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27.娯楽

 屋敷。


 いつもと変わらず、この謎の屋敷は箱庭の中心に建っている。


 その屋敷の一室。事務室とした地味な部屋の中で、俺は倉庫の在庫一覧の書類を指で弄びながらため息をついた。


「いやさ、ラインナップ見る限り、最低限の生活はできるんだよな」


 書類には延々と記録されている物資一覧。


 医薬品。


 食料品。


 衣服。


 弾薬。


 銃火器。


 工具。


 その他細々した日用品。


「はいはい助かる助かる。生存率100%仕様ありがとう。でもな――娯楽が圧倒的に足りない」


 エリザベスが横から覗き込む。


「精神衛生には絶対よくないですね。151人が暇を持て余すのは暴動の元です」


「だろ? このままだと退屈で死ぬぞ。いや死ねないけど」


 死ねない退屈は、わりと地獄だ。


 俺の参謀その2であるマリア・スピリットも口を挟む。


「幸い、図書室に本は大量にありますが、娯楽が読書だけってのも味気ないですわ」


 俺は腕を組んだ。


「だからさ、ネクロディアに仕入れ交渉すればワンチャンあるんじゃね? あいつ意外とチョロいし」


「ちょーっと待って?」


 空中にぬるっと現れる蛙神。


「なんで邪神が物資調達係みたいな扱いになってるのさ。私そんなお助けNPCじゃないんだけど」


「お、良い所に来たな。……まずは◯witch2と最新作のポケモ◯ソフトを人数分だな。151台。さあ出せ。ソフトはきちんと2種類出せよ?」


「だーめ」


 即答。


「ゲーム機なんて渡したらキミたち文明レベル上がってこの箱庭の意味なくなるでしょ。半永久的に娯楽に逃げて反省ゼロとか困る困る」


 エリザベスが首を傾げる。


「反省……? 殿下はすでに反省しているのでは……?」


 ネクロディアは肩をすくめる。


「してるのは後悔でしょ。反省じゃないよ」


 ぐさっとくる。確かに内戦中の人殺しについては、必要悪だったという気持ちが一ミリも変わっていないのは事実だが。


「まあ、その辺りは置いといて。◯witch2×151台とか、完全に現代日本の休暇ルートじゃん。ここはそういう世界じゃないの!」


「じゃあせめてテレビを……You〇ubeとかUnex〇とか映る最近やつ」


「聞けよ!?」


 ネクロディアが叫ぶ。


「反省しろって言われて直後に娯楽要求し始めるってどうなのさ!」


 マリアが冷静に補足する。


「殿下、まるで顧問に予算ちょうだいとたかりに行く生徒会長ですわよ……」


「まあまあ」


 俺は手を振る。


「ここで節約しても意味ないし。どうせ死ねないし。退屈は精神的に毒。邪神、そこらへん理解して?」


 ネクロディアは腕を組んで考え込む。


「……最低限の娯楽なら、まぁ……気が向いたら用意してあげるよ。ただし高度文明はNG!」


 よし、来た。


「じゃあ◯witch2は我慢して――しょうがないから、将棋、オセロ、チェス、囲碁、トランプ、バックギャモン、人生ゲームあたりで手を打とうか。あとコモンの遊◯王カードとポ◯モンカードの山。最低限そこだけで」


 ネクロディアが目を細める。


「めっちゃ現実的で揃えやすいものに落としてきた!? これ絶対わざとだよね!? さっきの◯witch2要求が布石だったでしょ!?」


 マリアはにやっと笑う。


「まず絶対通らなそうな要求をぶつける。相手が全力で拒否してきたところで――」


 エリザベスが引き継ぐ。


「あえてハードルを下げた現実的な提案を要求することで通りやすくする……まるで紛争の停戦交渉ですね」


「交渉は心理戦だ」


 俺は肩をすくめる。


「最初に無茶ぶりを主張しておけば、その後の要求は譲歩に見える。邪神相手でも通じるんじゃね?」


「ちょちょちょっと? キミ今、邪神相手に人間界のセコい交渉術を使おうとしてない? 邪神なんですけど私?」


 マリアが目を輝かせる。


「殿下のこういうところ……好きですわ」


「邪神を交渉技術で丸め込もうとする大隊長、冷静に考えるとバケモンですよね……?」


 とエリザベス。


 ネクロディアは頭を抱える。


「くっ……それくらいなら別にいいけどさ……なんでコモンだけの遊◯王とポ◯カ指定してくるの!? 妙にリアルじゃない!?」


「トレカは少ないカードプールの中でやりくりしてる時期が一番楽しいんだ。それに1ターンキルには風情が無い」


 俺は真顔で答える。


「151人でやるならコモン統一の方がフェアだし」


「フェアとか知らんが!? なんかもう……押し切られた感すごい……!」


 エリザベスが淡々と宣言する。


「交渉成立したみたいですね」


 俺は満足げにうなずいた。


「よし……これで退屈死は免れた」


「死なないけどね!」と蛙神。


 空中でふよふよしながら、ネクロディアはぶつぶつ言う。


「人類……面白いなあ……地獄の箱庭のはずなのに、生活環境がどんどん快適になっていく……」


 俺は椅子にもたれかかった。


 地獄だろうが檻だろうが。


 退屈とだけは戦う。


 それが第666特別大隊の新たな任務だ。


「次は映画上映会でも交渉するか……」


「やめて!?」と蛙神の絶叫。


 箱庭生活、思ったよりなんとかなりそうだ。

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