爆裂のデビュー戦
今世と前世を合わせて圧倒的に惨めな経験に打ち震えながら、総会の部屋に入る清。
中には10人ほどの大人達が、横たわった二人の死体を取り囲む様にしている。
心臓マッサージを必死に行っている大人達を他所に、閻魔の吐きかける直前の顔がずっとフラッシュバックする。
気持ちを切り替えようとしても、真正面から唾を吐きかけられた衝撃から抜けられない。
クソッ!あいつ絶対許さねぇ!!
何が閻魔だ!
やってる事が神様じゃないじゃないか!
ご機嫌損ねたら地獄落ちなんてたまったもんじゃねぇ!
そもそもあいつの仕事減らす為に俺は転生させられたのか?
正気に戻るにつれ、沸々と怒りが込み上げてきた。
入り口で立ち止まっていると、救急車を呼ぶ為に電話して戻ってきた慈円のバタバタとした足音が聞こえる。
「清!今は京子さんのとこに行ってなさい!」
鬼気迫る慈円に圧倒されつつも説得する。
「慈円さん。この状況は俺のせいなんです。」
「なんだって?!?」
室内が静まり返る。
どうやら全員聞き耳を立てていた様で、心臓マッサージを試みていた人も手を止めている。
そもそもこいつら、心臓マッサージだけで人工呼吸をしてなかったがどういう了見だ?
もしや、おっさんのプライドが邪魔しているのか?
おっさん同士でキスするのが嫌だってか?
若干心がささくれ立っている清。
クソッなんかこの状況に集中できないぞ。
そんな事を考えていると高山さんと思われる人物から声がかかる。
「清君、ゆっくりで良いからその話聞かせてもらえるかい?」
タカシくんの時に居たような、居なかったような。
メガネをかけた60代後半くらいの老紳士である。
清は考える。
正直この魂を戻すだけで生き返るかは保証できない。
これは俺のデビュー戦になるだろう。
一か八かになり、安牌を取りたい気持ちもある。
ただ人を生き返らせたら…ぐふふ。
答えは決まった。
「私には仏様からの使命があります。
今回は、仏様のお怒りをこの方達が買ってしまい魂を抜き取られてしまいました。」
「その使命とは何なのですか?」
知らないオッサンから声がかかる。
さっきまで祟りがどうやと騒いでいた人達だ。
この状況に神か、仏か何かしらの存在を感じていたのだろう。
仏様に魂を抜き取られた!
こんな胡散臭い話を熱心な信者の顔で聴いている。
「仏様の使命はまだ言えません。」
俺もまだ見てないんだ!嫌な事を思い出させるな!
「ただ、今回は行き違いもあり、私が謝罪する事で仏様にご理解頂きました。
ここに彼らの魂を返して頂いてます。」
仰々しく両手を水平方向にあげて、手のひらの魂を見せる清。
「こ、ここに魂があるのですか?」
え?
あっこの人達には見えてないのか。
ふむ…と一歩ずつ部屋の中央、横たわる死体に近づく。
近づきつつ、これを胸に押し込めば良いのかなと考える。
と同時に、ふとある事に気づく。
こ、これってどっちが誰だ!?!?
「仏様にも困ったものです。
最後に我々に試練を課されたようです」
「その試練とは何でしょうか?」
ゾロゾロと清の周りを囲む信者達がざわつく。
内心の焦りを隠して澄ました顔で続ける清。
「本来ならすぐに分かるのですが…
この二つの魂は、どちらが誰か分からなくされています。
…お怒りを買われましたから。
この者らに人徳があれば誰か当てられるだろうと」
ザワザワザワザワ
高山さんが質問する。
「何か違いはないのですか?」
ふむ。まじまじと観察する清。
「この左手の方は茶黒と言うか〜道端に落ちてる犬のウンチに近いと言いますか、ブツブツとしており臭そうです!」
誰も突っ込まず真面目にふむふむと聴いている。
「こちらの右手の方は黄色?オレンジがかってますね。
これも綺麗な色ではなく、下痢気味の犬のウンチと言いますか…茶色も混ざっており全体的にザラザラとしてます。あれ?一部凹んでもいます。」
「凹み?性格が歪んでると言うことか?」
「どっちも性根が腐ってるから…これは難しいぞ!!」
「色が明確に違うようやな。腹黒いのは総代やから茶色が総代ちゃうか??」
議論が重ねられるが答えは出ない。
最終的に悪口大会になっており、どちらが性格が悪いか。
勝った方が茶色と謎のバトルが始まっている。
そんな中、ピーポーピーポー。
サイレンがうちの寺の前で止まる。
バタバタと救急隊員が近づく足音がする。
最終的に茶色が高岡さん、黄色が総代で決まったようだ。
なんとなく、茶色が総代な気がしていた清は思う。
こいつら生き返った時を考えて忖度してないだろうな?
勝手に変なルールでやるからこうなるんだぞ!
決まったものは仕方ない。
では!っと儀式めいた仕草で死体に近づく。
「こちらの70代後半くらいの性格の悪さが滲み出た顔の人が総代。
こちらも性格が悪そうな媚びた狐顔の方が高岡さん。
そうですね?
「「「はい!!」」」
慈円もちゃっかり同意していたの見逃してないからな!
そんな中、京子さんが突撃してきた。
「みなさんこちらです!!」
救急隊員がその後ろを続く。
どっぎゅん!どっぎゅん!
「うわっ!!気持ち悪っ!!」
なんだなんだとワラワラ取り囲む信者達。
そんな異様な光景を他所に救急隊員達は、総代達の容体を確認し、すでに手遅れという表情をする。
他の隊員に目配せし、首を振る。
先ほどから救急隊員に目もくれない信者達。
「茶色い方が心臓みたいに脈打ってます!」
「何かに反応してるのか??」
「救急隊?音か?」
各々が考察していく中、高山さんが手を挙げる。
「前から思ってたことがあるんだ。」
ピタリと静まる信者隊。
「ありえないとは思ってる。
ただもしかしたら…京子さんに反応した可能性がある!
総代が京子さんを見る目が昔からヤラシイと!!」
「「「「!?!?」」」」
皆が総代の本体を見る。
見た目からしても80歳近いぞ?
対する京子さんは50〜60くらいか?
とりあえず近くにいた京子さんに両手を出してもらい、茶色玉を置いてみる。
それはもう気持ち悪いぐらいドギュンドギュンと高鳴っている。
「皆さん…正解のようです。」
しら〜とした空気が流れる。
ふと救急隊員から声が掛かる。
「皆さん、残念ながらすでにお二人とも息を引き取られております。お悔やみ申し上げます」
若干カルト集団を見る目をしている気がする。
いや多分気のせいではないだろう。
清にとっては信者を増やす絶好の機会である。
逃すまいと、救急隊員が見ている前で儀式を決行する。
「では皆さん始めます!
慈円さんの読経に続いてご唱和ください!!」
何事かと驚きつつも清を見ている救急隊員。
「「「南無妙法蓮華〜」」」
リズムに合わせるように、清が二人の前で正座する。
位置取り的に、二人のデコのあたりに魂を押し付ける清。
ドキュドキュしている茶色を総代に、黄色を高岡さんに。
若干押し返すような反発を感じつつ、清はギュッと押し付ける。
スポンっ!!
入った!と同時に全力で息を吸い出す二人
「「ふぁっ!!!」」
ぜぇぜえと息を切らせる二人を他所に、
拍手喝采!万歳三唱!お祭り騒ぎの信者達。
「なんじゃこれは?!」
取り残される総代と高岡、救急隊員達であった。




