蒼の魔法少女
圧倒されるような絵面だった。
ホールに座るのは美女ばかり。時折おっさんや年寄が座るが、それも皆身なりが良く、知的だ。
《ご、語彙力が低すぎる……》
うるさい。そんな人の群れにジロジロ見られる気持ちがわかるのか、お前に。
居心地の悪さから、出来るだけ目線を合わせぬようにとスクリーンを眺める。
そこでは、紅い靴の女との戦いの一部始終が映されていた。
こんな過酷な状況ある?
親父と御袋と自分、結構きわどいコスプレ状態で血反吐吐きながら戦ってる映像の鑑賞会とかさ。
皆権威ある人とか、美女、美少女よ? それが皆息飲んだりしながら真剣に見ている。時折映像の俺と座っている俺を見比べているのがわかる。わかりたくなかった。
《共感性羞恥が強い人には堪らない状況ですねぇ》
他人事だと思いやがって……。
《注視されるの嫌ですか? 助けて欲しいですか?》
そりゃ、嫌だわ。
《なら、言う事がありますよねぇ?》
お願いします、なんて言ってお前が助けてくれるヴィジョンが見えねぇ……。
ぷぷーと笑わって終わりって方がよっぽどイメージ出来る。
第一、手段が予想できない。今何をすれば俺から注目が外れるっていうのだ。
溜息を一つ吐き出すと、諦めてまた画面を見る。紅い靴の女が使う技の理論を何とか理解しようと、幾つかの仮定を出しているようだ。
「――恐らくは、穢れの異能でしょうが、あのような例は今まで見たことが無く……」
結局は何もわかってないという事だ。
俺は目星を付けている。実際に確認するためには、魔法少女の状態でアレを受けるのが一番早いだろうが。
――外力からの解放。
正直、突飛な発想だ。何故そう思うのか、何故そこまで推測できたのか。何もわからないが、それで正解だと思う。
しかし、その場合対処法は無い。
「どうしたものかな……」
小さくつぶやく。本当に勝つためには魔法少女と剣姫騎士が手を組む必要があるだろう。
理由はわからないが耐性のある剣姫騎士が前衛として攻め込み、魔法少女の力で回復を行う。
前回の戦闘を考えると、一人ずつしか異能の対象に出来ないのだろう。前衛後衛共に数が有れば勝てる見込みがある。
――本当に、手を組めさえすれば。
そう考えていると、突然画面が消える。ソレを光源としていたために、ホールは暗闇に包まれた。
「何だ!? なんだ!?」
ざわざわと声が上がる。機材のミスか? 俺も周囲を見渡すが、そんなことをしていると部屋の上部、光源が。
――皆は、目の前の現実が信じられない。
「Ladies and gentlemen!」
聞こえたその声。声の方向に視線をやると、そこには 紅い光線により幾何学模様の複雑な組み合わせ――魔法円と呼ばれる物だ――が形成されていた。
一瞬、一瞬に『その円陣』は耀きを増す。ゆっくりとしたその動きに合わせ、円の内の模様が揺れ、キラキラと大きなその赤い線が煌めく。その魔法陣の奥には無数の『図形』と俺の知る『彼女』の姿が映っていた。
白い肌、美しい顔つき。人懐っこさを見せるその顔は、得意げな表情でどこか余裕を感じさせる。
「なかなか、皆様辛気臭いお顔をなさって」
蒼く輝く瞳が『人々』を、俺の姿を写したその瞬間、その声が小さく乱れる。だが、それを彼女は一切抑え込む事をせず、コロコロと笑いながら口をまた開く。
「お手伝いできますかねぇ?」
空間が強く軋み、甲高い音を鳴らす。その音に皆が『彼女』を睨む。
俺もしかと見た、その顔を、その姿を。
――これは自己紹介。自らがその力を振るう者であると知らせる為の。
「さてさて、皆様御立合い」
叫びと共に、魔法陣はその耀きを増し、空間と共に砕け『門』を開く。
大きなその円陣が更に大きく見える。『門』の先から表れた、どこか幼さを見せるその女性。
「手を貸しましょう」
輝く粒子を放ちながら、滑る様に、飛ぶように壇上の中心に。そうして小さくその頭を下げた。
――これは決意表明。何故この場に来たのか、何の為に戦うのか、自らが何者であるか知らせる為の。
彼女は真っ蒼に染まった髪の下、笑みを湛えた蒼い瞳で『人々』を見る。
「――我らは魔法少女」
くるりと、回る。スカートが翻り、シルエットが膨らみ、また萎む。
その動きに合わせ、『門』が閉じ、その空間を開いて居た魔法陣が小さく畳まれる。
「以後お見知りおきを」
また、小さく頭を下げる。
――瞬間、輝きが。
きらめく粒子。魔法陣を構成していた魔力が砕け、蒼いドレスを更に輝かせる。
そこに立つは魔法の使い手。少女の姿をした異能の主がそこには在った。
「魔法少女……?」
その姿を、その顔を、その声を俺は良く知っていた。良く知る人の物だと直ぐに理解した。人の視線に震えていた身体は今では落ち着いている。
《さて、キチンとお礼の言葉を用意してくださいね、集人さん?》
もしかしたら、物事が望む方に進みそうだ。その事は喜べる。
だけれども、高く付きそうだ。
俺はまた、ため息を吐いた。
気持ちは先より軽かった。




