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お坊さん家の空気は地獄

それから数日が過ぎ退院した。

清の実家で荷物を纏めたが、なんの愛着も湧かなかった。他人の家で必要そうな物を集めてバックに詰めていく。

少しでもお金になりそうなものが無いか物色して周る。

泥棒ってプロなんだろな。全然見つからない。


キョロキョロと物色する清の姿を見て相談員が苦笑する。

「まだ記憶は戻らないんだね…

言い難いのだが、君のご両親は行方不明なんだ。

祖父母にも連絡を取ったが絶縁関係だったみたいで…

今からいく寺の住職を本当の父親だと思って甘えると良い。根はいい奴だからきっと大丈夫だ。」

ふーーん。そうかそうか

中身は34歳のため特に感傷もない。

とんでもない奴らだなと他人事で聞いていた。


家を出て、車で1時間ほど。

ある程度栄えた街並みを少し外れたホテル街。

なんとも見慣れたピンクの世界に興奮を覚えた矢先に到着。

ホテル街に突如として現れた、歴史のありそうなお寺である。

街中で最も欲の溢れた場所にあるため、かなり異質な感じがする。 


『正福寺』の看板の横には立ち小便、タバコ禁止の紙が貼られ、近くの塀には仏滅とデカデカ落書きされている。

寺に落書きなんて平成の不良はレベルが違うなぁ。

令和キッズのカマキリ踊りを見慣れた清には、中々バイオレンスな趣である。

これは中々大変そうだ。


山門をくぐると整った顔立ちの、袈裟を纏ったお坊さんが立っていた。

前世の俺と同世代くらいだろう。

掃除でもしていたのか竹箒を肩に担いで仁王立ち姿。

……

……。

清の目をじっと見つめている。


不意に僧侶は踵を返して背を向けようとしたため、慌てて挨拶をする。

「初めまして!!今日からお世話になります、剛田清です!!」

「そうか」

そう一言返すと、お坊さんはスタスタと庫裡に向けて歩き出す。


相談員が苦笑しながら紹介してくれる。

「少し変わってるけどいい坊さんなんだぜ。

俗世との関わりが薄過ぎて気難しく見られるが、結構世話焼きでもある。

きっと大丈夫だ!

それから坊さんは慈円って名前だ。

確か宗教上の都合で結婚出来ないとかなんとか。

…幼馴染の俺が言うんだ!大丈夫だ!!」


急ぎ足で慈円について行き、庫裡に入ると60歳ほどの女性が迎えてくれた。

「あらあら〜初めまして!

ここでお手伝いさせてもらってる島田京子よ。

京子ちゃんって気軽に呼んでね」

地獄に仏とはまさにこの事である。

無愛想な坊さんとの二人暮らしにすでに後ろ向きであった清に光が差したような気分になる。


「朝ご飯は慈円さんがご用意してくれるわ!

昼と夜は私が作るの。

18時ごろには失礼しちゃうから、聞きたいことがあったら色々聞いてね!」

ガクリと肩を落としつつも、四六時中を坊さんと過ごすわけではないと気を取りなおす。


用意された部屋に案内され、荷解きしていく。

8畳ほどの和室には小さな机と箪笥が隅に置かれている。

壁には南無妙法蓮華経と書かれた掛け軸。

持ってきた荷物は服と時計とランドセル、お金に換えようと集めた貴金類のみのだ。

時計を机の上に置き、横にランドセルを置いた。他は全て箪笥にしまって荷解き終了である。

使い古されたランドセルが唯一の小学生部屋を主張した。

なんとも激渋の一部屋である。

同年代の子供が見たら監獄と勘違いして泣き出すだろう。


全く歓迎されてる気がしないんだが??

坊さんが引き取るって言い出したんだよな!?

子供のために、なんか玩具でも置いといてくれりゃ無愛想でも良いとこあるじゃんってなるもんだぞ!!


心は35歳のため、全く歓迎されてない中で甘えるなんて出来やしない。

どうせ逃げられないんだ。

覚悟決めて、役に立つ人間だって認めさせてやる!


一息入れて、早速台所に向かって行く。

「京子さん、何か手伝えることはありますか?」

「京子ちゃんで良いのに〜そうね〜じゃあ本堂の床掃除頼んじゃおっかな!

慈円さんがお経をあげてる時間だから邪魔しちゃダメよ!」

「わかりました!」


本堂に向かうと慈円がお経を唱えていた。

低くかなり深みのある声だなと思いつつも、持ってきたバケツと雑巾を使い端から端まで床を丁寧に拭いて行く。

堀の落書きから中身もボロボロかと思っていたが、案外綺麗にしてある。

床全体を拭き終わり、襖の淵まで丁寧に拭き終えて、ふぅっと一息ついていると慈円もお経を唱え終わったようだ。


仏前を向いたまま慈円が話し出す。

「…うちは天台宗だ」

一瞬間が空き「はい」と答える。

「法事が無い日は9時と17時に必ず仏前にお経をあげる」

「…はい」


ザッと立ち上がり、清に近づいてきて経本を差し出す。

「あ、ありがとうございます」

お礼して受け取る姿をじっと見つめる慈円。

何も言わずにスタスタと立ち去って行く。

残された清は困惑したまま考える。

これは…読経するから聴いて覚えろよと言うことか??

養子として引き取られたと思っていたが修行僧として引き取られたのか!?

なんとも気が抜けない生活になりそうだ。

とりあえず頭を丸めてこよう。

かなり適応力は高めの清であった。

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