22 みんなの視点
これで最終章にする予定でしたが、長くなりそうになったので、一旦切って次章へ続きます。終わる終わる詐欺のようになってしまい、誠に申し訳ありません。
王宮には年に一度その年の終わりの月に、サプライズパーティを開く伝統がある。
大昔の初代の建国王が、長きに渡り苦労を共にした妻である王妃の誕生日に、愛の詩を朗読しながら、彼女が好きな薔薇の花を、彼女の年の数だけ贈って驚かせた、という逸話が起源と言われている。今では招待された側が王室メンバーを驚かすという趣向に変わっているが。
しかも、現在ではそのサプライズパーティも大分形骸化してきていてる。もちろん歌や楽器の演奏、踊り、格闘技などの得意なものを披露したり、自分で創った芸術品を皆で観賞しようとする者もいる。しかしその多くが、個人のサプライズ報告をするだけだ。例えば婚約、結婚、妊娠、出産などの。
リリースリー公爵家では、ヘルマンが後継者に決まった事と、娘の婚約の発表をしようと思っている。
そう、リリースリー公爵家の一番の弱みは、毎年このサプライズパーティにおいて、大したサプライズを行えない事だった。
自宅で開く夜会ならば贅を尽くし、いくらでも社交界に話題を振りまく事は出来る。しかし、この王宮のサプライズは金をかければいいというわけではない。アイデアとセンスが大事なのだが、情けない事にこの公爵家にはそれがなかったのである。
それに比べてローゼン公爵家は毎年趣向を凝らしたサプライズをして、王族及び他の高位貴族達に絶賛されている。
アランティス=リリースリー公爵がチラッとサロンを見渡すと、目の端に、黒いフード付ストレートマントを着込んだ一団がいた。どうやらローゼン公爵家の面々は、今年は魔法使いの仮装をするようだ。
そしてその反対側にはヘルツ家の者達が固まっていた。その中に妹のエレンを見つけて、アランティスは目を見開いた。妹の姿を見たのは八年ぶりだった。
確かに年をとり、髪の毛も白髪混じりだったが、最後に会った時よりふくよかになり、元気そうだった。夫であるヘルツ侯爵は昨年事故にあって、領地で保養していると聞くが、妹は沢山の家族に囲まれて幸せそうに微笑んでいた。
それに比べて我が家はなんて寂しいのだろうと、リリースリー公爵は思った。二十年前に娘のシャルロッテが生まれてから変化がない。三人のままだった。側室を持てと妻に言われたが、妻より低い身分の女性を側に置く気にはどうしてもなれなかった。
シャルロッテが魔法使いの仮装をしたアマンドに声をかけようとしていたが、
「貴女達の婚約発表はサプライズなのだから、親しく声をかけたりしては駄目よ」
と母親に言われて肩をすくめながらも、少し離れた所にいる婚約者の顔を頬を染めながら見つめていた。
そうこうしているうちに、会場には招待客が揃い、王族のおでましを待った。やがて軽やかなファンファーレが鳴った後、扉が開き、国王陛下一家が登場し、数段高い席に座られた。両陛下の側には陛下の母である元王妃のアンナ、そして王太子殿下や二人の弟殿下、二人の王女殿下がお揃いになられた。
パーティの開始にあたり、陛下は珍しくこのように発言された。
「このところ、ただの電撃発表とやらばかりで、些か興醒めしておったが、今日はまさしくサプライズを披露してくれる者達がいると聞き及んでいるので、それを楽しみにしているぞ」
その意味深長な言葉に、招待客達は何かあるのかと、一瞬戸惑いの表情をしたが、誰一人声を出す者はいなかった。ただ、皆胸騒ぎのようなものを感じたのだった。
サプライズの発表は爵位の高い者から順になされる。催し物が重なった場合、高位貴族の面目を保つためである。演目が重なる場合は、下位の家は内容を多少変えなければ失礼にあたる。これが個人サプライズに走る家が増えた原因の一つだろう。
まあ、どのみちリリースリー家にはそんな事関係なく芸がないだけだったが。
とりあえず一番手のリリースリー公爵一家がサロンの中央に登場した。公爵がヘルツ侯爵家の一団にいたヘルマンを手招きした。
そしてヘルマンが公爵の横に並ぶと、こう発表した。
「こちらにおりますのは、皆様もご存知でしょうが、ヘルツ侯爵家の四男で私の甥でもあります、ヘルマンでございます。そして先日聖堂におきまして私との養子縁組の届けを出し、正式に親子となりました事をご報告いたします」
「「「ホオーッ!」」」
形ばかりの驚きの声と共に、多くの拍手の音が響いた。そしてその後に告げられた公爵の言葉に、その場にいた人々は今度は本当に驚きを隠せなかった。
「ヘルマンが私の息子となった事で、娘とは兄妹となりましたので、二人の婚約を解消する事に致しました。そして、娘は新たに別の者と縁を結ぶ事となりました事を、この場をお借りして発表させて頂きます。
アマンド君、こちらへ」
リリースリー公爵が手招きすると、ローゼン公爵家の一団の黒い塊の中から、黒いフード付ストレートマントを着た、すらっと背の高い男が歩いて来て、シャルロッテの隣に立った。サロン会場に大きなざわめきが起こった。
「あれは誰だ? ローゼン公爵家の人間だぞ」
「両公爵家は犬猿の仲なのにどうしたんだ!」
「そもそも、シャルロッテ嬢は長年ヘルマン卿の婚約者だったよな。先月の夜会でもご一緒していたではないのか?」
まあ、これは想像していた事だ。色々噂をたてられるのは致し方のない事だ。リリースリー公爵は顔色を変えずに、アマンドに向かってフードを脱ぐように命じた。しかし、アマンドがマントをすぐに脱がないので訝しく思った時、彼は突然陛下の前に跪き、臣下の礼をとって、言葉を発する許可を求めた。
思いもかけないアマンドの行動に公爵は驚き、彼を咎めようとしたが、陛下は鷹揚に頷いた。
「今宵はサプライズパーティである。堅苦しいことは無しだ。なんだ、申してみよ」
「ありがとうございます。発言する事を許して頂きまして、恐悦至極に存じます。
私はエローベンス辺境伯の一子アマンドと申します。ローゼン公爵家におきまして執事をさせて頂いております。この度、縁ありまして、リリースリー公爵閣下のご息女シャルロッテ様と婚約の運びとなりました。
しかし、私の現在の立ち位置はローゼン公爵家の家臣でございます。次にお披露目します催しに私も加わらなければなりませんので、このコートのフードを今脱ぐ訳にはまいりません。それをご容赦願えませんでしょうか」
陛下の前だというのに、堂々とこう述べたアマンドに、不敬な態度としかめ面をしつつも、内心驚きを隠せなかった。なんなのだ、この度胸の良さは・・・
陛下は怒るどころか、悪戯を楽しむ子供のような表情をしていて、面白がっている様子だった。
幼少の頃から天才の名を欲しいままにし、厳しい帝王学を学んだ後は、他人には例え腹心の家臣の前であろうと感情を表さない。そんな陛下が相好を崩すとは! これはわざとなのか? リリースリー公爵は何か不吉なものを感じて、脇の下に嫌な汗をかいていた。
「久々にサプライズを見せてくれるというのならばもちろん構わない。しかし、もし私をがっかりさせるものだったら、覚悟は出来ているのだろうな? 期待外れであれば容赦はしないぞ」
陛下の顔が急に真顔になった。公爵はゾクッとしたが、隣のアマンドは平然と、
「御意にございます」
と応対した。見上げた根性だ。周りの人々も唖然としてこの様子を眺めていた。
リリースリー公爵は気を取り直し、立ち上がったアマンドの背に片手を当てて、二人一緒に陛下、及び王族の皆様に向かって一礼したのだった。その後、アマンドはシャルロッテをエスコートして、一旦その場を離れて行った。
二番手はローゼン公爵家だった。
女公爵シェリーメイ、前公爵夫人セリーヌ、執事長フォルト=グロースベルク、侍女アリー=コロン、そして執事アマンド=エローベンス・・・・・
フォルトとアマンドが壁際から小さめのテーブルを運んできて、玉座近くへと配置した。
「これから殿下方、並びにこちらにおいでの皆様に、我がローゼン公爵家伝統の秘法魔術をご覧になって頂こうと思っております」
フード付ストレートマントを身に着けたまま、シェリーメイ=ローゼン女公爵が恭しく完璧なカーテシーをした。
「秘法をここで披露しても構わないのか?」
陛下が皮肉とも、心配とも受け取れる疑問を口にした。すると、彼女は両陛下にだけ見えるように真っ直ぐに顔を向けて、微笑んだ。
「この秘法は我がローゼン公爵家の直系の子孫のみに伝わる秘法魔法ですので、仮に私がこのまま結婚できずに子をなさなかった場合、日の目を見る事なく、誰の目にも触れずに消えてしまいます。それでは忍びないので、この場においてお披露目させて頂けると幸いに存じます。よろしいでしょうか?」
今までシェリーメイを嘲笑してきた貴族達は、少し申し訳なさを感じた。まだ若くて美しい一人のご婦人が、早々に結婚も子供も諦めると言うのを聞くと、やはり同情を禁じ得なかった。しかし・・・
「そなたは確かに今現在は公爵家の当主ではあるが、元々は遠縁からの養女だと聞き及ぶ。それなのにどうして、直系にしか伝わらない秘法を会得出来たのかね?」
陛下のこの言葉にサロン内がざわめいた。しかしシェリーメイは平然とこう言った。
「先々代の我がローゼン公爵家当主は、嘘の養子縁組の書類を聖殿と役所へ提出致しました。誠に申し訳ありませんでした。祖父に代わりましてお詫び申し上げます。
私は先々代ローゼン公爵の第一子マリエッタと、トーマス=エドワード男爵の娘です。よって直系ですので、我が家の秘法を会得する事が出来たのでございます」
サロン中に大きなどよめきが沸き起こった。一つ目のサプライズが成功したのだった。
読んで下さってありがとうございます。




