お坊さんとして生きていく
それから1週間が経った。
清はしっかり丸坊主である。
少しでもついて行こうと毎夜お経を唱え続けたおかげで渡された経本を暗記するまで至っていた。
朝の読経を慈円と唱えていると、チリーンッ!聞き慣れない何とも軽やかな鈴の音が鳴る。
経本から目を離し視線を上げた先に、
『初の仏力1ポイント獲得
才能ないと思って地獄に落とすとこだった』
なんとも物騒なメッセージだが、仏力取得に目を輝かせる清。
あっ!と我に帰り再び読経。
いつも通り終えるとすぐに立ち去って行く慈円が、清の横に立ちじっと見据えている。
お経を途中で止めたから怒られるのか?とビクビクとしている清を他所に、無言で立ち去って行く慈円。
未だに慈円の凝視になれない清だが、先ほどの慈円からはいつもと異なる何かを感じた。
「まさか、バレた?」
そんなわけ無いかと頭を切り替えてステータスボードを確認する。
ちなみに今更だがステータスボードは心の中で、閻魔様お願いしますと念じれば見える。
なんとも閻魔様の自己主張の強いトリガーである。
試行錯誤の上で見つけたトリガーを清は気に入っている。
体力4知力5筋力6仏力1
保持スキル『仏の声』レベル1
さて。遂に仏力1になったぞ!
仏の声が聞けるんじゃないか??
早速境内を散策し始める清。
場所が場所なので幽霊の一人や二人は必ず居るだろうと隈なく探し回ってみる。
特に異変を感じることなく墓地までくると、経本を開き、墓に向かって読経を始める慈円と、お骨を墓にしまう故人の遺族たちの姿を見つける。
遺族が持つ遺影には男子高校生と思われる学ラン姿の子供が写っている。
母親と思しき女性が泣き崩れるのを必死に支えている男性。
ワクワク気分で散策していた清は、急に居た堪れなくなる。
手を合わせて慈円の読経にひっそり続ける。
(安らかに眠りたまえ)「…南無妙法蓮華」
チリーンッ!
『初のスキル使用を確認。ポイント1付与
お前の遅さには恐れ入る。釜茹で地獄で100年じっくりコトコト』
あたりを見回しても特に変わりはない。
どうなっているんだ?と思っていると先ほどまでは聞こえなかった声が聞こえる。
「ごめん…ごめんな…」
声の主は見えないが、確かに遺族たちの中に若い男の子の声が聞こえる。
恐る恐る声の方へ近づいて行くと先ほどよりもハッキリ聞こえる。
間違いなく、母親らしき遺族の側で男の子の声がする。
「あの時ちゃんと周りを見てれば…ごめんな母さん!ごめんな…!」
ふらふらと近づいてくる清に気付いたのか、母親が泣き腫らした顔を向ける。
締め付けられる思いだ。
慈円もお経を唱えながらも異変に気づき、一瞬ギロリと睨みつける。
ただ清の顔に涙が伝っているのを見て、経本に視線を戻す。
お経が終わり黙祷して故人に祈りを捧げる。
「ぐすんっぐすん…あぁそろそろ逝かないとかな。
坊さんのお経のせいか、行くとこ解っちまった…
行きたくねぇな〜最後に母さんのカツカレー食べたかったなぁ…せめて夜ご飯のカツカレー食べれてたら…スッキリはしねぇかぁ。」
聴こえてきた言葉を母親に伝えなければ、伝えてあげたい!そんな思いで更に一歩近づく清。
先ほどから涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった子供が近づいてきていることに気付いていた父親らしき人が話しかける。
「坊主…うちのタカシの友達かい?」
「い"い"え"…ダガジくんの声が…聞こえるんです…うっうぅカレーが…最後にカツカレーが食べだいっで…」
遺族たちと慈円の目が見開かれる。
叱りつけられても仕方ない事であるが、あまりにも迫真のため、子供の悪ふざけとも思えない。
ただ信じられないといった表情で遺族たちは固まる。
「清…本当なんだな?」
慈円から声がかけられる。
「嘘じゃない!」
目を瞑って空を見上げて慈円は続ける。
「タカシ君は他に何か言っているか?」
「そろそろ逝かなきゃならない。
せめて夜のカツカレー食べてたらなって、それからずっと、母さんごめんって謝ってる。」
「そうか……。
うちの清は嘘を吐く人間ではありません。
タカシ君のお母さんお父さん、タカシ君に何か伝えられますか?」
「うぅっグスン。
うちのタカシは私が作るカツカレーが大好物でした…あの日も明日が試合だからって夜ご飯にカツカレーを用意してて…。」
「タカシはここにいるんですね??」
泣き崩れ、縋る様な視線を清に向ける両親。
コクンと頷き、清はタカシ君に話しかける。
「タカシ君…何か伝えることはある?」
「君は僕の言葉が聴こえるんだね!
こんなラッキーがあるなんて!!
伝えたいことが山ほどあるんだ。
お母さんお父さん大好きだよ!
お母さんの作るご飯がこの世で一番美味しかった!特にカツカレーと春巻き!色々我儘言ってごめんね。
お父さん。タバコ吸ってビンタされたの怒ってないからね!その代わり!お母さんを大事にしてあげてね!二人とも喧嘩しないで仲良くしてね!来世かあるなら、また二人の子供として産まれたいな…本当に今までありがとう。愛してます」
一言一句ゆっくりとそのまま伝える清。
ご両親も、疑い混じりだった親族も嗚咽しながら泣き崩れていた。
慈円でさえも、その瞳には涙が溜まっている。
「そろそろ逝かないとだ…ちょっと道が消えかけてるからお坊さんにさっきのお経頼んでもらえないかな?」
「慈円さん…さっきのお経を唱えてもらえますか?タカシ君がそろそろ逝くから道を作って欲しいって」
慈円の目から涙が溢れた。
震えた声で「…南無妙法蓮華〜」と唱えてくれる。
「清君、最後にお願いがあるんだ。
母さんの左隣に居るんだけど、最後にお母さんとお父さんに抱きしめて欲しいんだ」
タカシ君の最後の願いをご両親に伝え、二人は大粒の涙を流しながら了承してくれた。
「あぁタカシ…ここに居るんだね。私たちの子供として生まれてきてくれて、ありがとうね。天国で会おうね!」
「母さん…ありがとう…清君。多分輪廻ってのはあると思うんだ。この姿になってから感じるんだよ。だから母さん達には幸せになって、またどっかで逢おうって伝えてくれ。幸せな家庭を築いてりゃまた会えるって。すぐに天国行こうなんて絶対思うなって!
君に会えて本当によかった。
じゃあそろそろいくわ…
あっそれからこれを〜こうかっ!坊さんにも!」
『功徳1ポイント獲得
お前の場合は100万集めて地獄か天国か微妙なとこ』
そんな大罪を働いた覚えはない。
閻魔様の苛立ちが罪に換算されている気がする。
若干意識を取られたが、切り替えると
「ありがとう〜ありがとぅ〜サヨナラ〜」
少しずつ天の方へ声が消えて行く。
最後の言葉を遺族の方達に伝え、無事に成仏されました。お悔やみ申し上げますと言う清。
涙ながらに、ありがとうございました。ありがとうございました。と遺族みんなから感謝の言葉を告げられる。
心からの感謝など前世から考えても、あまり受けたことがない清は対応に困り果ておどおどとしてしまう。
結果そそくさとその場を後にする清であった。




