、バイト先でご飯を食べること自体が珍しい。
「午後は手分けして商品を数えるよ、午後から業者も来るから・・・」
おや、業者が来るとは聞いていなかった・・・って業者?
「業者ってなんの業者ですか?」
「棚卸しの業者に決まっているじゃない」
た、棚卸しの業者なんてあったんだ・・・バイト募集しているかな?来年はちょっと考えてみよう。
「業者さんが数えてくれるのですか?」
「そうだ、だから業者の人と手分けして在庫を数えるんだ」
ちなみに業者さんは店内、僕たちは倉庫の中を数えるらしい。
「あれ?でも倉庫の中は箱を除いて出しましたよね」
六倉さんが今度はカニカマをパクリ、先ほどの卵焼きよりも美味しそうに放ばっていた。六倉さんは結局カニカマが好きなようだ。以前カニカマだけで何分も語っただけはある。
「そうだよ、だから品出ししたじゃない」
他力本願な店長だった・・・
お昼を食べ終わるとちょうど業者の人がやってきた。もう明らかに「数えてやるぜ!」って感じの人だった。ニュアンス的に伝わりづらいと思うかもしれないが本当に「全部数えてやるぜ!」のオーラが全身から溢れ出していた。この手のような棚卸しの業者は結構あるらしい、棚卸しだけでなく様々なサービスをしている会社らしく小売店にとっては心強い見方のようだ。僕たちが普段生活している分にはこのような会社を目にする機会は少ないがミハラ薬品のように個人に対する会社だけでなく会社のための会社も存在することにカルチャーショックを受けた僕だった。六倉さんも横で「なんだかすごそうな人が来た」とかつぶやいている。こんな企業をBtoBとかいうらしい。何の略なのかは知らないが気になるので今度調べておこう。
「そんなことを言って結局調べないのでは・・・?」
どうやら六倉さんに聞こえていたようだ。確かに調べない可能性が高いが・・・
というわけで僕たち店員は倉庫の在庫を数えることにした。僕と六倉さんのバイトコンビが商品の数を数えて渡された端末に入力していく、店長は業者との打ち合わせをして付き添いをした。
「なるべく売り場に出したとは言え結構な量ですよね・・・」
両方業者に頼めばそれこそ一番楽なのだがどうやら倉庫と売り場は別料金らしく細々していて数えにくい売り場を業者に任せる次第になったらしい。
「ドバドバコーラの500mlが2箱、48本・・・」
「相井さん、缶の飲み物は終わりました~」
僕たちは最初に飲み物の在庫を数えることにした。基本的に整理されているので在庫を数えるのは結構簡単、単純作業であるがゆえに凡ミスには注意だ。
「ちっちゃい方のペットボトルも終了っと」
手分けして見事に飲み物の在庫は終了した。ちなみに飲み物から数え始めた理由に深いものはない、単純に倉庫の端っこに飲み物の在庫を積んでいただけだ。
単純作業は飽きやすい傾向にある。実際いつぞやのあんまん工場はその単純作業の繰り返しで精神が汚染されかかった。あの時は確かゴールデンウィークの時だった。思い返そうとしたら半年前のこと、バイトを始めてから結構な時間が経ったものだ。
しかし今回は単純作業の割に飽きが来ない。あんまんの時とは違って体を動かしているからだろうか?それとも六倉さんがいるからだろうか?
「次は洗剤ですかね~」
六倉さんが洗剤のダンボールの山に潜っていった。まぁ退屈よりも退屈でない方がいいに決まっている。退屈でない理由を探る必要はないだろう。
「洗剤と一緒に柔軟剤も一緒になっていますね。六倉さんどっちやります?」
ちなみに売り場の方も洗剤と柔軟剤は隣り合っている。
「しかし毎回思うのですが・・・柔軟剤の種類多くないですか?」
「確かに・・・柔軟剤ってことは服をふわふわにするものですよね」
しかし柔軟剤のパッケージにはどちらかというと香りを付ける意味合いが強くなっているようにも見える・・・
「柔軟剤は今、どこに向かっているのだろうか・・・」
そんなことを考えながら棚卸を続けた。
「「おわったぁ!」」
何十にも広がっていたダンボールを数えるという行為にもついに終わりがやってきた。ラスト一個のダンボールを端末に入力して無事に終了した。
「六倉さん、今何時ですか?」
「え~と・・・4時半です」
うむ、だいぶ時間が経ったと思っていたのだがだいぶ時間が経っていた。お昼ご飯を食べてから作業を始めたのだがはやり作業量、ドラッグストア1店舗分は大きかった。
「店内終わったよ~、倉庫手伝うけど・・・」
「店長、もう終わりました・・・」
タイミングがいいのか悪いのか店長がやってきた。別に店長はサボっているわけでもなく業者の皆さんの手伝いをしていたのだが・・・まあタイミングがね・・・
「あれ、思ったより早かったね?」
「だいぶ店内に在庫をぶち込みましたからね」
「ほとんどダンボール単位だったので数えやすかったですよ~」
それにしても売り場の方は一個単位だし棚に無理やり詰め込んだところもあるので数えにくかったと思うがほぼ同時に終わるとは・・・業者の力は凄まじい・・・
「あ、端末返します」
店長は2人から端末を受け取ると流し目でデータを確認、正確かどうかはとにかくきちんと終わっていることを確認した。
「終わったんでしょ?帰っていいよ」
店長はあっさりと僕たちに帰宅を命じた。
「あれ店長は?」
「まだ事務作業が残っているけど・・・事務仕事だし」
「私たちに仕事はないということですか・・・」
「年末だし帰りたいでしょ?それにそろそろ帰らないとバイトの残業で上から色々言われちゃうし・・・」
つまり早く帰れということだった。
さて、本来ならこのお話はここで終わるところなのだが帰る途中に六倉さんがある話題をしてきた。
「ところで元日のご予定は?」
「え~と墓参り以外にはなにもありませんが何か御用が?」
「墓参りはわかりますけど初詣は?ご主人様も重要ですが・・・」
大多数の人は初詣に行くところだろうが僕は人ごみが苦手でござります上に・・・
「いや、初詣に行きましょうよ・・・松神社に・・・」
なぜに神社の場所まで指定!?確かに近所の神社なので初詣に行くならばそこだろうけど・・・
「墓参りの日程は?」
なぜかグイグイくる六倉さん。
「午前中になるでしょうかね?」
ちなみに家族全員が人ごみが苦手です。父さんだって母さんだって人ごみが苦手です。
「じゃあ午後に来てください、午後に!」
「は、はい!」
女の子に言いくるめられる情けない男の姿がここにあった。別に待ち合わせなどの約束をしているわけではないのだが六倉さんがここまで言うのだから何かあるに違いない。ここまで強く言われるとしょうがないので元日には神社に脚を運ぶことにしよう・・・人ごみが嫌だけど・・・




