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36.分析

 縁側には、午後の光が斜めに差し込んでいた。


 庭の草木は風に揺れているが、やはり鳥も虫もいない。この箱庭特有の、妙に整いすぎた静けさが周囲を満たしている。


 縁側にいるのは俺、スカイとファルコン隊の面々。


 ファルコン隊はかつてネクロディアと666の真相を聞いて集団脱走した隊だが、それ以前に戦死したメンツ(ウィラ&マーガレット)や、脱走を止めようとして撃たれた中隊長のポーリン。そしてレベッカの4人で箱庭で再編され、俺の護衛隊という役割を担っている。


 といっても平和な箱庭では暴走して俺に突撃してくるジェイドやユリシアやクリスティーナ派の面々を落ち着かせるのが主な仕事だが。

 

 俺は湯呑みを片手に、ふと口を開いた。

 

「冷静に考えるとさ……女子中高生の集団に男一人って、よく排斥されなかったよな」

 

 隣でココアを飲んでいたレベッカが、すぐにこちらを見た。

 

「なに突然。賢者タイム?」

 

「いやいや、そういうんじゃなくてな」

 

 俺は苦笑しながら首を振る。

 

「普通に考えて問題起こるだろ。エロゲやハーレムラノベじゃあるまいし」

 

 庭で銃剣をつけたM14を素振りしていたポーリンが、ぽつりと言った。

 

「……顔が良すぎたせいかなぁ」

 

 すかさず縁側でウィラと遊〇王で遊んでいたマーガレットが頷く。

 

「顔だね」

 

 ウィラも間髪入れずに続いた。

 

「顔」

 

「何、俺の価値顔しかないの……?」

 

 思わずそう返すと、レベッカが肩をすくめる。

 

「真面目に言うと、顔はかなり大きい。だが顔だけではない、かな」

 

 彼女は湯呑みを膝に置いて、少しだけ真面目な顔になった。

 

「女子中高生集団に男一人って、普通なら警戒されるし、嫌悪もされるし、セクハラ予備軍扱いされてもおかしくない」

 

「だよなぁ……」

 

「でも、スカイは後方で偉そうにふんぞり返ってないで、現場に出た。意外と貴重なんだよ? ブラックバニアではそういう貴族や王族」

 

 今度はポーリンが言った。

 

「しかも有能だった。実際、私もフーイであの恥知らずな裏切り者共から撃たれる前までは生き延びれてたしな。地獄の戦場で、あれで皆脳を焼かれた」

 

 死因でもあるせいか、かつての部下をボロクソにいうポーリン。まぁこれは仕方ない。しかし脳を焼かれたねぇ……さらっととんでもない表現を使いやがる。

 

「顔が良かったのもあるけど、他の男が減点されすぎてたよね。レベッカの話とも繋がるけど」

 

 マーガレットは呆れたように続ける。

 

「徴兵忌避、敵前逃亡、口だけ愛国。上流ほどダサいんだもん。そりゃ比較したら、前に出て戦う王子様に脳も焼かれるって」

 

「鳴り物入りで登場した貴族指揮官様が、お勉強ばっかり得意で実戦じゃクソの役にも立たないこともあったしね」

 

 レベッカが鼻で笑うように言う。

 

「懐かしいな」

 

 ポーリンが遠い目をした。

 

「ラバート山で敵前逃亡したクソったれ、いたよな。あのバカのせいでエデン達が死んだ」

 

 どうもポーリンも貧民街生まれのせいか口は悪い。

 

  「それにメンタルケアも妙に上手い。初めて人殺して泣いてた女の子を、数日後には立派な殺人マシーンに作り変えるのなんて常人には無理だ」


「褒めてるのか、それ?」

 

「とにかく、カリスマが飛び抜けてるんだよねぇうちの旦那」

 

「戦争起きなかったら新興宗教でも始めたら一儲け出来たかもしれないよ」

 

 そうひっでぇ事を言うレベッカとマーガレット。幼馴染二人からカルト教祖適正あるよと言われる主人公は恐らく俺くらいだろうな……。

 

「ただ、初期戦死組からすると、今のノリはなんか怖い時あるけどね! 殿下! 殿下! 隊長! 隊長! って。仮にスカイがエッチな命令だしたら、大多数は疑問も持たずに身体を捧げるんじゃない? それも催眠とかじゃなくて、正気のまま」

 

 ウィラが明るい声で言う。明るいのに内容は物騒だ。

 

「いや、まぁ……」

 

 俺はこめかみを掻いた。

 

「素で洗脳状態に近いのは否定しない。お手軽なファンタジー的な洗脳じゃなくて、教化的なガチなやつ」

 

 俺がそう言うと、マーガレットが小さく笑った。

 

「ま、8股どころの騒ぎじゃあ無くなるだろうね。ただ、スカイ以外が着任した場合を想像すると、もっとひどい事になっていた可能性はある」

 

「ハーレムだグヘヘ……とか思ってた奴ほど地獄を見るやつだな」

 

 ポーリンが断言する。

 

「あー……ありそう」

 

 ウィラも苦い顔で頷いた。

 

「調子乗って女の子達に手あたり次第手を出して、反感買って、ある日後ろから不意に『誤射』が飛んでくるやつだ……」

 

 マーガレットの声音は妙にリアルだった。


「パメラとクラリスが主役引き継いで、誰が撃ったかを探すサスペンスものになるやつ」


 そう言ってウィラは笑う。

 

 レベッカもあっさり続ける。

 

「そもそも欲望にまみれた男なんて、スカイより有能って事は無いだろうし。激しい戦場ほど、ムカつく奴を気づかれずに殺せる場所ないからね……」

 

「やめろよ。急に戦場のリアルを出すな」

 

「リアルだから仕方ないでしょ」

 

「……一応聞いておくが、内戦中、変な事してないよな?」

 

「…………何もしてないよ」

 

 レベッカはわざとらしく笑みを浮かべつつ言った。 なんだよその間。気になるじゃないか。

 

「あー……もしかしてあいつの件? オードリーやマリーと一緒にやった件でしょ? 幽霊化した時に見てたわ」

 

「あれはあんな舐めた真似したあいつが悪いよ。レベッカは悪くない。そもそもスカイが執着してるから隠れてるだけで、レベッカも相当ヤンデレ気質って事を考えると、あれで済んでよかったまである」

 

 そう言うマーガレットとウィラ。

 

「私も警告はしたんだよ? でも666を守る為に仕方なく……「疑わしきは殺せ」ってね!」

 

 待ってくれ、マジで何があったんだ……?

 

 突然出てきたレベッカの闇について触れてしまった俺は、ため息をついて、庭の方へ目を向ける。


 遠くでは、アリスが何やら工具箱を広げ、クリスティーナがその横で妙に熱心に頷いていた。なんだこの組み合わせ。見てるだけで嫌な予感しかしない。

 

「まぁ実際、俺はなんか気づいたら八股になってただけで、初めは与えられた千人の同世代の女の子達を生かしたかっただけだしな……ハーレム作りたかったわけじゃなかったんだが」

 

 口にしてから、自分でもだいぶ酷い文脈だと思った。

 

「結果的にバッドエンド踏んじまったけど」

 

 風が吹く。草が揺れ、誰かの笑い声が遠くで響いた。

 

 レベッカは俺の横顔を見て、それから少し笑った。

 

「うちの旦那は変態だけど根がまじめだからね。スカイの長所は顔だけじゃないよ。自信もっていい」

 

「お、珍しく優しいこと言うじゃん」

 

「顔、戦術眼、責任感、ええかっこしい、そして終わった性癖かな」

 

「最後で台無しだよ」

 

 即座に突っ込むと、レベッカはふんと鼻を鳴らした。

 

「こちとら被害者筆頭なんだよ」

 

 ポーリンが吹き出し、マーガレットが肩を震わせ、ウィラが声を上げて笑った。


 俺は頭を抱えたが、結局少しだけ笑ってしまう。

 

 ……まあ、いいか。

 

 顔だけでここまで来られるほど、戦場は甘くなかった。


 だが、顔が良かったのも事実。


 それもまた否定しがたい。

 

 縁側の外では、相変わらず風だけが庭を渡っていく。


 平和で、静かで、そして少しだけ狂っている。

 

 この箱庭では、そういう結論に落ち着くらしい。

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