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28.抵抗

 娯楽セットの木箱が、事務室の長机にずらりと並んでいる。


 将棋、オセロ、囲碁、トランプ、UNO、バックギャモン、人生ゲーム……。


 そしてコモン統一のカード束が何箱も。


 箱庭地獄にしては、妙に生活感がある光景だ。


 俺は椅子に腰掛け、顎に手を当てた。


「絶望の自殺エンドから都合のいい転生展開ってのは、まあまあ見る」


 ポケモ◯カードを一束、ぱらぱらと弾く。なんとなく手に取ったカードは「テッポウオ」。拳銃で頭を撃ち抜いて終わった前世(?)を思うと皮肉なカードを引いたな。


「でもな。君達の罪は地獄に落ちる程度じゃ償えないって永遠の牢獄に閉じ込められるルートは、あんまり見ない」


 エリザベスが静かに言う。


「救済に見せかけた刑罰、ですね」


「そうだ。なんなら普通に戦死して全滅でも、このルート入ってただろ?」


 俺は天井を見上げる。


「なあ、蛙神」


 空間が歪む。


 ネクロディアがふわりと現れ、にやにや笑う。


「あ、分かった?」


 その声は妙に軽い。


「仮に正史本編でバッドエンドを迎えても、救済措置はあらかじめ設定しといたよ。まー、私なんて優しいんでしょ」


「優しい?」


 思わず鼻で笑う。


「こいつめ……」


 俺は腕を組む。


「つまり俺たちは、お前にとっておもちゃ兼ペットってことだ。死後も回収して遊ぶ。くさっても邪神だな」


 ネクロディアは肩をすくめる。


「邪神が優しいわけねぇだろ☆」


 ぱちんと指を鳴らす。


「クトゥルフの連中見てみろよ。あいつら会話すら成立しねぇぞ♡」


 ふざけた口調のまま、ほんの一瞬だけ、目が細くなる。


「私的にはさ。今まで食らってきた生贄たちが、大人に捨てられた絶望の中で抵抗もせず、ただ震えて祈りながら胃袋に消えていくのを見続けてきたわけ」


 空気が少し冷える。


「それに比べてスカイくんときたら、持ち前のカリスマと才能で現実に抗い続けて、奇跡を起こし続ける」


 ネクロディアはくすりと笑う。


「この世界線では最後の最後で折れたけどね」


 胸の奥が、わずかに疼く。


「そりゃさ。なんだこいつら、おもろ……ってなるでしょ?」


 軽い調子だが、言っている内容は重い。


「知ってるかい? 屠殺される家畜達って、殺される前に死を察しても、だいたいあんまり抵抗ってしないんだよ。……君の前に食べた生贄たち――みんな、大人に見捨てられて、希望をなくして、ただ絶望しながら消えていくだけだった」


 エリザベスが息を飲む。


「体や頭に障害がある娘、不細工で売り物にもできない娘、不義の娘……」


 ネクロディアは淡々と数える。


「だいたいこの三大理由が供物テンプレだったね」


 静寂が落ちる。俺は顔をしかめる。


「なんかすげぇ闇深い話を聞いたんだが」


 ネクロディアは肩をすくめる。


「闇深いも何も、人間社会ってそういうもんだろ? 多数を救う為に弱いものから切り捨てる」


 そして、少しだけ真面目な声で続けた。


「でも君たちは違った。最後まで足掻いた。奇跡を積み重ねた。自分たちで意味を作ろうとした」


 俺をまっすぐ見る。


「だからさ。死んで終わりにするのは、ちょっと惜しいなって思ったんだよ」


 おもちゃ扱いは否定しないあたりが、実に邪神らしい。


 俺はため息をつく。


「で、楽しませてもらってる礼に娯楽セットか」


「そう。退屈はかわいそうだしね。君に丸めこまれた感はあるけど」


 ネクロディアは指を鳴らす。


「多少の娯楽くらいなら、追加してやるよ。高度文明はダメだけど」


 マリアが小さく笑う。


「完全に飼い主とペットの会話ですね」


「誰がペットだ」


 俺は立ち上がり、バックギャモンを広げる。


「いいさ。おもちゃだろうがペットだろうが関係ない」


 駒を並べる。


「生き延びる。遊ぶ。笑う。考える」


 ネクロディアが首を傾げる。


「反省は?」


「後悔と一緒に抱えていく」


 俺は淡々と答える。


「でも、止まらない」


 蛙神はしばらく黙り込んだあと、ふっと笑った。


「ほんと、面白いね君」


 永遠の箱庭。


 出られない世界。


 それでも、盤上には無数の可能性がある。


「ほら、クソ邪神」


 俺はサイコロを指で弾く。


「さあ、盤上で戦おう。せっかく用意したんだろ? 昔、かの白河院が僧兵と水害以外で、唯一自分の思い通りにならなかったものだ」


 意地の悪い笑みを浮かべて煽る。


「流石のお前もさいの目は、思い通りには出来んだろう?」


 ネクロディアはくつくつ笑う。


「地獄を快適空間に改造する人類、やっぱり面白いわ」


 箱庭は牢獄かもしれない。


 だが――俺たちはしぶとく生きている。

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