KANATA
「ャはり、私と貴方は分ヵり合える」
大きく、宣言する赤い靴。ずいぶんと興奮し様子で、正直関わりたくはない。
俺は溜息と共に、ナギを肩に担ぐ。剣姫騎士状態でも重さを感じていた剣が、風船製の剣を振る様に、軽く持ちあがる。
「にぃ」
「悪い」
ただ、重いは武器としては褒め言葉だろう?
言われて嫌だと、そういう気持ちもわかるので素直に謝る。
《コレは何事ですかッ!?》
エイダが今更になって驚きの声を上げる。やめてくれよ、ただでさえ頭が痛いんだ。キンキン声は辛いぜ。
「不可能ではないと思ってた、でも危険だと、だからやめて欲しかった」
俺の右隣り、幻影を投射したナギが言う。よくよく見れば、反対側には見世物状態のエイダの幻影も。
「それで、まだ、戦ゥのデ?」
「こっからが、本番だ」
そう言い、左手の槍を向ける。こちらも軽い。それぞれで長物を握り、何とも馬鹿らしい姿だが、負ける気がしねぇ。
《剣姫騎士の武装展開は魔法少女の防御システムと干渉してしまうはずなのに!?》
カタカタと、空中に展開されたキーボードを打ち込み、データを確認するエイダ。覗いてみると、俺の二面図が色を塗られ表示されている。頭と腹、胸の辺りが随分と真っ赤だがそれは恐らくダメージだろう。
戦いに意識を向ける。
「ならァッ!!」
地を蹴り、駆ける赤い靴。身体が強化されたとはいえ、やはり速い。数発までは往なしきれるが、このまま時間を与えれば怪しいものだ。
《剣のルーツで考えれば、魔法的防衛機能が反応するはずでは!?》
「アレルギーと同じ、本人がソレに反応をしなければ拒絶反応は出ない」
――ガタガタ言ってないで、力を貸してくれ。
脳内で概要をまとめ、エイダに伝える。エイダはそれを受け、魔法を構築する。
剣姫騎士の外装、大袖が手の様に姿を変える。ナギの遺志により駆動するソレは俺の回避の補助を行う。
そうして俺は、二人の補助を受け、目の前の敵の隙を見る。
僅かでも隙が必要だ。その隙があれば――旋回の際、足元の瓦礫に気を取られ、下を見た――俺の意思が一切のラグ無くエイダに伝わる。その隙にエイダは俺の頼んでいた魔法を差し込む。
勝利を確信し、頬が緩む。赤い靴は俺の顔を見て――その緩んだ面を無理やりにでも殴ってやろう――そう思っているんだろう?
旋回を終え、今一度加速をする赤い靴。その姿がさらに大きく変わる。
もう一度の加速。恐らく、今までは出来なかった加速。今また一つ壁を超えたのだろう。エイダの魔法陣が形成されるより早く、ゴールテープを切る様に、魔法陣をその身で破り進む。
「貴方ハ、私のォオオ!!!」
その速度が更に上がる。驚きを隠せない――赤い靴!!
「俺達の勝ちだ!!」
赤い靴の体がわずかに浮き上がる。エイダに組ませた魔法陣は加速の魔法。
『The END』の黄金律、相手の速度に合わせるその性質。赤い靴が少しずつ速くなるのは、その性質故だろう。こちらの対応速度が上がるから、赤い靴の速度も上がる。
だが、速度に限界はある。俺たち人間にも、『The END』にも、宇宙にも。
299792458 m/sに達した時、何者にも反応は不可能だ。
加速させる、僅かに上向きに。加速する、重力の楔から解き放たれる。
加速が止まらない。進む先々に魔法陣が展開され、加速させる、加速する。
俺の目の前に来る赤い靴、まだ浮き上がりが足りない。
「何故、私ォ見捨てるノですヵ!? 黒の――」
身体を深く潜り込ませ、地を這うように、刃を走らせる。
「あばよ!」
赤い靴の身体を、刃に乗せ、大きく振り上げる。
刀身に乗せられたその質量が、打ち上げられる。
その身を空へと向け、加速する、加速する、加速する。
そうして、キラリ星になった赤い靴を眺める俺達。
《ギャグ漫画みたいな幕引きですね》
そう言うなよ。
「帰ってきそう」
もうあんなのとは会いたくない。気が付けば溜息が漏れていた。




