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針の筵地獄①

裸の付き合いとはよく言ったものだ。

釜茹で地獄を共に経験してから、慈円との心の距離はだいぶ縮まった様に思う。

何かを掴んだのか、あれから風呂も一緒に入る様になり、

食事と風呂の時間には少し会話が増えてきた。

会話の中で慈円の年齢が37歳と言うことがわかった。


ある程度話をして気づいたことがある。

慈円はコミュ障である。いや人見知りかも知れない。

何故そんな人間が子供を引き取ったのかは甚だ疑問であるが、そんな深い話はまだ出来ていない。

ただ避けられている訳ではなさそうという事が分かり安心する清であった。


朝のお勤め(読経)を終えて朝食を共にする。

不意に慈円が訊ねる。

「記憶は何か戻ったか?」

「いえ…特に何も」

嘘はついていないので、自然に答える清。

「医者が言うには突然戻ることもあるらしい。

仏様の思し召しだろう。気長に待てば良い」

「ありがとうございます」

「ここがお前の家だ」

そう言い残してガチャガチャと忙しなく茶碗を片付ける慈円。

こいつ…ツンデレか?


昼になると、掃除もひと段落し自由な時間が出来る。

京子さんとラジオを聴きながら茶菓子を食べるという誘惑に打ち勝って、本堂の裏手にある物置部屋に身を隠す。

先ずはスキルボードの確認


体力8 知力6 筋力9 仏力1 功徳1

保持スキル『仏の声』レベル1


ふむふむ。

体力と筋力が上がってきたな。

なんだかゲームみたいで楽しくなっている清は、空いた時間で筋力トレーニングをしている。

最初は早朝ランニングをしてみたが、それは続かなかった。

ガリガリなので、筋肉を付ける方に重点を置いている。

清の性分が飽き性というのは棚に置く。

知力には触れない。勉強してないから当たり前である。

読経してるだけで1増えたことに驚きだ。

注目すべきは功徳だろう。

手に入れた経緯と閻魔様の言い様から、善行をした時に手に入るもので、ポイントが高いと天国に行けるんだろう。

説明書きなんて優しいシステムのないスキルボードである。

勝手に解釈して行かなければ、先に進めないと結論付ける清。


一通り見終わって、本題に入る。

スキル『仏の声』の発動条件はなんだ?

あの時の記憶を掘り返して整理する。

普段の読経では特に何も起こらない。

天に召される、いわゆる成仏があるということがわかった。

寺には幽霊がたくさん居ると思っていた。

タカシ君は慈円のお経が道を示していると言っていた。

そこから思うに朝と夕方の慈円の読経がドデカイ天への架け橋になっている可能性はある。

この境内には幽霊は居ない?

もしくは特定の心理条件か?

あの時は遺影を見て、清自身も深い悲しみに襲われた。

故人を思い浮かべることも条件の可能性がある。


考えを整理していると、ドヤドヤと隣の部屋に、大勢の人が入っていく足音が聞こえる。

そういえば今日は檀家の総会があると朝食の時に慈円が言っていたな。


部屋に入る途中で立ち話をしている人の声が聞こえる。

「聞いたか?例の話!」

「あぁ聞いた聞いた。ガキに騙されるなんて高山さんも慈円もアホやな」

「今日の議題はその噂話の件もあるらしい。

変な噂が回ってるってんで檀家総代はお怒りらしい。

そんなアホに寺の金を任せられるか〜寄付金も減らしてやる!!ってな」

不穏な会話が聞こえてきた。

これは不味いことになったぞ。

内心冷や汗を流しながら、総会をしている部屋の壁にそっと耳を寄せるのであった。



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