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12月聖夜のクリスマス

 12月、本日はクリスマスイブであり終業式だ。ちなみに11月の月末に行われた文化祭だが僕のクラスはお化け屋敷で受付を任された。おばけ役ではないのは”顔が大して怖くない”かららしい。大地はその巨漢のせいで警備役になってしまい千佳も実行委員だったので終始バラバラの活動だった。


 2度目の告知だが本日はクリスマスイブ、そしてついでに本日は終業式。ところで日本人はクリスマスよりもクリスマスイブの方が盛り上がっているような気がする。本当の本番はクリスマスである25日だと思うのだが・・・とにかく千佳にプレゼントをせがまれる予感がプンプンするので事前一口チョコを3パック買っておいた。100円ショップの安物であるがこれで千佳の機嫌が取れるなら安いものである。

「おはようございまーす」

「おはよーう!」

ミハラ薬品松野宮店の関係者用入口に入ると店長がやたらノリノリのテンションで出迎えてきた。

「どうしたんですか?」

「ほら、今日クリスマスじゃん?」

クリスマスだからといってもそのクリスマスが仕事である。なぜ店長はそこまでノリノリなのだろうか・・・

「おはようございま・・・」

「おはよう!六倉さん!」

挨拶を終える前に店長は返事をした。

「店長、何かあったのですか?」

六倉さんが店長には聞こえないように耳打ちをしてきた。耳に息が吹き掛かってきてくすぐったくなってくる。

「クリスマスだからだってさ・・・」

とりあえず店長がクリスマスでウキウキしていることはわかった。

「とにかく今日はクリスマスだし早めに終わらそうよ」

店長、何かあるのだろうか・・・




 このお店の事務所にはホワイトボードがある、そしてそのホワイトボードにはその日にシフトに入っているメンバーの予定表が書かれているのだが・・・

「トナカイ?」

間違いなく僕のところには“トナカイ”と書かれていた。

「サンタクロース?」

そして六倉さんのところには“サンタクロース”の文字・・・

「嫌な予感がする・・・」




真っ赤なお鼻のトナカイさんとはよく言ったものである。しかしまあ自分が全身タイツのトナカイになるとは思ってもいませんでしたよ・・・

「なかなかひどい姿になっていますね・・・」

ひどいってなんだ・・・

「そういう六倉さんは似合っていますね・・・」

事務所の中にサンタ&トナカイがパイプ椅子に座っていた。

「あ、着替えた?」

「店長、コレ毎年やっているのですか?」

「いや今年からだよ、しかも松野宮店だけ」

なぜ突然始めたのか僕としては問いただしたい。

「相井さん、最近被り物に縁がありますよね・・・」

まったくもってその通りだった。思えば先月もウサギの被り物をしたのである。今回は顔が露出しているので視界もあるし動きやすいのだがむしろそれが逆に恥ずかしさも引き立てている。

「毎年クリスマスはお客さんが少ないんだ・・・」

「あぁ、それで客寄せパンダならぬ客寄せトナカイですか・・・」

クリスマスはどこも恋人やら友達やら家族やらでワイワイ騒ぐ日だ、客足が減るのはわかりきっていることである、夜なんかは特にだ。

「まあ六倉さんは看板娘になれるし・・・」

「ありがとうございます」

地味に六倉さんの見た目を賞賛した店長にこれまた地味に六倉さんが礼をした。若干顔が引きつっているところを見るとセクハラまがいの発言と思ったのかもしれない。

「相井くんは・・・まぁ面白いし」

何が面白いだ!?

「相井さんは身だしなみをもっとちゃんとしたらそれなりにモテると思うのですけどね・・・」

なんかひどい言われ方している!?確かに僕は毎日寝癖くらいしか直していないので服装や髪型に注意したことはなかった。今後は気をつけよう・・・

「とにかく今日はクリスマス特別記念ということでその服装で接客してくれ」

「よろしくお願いしまーす」

なぜか妙に六倉さんのテンションが高かった。可愛い服を着れて嬉しいのだろうか?

「よ、よろしくお願いします・・・」

店舗を少し遅らせて僕も仕事はじめの挨拶をした。




 この12月の寒い中に外に出て客寄せだった。寒い、異常に寒い。

「さ、寒い・・・」

寒い地方に住むトナカイが寒空の中震えていた。

「相井さんはいいですよ、全身タイツなのですから・・・私はこの寒い中スカートですよ・・・・」

サンタもまた震えていた。

「しかしお客さん少ないですねぇ」

お店の入口でチラシを配り始めてからしばらく経ったがお客さんはまばら、もう日も沈んで空には星空、寒空だった。

「それにしても思ったのですが・・・」

「なんです?」

「相井さんってコスプレ趣味?」

突然とんでもないことを言い出した。

「違います!断じて違います!ここはキッカリハッキリ否定しておきます!」

確かに定期的に変な衣装を着ているような気がするが・・・


それからしばらくすると夜の闇から見知った顔がやってきた、やってきてしまった。

「あらら?」

そのふわっふわの髪は見間違えるはずもなく白沢先輩だった。

「姫璃先輩、ここに来るんですね・・・」

「ある意味一番見られて欲しくない人に見られてしまった・・・」

白沢先輩には以前メイド服を見られたがあの時はどちらかというと“着せられた”河だったのでこちらのほうが恥ずかしい。

「あぁ・・・その、一緒に働いているとは聞いていたけどここだったのね・・・」

あかん、非常に気まずい光景になってしまった。

「じゃ、じゃね~」

しまった、おそらく白沢先輩は客として来たのだろうけど気まずさに負けて逃げようとしている。店員としてここは逃すわけにはいかない。六倉さんと無言のアイコンタクト、ここは逃がさまい!

「「まってぇぇぇぇ!」」


白沢先輩はなんでもない普通の常備薬を買っていった。てっきりクリスマスパーティーの買い出しでも頼まれたのかと思ったが全くそうではなかった。クリスマスに特に用事のない白沢先輩は一体・・・まぁクリスマスにバイトしている僕と六倉さんもあれだが・・・




 今日はクリスマスなので客足は少ない、しかしこのような日に限って知り合いがバイト先にやってくるものだった・・・

「あ、進が香苗ちゃんの下僕と化している・・・」

知り合いの来客その2、玉瀬千佳。

「下僕・・・」

「あながち間違ってはいませんが・・・」

僕の将来が危ぶまれてしまった。どうなる、我が将来・・・

「それで千佳、何しに来た・・・」

確か千佳もクリスマスの予定はなかったと思うがまさかからかいに来たわけでもないだろう、からかいに来たら蹴っ飛ばして帰ってもらいたい。

「プレゼントだよぉ」

千佳は両手を腰に当ててドヤ顔を見せてくる。

「プレゼントなら朝に渡しただろ、チョコを」

千佳にせがまれてしまうと何を言い出すかわからないのであらかじめ用意しておいたチョコを渡しておいた。

「違う違う、あたしからのプレゼントだよ!香苗ちゃんの分もあるよ!」

「サンタにプレゼントですか・・・」

まあ、衣装のせいで立場が逆になってしまった。

「まあ2人一緒のプレゼントなんだけど・・・他の店員さんと一緒に食べてね」

そうして渡されたものに僕は見覚えがあってしょうがない、というか絶対に覚えがある。

「・・・・コレ、僕が朝あげた一口チョコじゃん」

僕が今朝千佳にプレゼントした一口チョコそのものだった。事前に100円ショップで買った物と同じもの・・・

「へ、返品でござんすでしょうか・・・」

「相井さん、口調がおかしいです・・・」

「あー実は・・・」

千佳がアハハと笑いながら事の説明をしだした。

「毎回のように進にチョコをもらうのは申し訳ないなぁと思って・・・」

あ、なんだか千佳のこの行動の意味がわかったような気がする。

「それで今回はあたしがチョコをあげようと思ったんだ・・・」

「なんと・・・」

「プレゼントがかぶった訳ですか」

まあ、多分僕が毎回と同じようにチョコをプレゼントしてしまったのにも原因があるだろう。

「本当は朝に渡そうとしたんだけど・・・まさか進もチョコをセレクトしてくるとは・・・」

それで受け渡しが今になってしまったのか・・・多分今まで渡すか否かをずっと悩んでいたのだろう。

「なるほど・・・」

「まあ・・・完全にかぶってしまったけど・・・受け取ってくれる?」

引き気味の目だが上目遣いの目でそんなことを言ってくる。こんな表情をする千佳は珍しいかもしれない。

「ああ、受け取るよ」

まあ、同じチョコの交換だと思えばいいだろう。これが本当のプレゼント交換。

「仲いいですね、2人とも・・・」

端で六倉さんの眼差しが刺さってきた。

「まあ、付き合い長いからね~」

「ふふ、じゃあ渡すもの渡したし帰るね~」

六倉さんに仲がいいと言われたせいか頬を紅潮させた千佳は逃げるように退散した。




 閉店10分前になって店内の音楽が蛍の光になった。突然ですが豆知識、閉店前に流れるアノ曲、実は蛍の光ではない。実際のタイトルは別れのワルツというらしい、店長が教えてくれた。クリスマスにはやはり客足は少ない、だいたいこのような日は1、2分くらい早めに店を閉めてしまうのだが・・・本当はいけないことである。

「すこし早いけどクリスマスだしお店閉めちゃうよ」

本日やたらそわそわしている店長が案の定1分早めに閉店した。

「店長、今日ずっと気になっていたのですがクリスマスに何かあるのですか?」

僕はずっとに気なっていたことを直接店長に聞いてみる事にした。

「実は明日、娘の3歳の誕生日でな」

「「あー・・・・」」

店長がなんだかそわそわしていた理由がわかった気がした。店長には子供がいるは聞いていたがクリスマスが誕生日だとは・・・


カチャリとの音と共にお店の入口が閉じられる。

「それじゃあお疲れ様」

「「お疲れ様でした~」」

店長は挨拶早々に車に乗り込みそのまま5秒で発進した。早い、乗り込んでから発車までがとにかく早い。僕と六倉さんは口をあんぐり開けてその乗車から発信までの様子を見守っていた。

「今日の深夜に枕元にプレゼント置くみたいですね」

店長は帰ったら既に寝ているであろう娘の枕元にプレゼントを置くらしい。それ自体は娘大好きの父親の姿だ。絶対に子供が成長して婚約者を連れてきたら反対するタイプのおやじだ。

「しかしプレゼントは1つですよね、」

僕が気づいたのは誕生日がクリスマスの人の宿命、プレゼントはまとめて1つになってしまうことであった。


「あ、雪・・・」

帰り始めると六倉さんが手のひらを夜空にやるとそこには雪の結晶、空に目を向けると曇っていて星は見えなかった。

「予報では曇りでしたがね・・・」

今日は寒い、寒いけどホワイトクリスマスになった。

「相井さん、寒くならないうちに帰りましょう」

「そうですね」


 手をつなぎはしなかったけど2人仲良く帰宅した。クリスマスに仕事なんてと思う人もいるかもしれないが僕としてはこれはこれでアリだと思う。クリスマスを楽しんでいる人を見るのもクリスマスの楽しみ方の一つだと思った。家に帰ったら千佳からもらったチョコを食べよう、きっと甘いはずだ。


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