閻魔様はじめまして地獄
目を覚ますと白い天井と点滴チューブが見えた。
やはり悪い夢だったんだと思い視線を下げると細く小さな腕が目に入る。
栄養が脳に入ったからか、体の感覚と思考が少しずつ現実を受け入れつつあった。
転生した??
は?死んだ??なんで???
全く思い出せない。
パチスロの万枚達成記念で、キャバクラに行ったのは覚えている。そのあとが一切思い出せない。
思考の渦に呑まれ、クラクラとしてきた。
コンコン
ドアをノックして綺麗なナースが入ってきた。
こんな時でも美女には目が眩むのが吉田である。
優しく微笑まれ、デヘヘと気持ちの悪い笑みを返す。
若干笑顔を引き攣らせつつもナースは状態を確認していく。
点滴を替えているナースに質問してみる。
「ここはどこですか?」
「大阪の天王寺病院よ」
ふむ。俺は埼玉生まれの埼玉県民だ。
「誰が病院に?」
「児童相談所の方があなたを見つけてくれたのよ。
奇跡的なタイミングで本当に良かったわ…また後で来るはずだからお礼を言ってね。」
「俺の歳はわかりますか?」
「12歳よ」
若干困った表情で返答するナース。
「俺の名前は?」
目を見開いた状態で「…剛田清くんよ」と返答して急いでナースが出て行った。
医者らしき男性を連れてすぐに戻ってきて色々質問されだが、ほとんど答えられず、案の定記憶喪失の認定を受けた。
その後来た児童相談所の相談員も困った表情を浮かべていた。
仕方ないんです!
34歳吉田です!!
魂が剛田君に乗り移ったようなんです!なんて本当のことを伝えたら、どこに連れてかれるか分かったもんじゃない。
それよりも記憶喪失として、この現実を少しづつ受け入れた方が良い。
おそらく児童虐待を受けていたであろう子供の自分がどうやって生きていけば良いのか…現実から目を背けたい気持ちで少し上を見上げると、ふとカレンダーが目に入る。
1995年8月
はっ!?!?
勝手に令和8年以降に転生したと思い込んでいた!過去に転生したのか!!!
そんな驚きの感情から一転、真顔に戻る。
母さんに会える???
父さんもまだ生きてる!!!!
吉田は20歳の時に父を脳梗塞で亡くして、母は29歳の時に癌で亡くしていた。
もっと親孝行しておけば…なんで検診に連れて行かなかったのか。
あの頃に戻れればとずっと後悔してきた吉田は夢が叶ったことに人生で初めて神様、仏様に感謝した。
南無阿弥陀!神様!仏様!ありがとうございます!
訳のわからぬテンションで手を合わせて叫んだ。
その瞬間目の前がチカチカと暗転したかと思えば光に満ちた。
なんだっ!何が起きた!
眩い光に包まれる
ギュッと閉じた瞼を開けると、目の前には立派な黒髭を生やし、赤と黒を基調としたド派手な着物を着ている老人が現れた。いかにも神様と言わんばかりの恰幅の良い爺さんだ。
「うわっ!!!!」
酷く驚きベッドの上で後退りすると何かにぶつかる。
ナースの腕が固まったように背中を塞いでいる。児童相談員もナースも医者も全く動かない。周囲の時が止まっているようだ。
状況が状況なだけに、意を決して転生ものの定番の質問をしてみる。
「あなたは神様ですか?」
「そうだな。俗世のものは閻魔と呼んでいよう。
地獄の神だ。」
全然定番の返答ではない。
余りにもドスの効いた、地底から響くような声音に全てを忘れそうになる。
ゾッとした。全身が一瞬にして汗だくとなり震えが止まらない。
初めて死の恐怖を目の当たりにしたようだ。
ガクガクの震えて今にも白目を剥きそうな吉田。
見かねた閻魔様が少し苦笑いしながら続けた。
「お前を地獄に迎えにきたわけではない。
これから激動の時代が始まる。
少しばかり現世のものに試練を作りすぎておる。
他の仏には内密にお前に力を貸すことにしたんじゃ。」
「な、なぜ私なのですか??」
震えながらも搾り出す様に質問する吉田。
「お前には普通よりも多くの試練が与えられておった。
悲しみを乗り越えられず闇に落ちたようじゃな。
前世は地獄行きが決まっておったが、極悪人というわけではない。
ワシが少し力を貸したらどうなるのか見てみようとおもぅてのぉ。興味本位じゃ。
それに闇を知るものを明るくしたくなった。
ただそれだけよ。」
妙に饒舌である。何故か事前にセリフを決めていた様な変な違和感を感じた。
閻魔様なのに、明るくしたくなるのか…
なんて考えていたら閻魔様の瞳がギラリと貫く。
心を見透かされている!?
ふんっと閻魔は鼻を鳴らす。
「過去に戻していただいたのは本当に有り難いのですが、何故見知らぬ子供に転生させて頂いたのでしょうか?」
ギロリと先ほどよりも閻魔の目が鋭くなり、おどおどと縮こまる吉田。
「力を貸すと言うても、ちっぽけなものよ。
ただ過去に戻すのでは、他の仏にバレてしまう。
子供の亡骸に、無理やり魂を入れ込んだのよ。
それから少し力を与えてやる。
それも大したものではない。
『仏の声』が聴こえると言うものだ。
たまに見かけるであろう?霊能者だとかいう胡散臭いアレよ。
先ほども言うたが、仏どもがこの時代に試練を作りすぎての。
深い悲しみを持った亡者を多く生みすぎた。
少し手一杯での。
お前に現世で同じ闇を抱える者どもを救って欲しいのじゃ。
ワシが100年ほど不在にしていた間に亡者が地獄の沙汰待ちで溢れかえっておる。
全員釜茹でにしても良いのだが、観音の奴が煩くて敵わん。
捌き切らんから少しでもややこしい案件を減らすのがお前の役目だ」
「最後が本音の気もしますが…選ばれたことに感謝して精一杯努めてみせます!!」
満足そうな笑みを浮かべ閻魔様は姿を消した。
若干人間味のある閻魔様だったな〜と考え込んでいると横から声がかかる。
ビクッと震えて横を見ると児童相談所の相談員が心配そうにこちらを見ていた。
「清君。確認なのだが、君は野ノ寺小学校に通う6年生だ。家のことも学校の記憶も一切ないと言うのは間違いないんだね?」
コクンと頷いてみせる。
相談員は困ったような悲しいような複雑な表情をして考え込んだ。
相談員の優しさが伝わってくる。何となくこの人は信用できるなと考えていると、
とりあえず持ち帰ると一言残して去っていった。




