23 みんなの視点2
クライマックスです。楽しんでもらえると嬉しいです。
「マリエッタ嬢・・・懐かしい名だな。彼女は我が国に咲き誇る美しい真紅の薔薇であった。しかし、佳人薄命。二十歳を迎える事なく療養先で亡くなったと聞いておるが、本当は駆け落ちしたということか?」
陛下の問いにシェリーメイは首を横に振った。
「いいえ。父の名誉の為に言わせて頂きますが、駆け落ちではありません。父は母の出自を知った時点で自ら身を引いたのです。しかし、母は望まぬ縁談から逃れるために家を出て、父の元へ向かったのです。つまり母の押しかけ婚です」
サロン中がシーンと静まりかえった。
「祖父は家名を汚した母を死んだ事にし、両親は地方の小さな町で結婚し、私が生まれました。私は七歳まで両親に愛されて幸せに暮らしました。しかし、その幸せは母がある日突然父を刺した事で、壊れました」
・・・・・・・・・
「両親の八回目の結婚記念日の夜、突然見知らぬお腹の大きな女性が我が家に乗り込んできたのです。父の子を身籠ったので責任をとれと。そして母は父に何も問わないまま、いきなりその場にあったケーキ用のナイフで父を刺したのです。私の目の前で・・・」
サロンにいる誰一人、言葉を発しなかった。
「父は一命を取りとめましたが、完治するまでに一年近くかかったそうです。母は正気を失ったので裁かれる事なく、私共々ローゼン公爵家のシュナイエル領地に引き取られました。
しかし母は既に死んだ事になっていたため、屋敷の中に閉じ込められていました。私もそうです。その暮らしは酷く辛いものでした。何故なら、私は父親似だったため、母が私を嫌っていたせいです。それでも一部屋に閉じ込められていたのですから、母も私も地獄のようでした」
シェリーメイがそこでフードを脱ぐと、セットされていない美しい薄茶色の髪がサアーッと広がった。彼女は片手で前髪をかきあげた。そこには髪の生え際から額にかけて傷跡があった。
「母は事件からちょうど一年後、私の顔を見て父の事を思い出して錯乱しました。母は私に部屋から出て行けと命じましたが、部屋には鍵が掛けられていたので、私は出て行けませんでした。母はそれに腹を立てて私に暴力を振るいました。そして近くにあった花瓶を私の頭に投げつけました。これがその時ついた傷です。
母は血を流す私を見て正気を取り戻しました。そうです。父を刺した事、私に怪我をさせた事にショックを受けて、騒ぎを聞き付けて侍女が開けたドアから母は外へ飛び出しました。
その時運悪く、私達に真実を告げようと訪れた父と遭遇してしまいました。
母は更にパニックになり、屋敷の裏を流れる川に身を投げてしまいました。そしてその母を助けようとして、父もまた川に飛び込み、二人ともそのまま流されてしまいました」
サロンにいる者は皆顔を歪めていた。マリエッタを実際に知っている者達は悲愴な顔をし、ハンカチで口元を押さえている者もいた。
「悲惨な話だな。まるで芝居のようだ。しかし、貴女の父君が告げたかった真相とは何だったのだろうか?」
陛下の言葉にシェリーメイはあっさりとこう答えた。
「父は不貞などしてはいなかったという事です。父は罠に嵌められたのです」
「罠だと?」
陛下は眉間に皺を寄せた。皆もざわついている。
「実は父は助けられて無事でした。そして大分後になってから、私は父からその事を聞きました。
確かに父は友人に誘われて、その女性の店には出かけましたが、そこで父は友人に酒に薬を盛られたのです。その友人からの言質もとってあります。
生まれてきた子供は父の子なんかではありません」
シェリーメイはこう断定したが、陛下は疑わしそうな顔をしてこう言った。
「それを一体どうやって証明するんだね? それにそもそもの貴女の本当の出自をどう証明するのかな?」
陛下は右側の肘掛けに体を預け、右の掌に顎を乗せ、意地の悪い薄笑いを浮かべ、疑わしそうな目をしながらこう質問してきた。
周りのざわめきが大きくなった。
しかし、シェリーメイは平然とこう言った。
「証明出来ます。ここで今から証明してもよろしいでしょうか?」
「陛下の御前で何をしようとするのだ。失礼だろう」
リリースリー公爵がシェリーメイを睨み付けながら言った。すると彼女は小首を傾げた。
「何をとは? 今日はサプライズパーティーですよね? ですから私の出自をはっきりさせる事でサプライズを起こしたいだけです。確かに魔法は使いますが、別に危険な事はありません」
「君の出自とやらがサプライズになるのか?」
「ええ。まあ、私の事だけでは大した事はありませんが、何人かの出自を明らかにすれば、結構なサプライズになり、陛下にも喜んで頂けると思います」
シェリーメイのこの発言にリリースリー公爵とアンナ元王妃は内心かなり動揺していた。なんとか止めさせようと思ったが、すぐ様陛下が承諾してしまった。
「面白そうだ。やってみろ」
シェリーメイは侍女アリー=コロン(メアリーナの変装)から薄緑色をした少し厚手の長方形の紙を受け取り、それを正面の王族に対して見せ、それから全体に見えるように、くるっと一回転しながらこう説明した。
「これはコンシネという植物の葉で梳いた紙です。この薄緑色の紙に我が家に伝わる秘術である呪文を唱えてから、血を一滴垂らします。そうすれば、この紙の表面に私の系譜が表れます。ほら、このように・・・」
三十七年前に同じ光景を見た者達が、忘れかけていた悪夢を思い出して悲鳴を上げ、数名の紳士がサロンの中央に集まりかけたが、陛下がそれを制した。
シェリーメイは両手を組んで、数分ブツブツと呪文を唱えた後、両手を広げて紙の上部にかざした。掌からは金色の光が放たれて、紙の表面を照らした。
その後彼女はコートの胸元を閉じる為につけていた黒いブローチを外すと、そのピンの先で左手の人差し指の指先を刺した。そしてその指を紙の真上にかざした。
ポタリ・・・
赤い丸い粒が薄緑色の紙の真ん中に落ちていった。
すると紙の上の血の点が、ジワジワと上下左右に伸びていくと、やがて家系図を表し、人の氏名を次々と浮き上がらせていった。その家系図には三世代前までのものが記されていた。紙がもっと大きければ恐らくはもっと世代を遡れる事だろう。
シェリーメイは自分の系譜が記された紙を陛下に捧げた。そして彼はそれを受け取って眺めてから頷いた。
「確かにそなたはマリエッタ嬢とエドワード男爵の娘であり、先々代ローゼン公爵の孫と記されているな」
しかしそこに異義を申し立てた者がいた。それはリリースリー公爵だった。
「お待ち下さい、陛下。その紙に記された系図が正しいと、今度はそれをどうやって証明するのですか?」
すると陛下は笑った。
「そちらはこの私が証明しよう。私は幼き頃に、やはり同じような魔術で系譜を記してもらった事がある。それと比較すれば本物かどうかがわかる。紙をもて!」
シェリーメイは先程同様に薄緑色の紙に魔法をかけ、それを陛下の侍従へ手渡した。侍従はその紙を陛下の前に捧げた。陛下はなんと自分の右手の親指を噛むと、その紙の真上から血を垂らした。
するとシェリーメイの時と同じように次々と系譜を表していった。やがて陛下はそれを満足そうに眺めてから皆に言った。
「間違いなくこれは私の系譜である。これでこの魔術は本物だと証明された。さて、先程そなたは自分の出自と、父君の子とされた子が本当は誰の子なのかを証明したいと申していたな。しかし、その為にはその子供がいなければ証明しようがないな。一体どうするどうするつもりだね?」
すると、シェリーメイは深呼吸を一つしてからこう言った。
「陛下、実はこちらにその子供が参っております。その者の系譜を調べる許可を頂けないでしょうか?」
サロンの中の興奮は最高潮に達した。リリースリー公爵が真っ青になって狼狽えている事に、関係者以外気付いていなかった。
「もちろんだとも。これこそ今日最大のサプライズと言えるだろう。すぐその者をここへ呼び出すように!」
陛下のこの言葉と同時に、中央にいた黒いフード付ストレートマントに身を包んだ背の高い男が一人前に一歩踏み出した。そしてその場でフードを脱いだ。
・・・・・・・・・
ざわついていたサロンが一瞬で凍りついた。
そこに立っていた若者は、金色が少し混じった美しい銀髪に、黄金色の瞳をしていた。そう、彼は王族の血筋を体現していた。そして、リリースリー公爵とも同じ色合いだった。
既視感。リリースリー公爵がアマンドに対して抱いたそれは、まさしく自分の容姿だった。
「アマンド・・・どうして?」
シャルロッテが呆然と呟いた。
シェリーメイは先程と同様コンシネで梳いた薄緑色の紙に魔法をかけ、その紙の上にアマンドの左手首を掴んでそっとかざした。
二人は見つめ合うと、小さく微笑んだ。そしてアマンドのブローチのピンを刺した。
ポタリ・・・・・・
まるで美しい赤いルビーのような小さな粒が、薄緑色の紙の上に落ちた。そしてそれはあっという間に四方八方へと広がった。
そしてその系譜が出来上がると、それと同時にリリースリー公爵の体が崩れ落ち、シャルロッテの悲鳴が上がった。
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