シニモノグルイ
崩れ落ちるように項垂れる身体。紅い靴の女は地へ墜ちた。そして、溶ける様にその身が崩れ、消え去る。
「――チッ」
舌打ちを一つ。アキラの一撃。殺意は高く見えたが、あんなナリでも一流。殺さぬ術は知り尽くしている。
アレを受け、身体が形を成さない――つまりは逃げられたというわけだ。
「……っ」
終わった事を確認したアキラは、一瞬安堵の表情を浮かべるが、すぐさま真剣な表情を作る。
――さて、どうするか。
ああして表情を変えた理由。恐らくは、「上」からの話か。今の状態を考えれば、こちらは戦闘要員がほぼ居ない状態。
気になるだろうよ、自分たちと別種の異能だ。
捕まえて、行きたいだろう。が、俺としては勘弁願いたい。
「――クッ!」
もう一度、血反吐を吐き出し、ナギを、剣を構える。
満身創痍の絶体絶命。しかし――今の状態なら目は有る。
「なんでっ!」
アキラは甘ちゃんだ。これほどボロボロの人間相手に手を出せるような奴じゃない。
現に、構えた俺を見ようとも、構を取って居ない。アキラは相手がどれだけ格下であろうとも構を忘れる事は無い。
「ボクは戦うつもりなんてっ!」
だろうよ、この状態の人間を相手できない。知っているから、構えて見せた。
《えぇ。上は貴方達を連れて行くようにと言っています》
ここに情報を持ってる身内が居ると言うのに、連れて行ってどうするやら。
《上も一枚岩じゃないですからね。アキラさんとは別の強い手駒が欲しい、なんてのもたくさんいますよ》
やれやれ。誰を剣姫騎士にすれば天性の化物を超えられるというのやら。
だんだんと熱を増し、呼吸を阻害する腹の痛み。必死に立つが、視界がぶれる――否、揺れている俺の身体が。
それでもと、構を続ける。目は有る。勝利条件が違うから。
アキラの勝利条件は俺たちを連れていく事。
そして俺たちの勝利条件は――
「貴様何者だ!!」
――これだ。
周囲には初めて見る剣姫騎士の方々が、ワンサカ。皆美人で結構きわどいデザイン。美少女ビッフェとかしょうも無い言葉が浮かぶ。
《オヤジみたいですね集人さん》
許せ。そういう下らないことでも考えてないと、立っていられないんだ。
「っ――これじゃ、引くしか無いかっ!!」
辛そうな顔をしていたアキラだが、笑顔で言う。
コレだけの数を相手にしていたら時間が掛かるし、危険がある。そういう”言い訳”を得た。引いて良い理由ができたわけだ。
「逃げられると思ったか!」
そんな事を剣姫騎士のお姉さんが言う。まぁ、逃がさない、なんて出来る訳がない。相手はアキラだ。
「耐えた……」
時間稼ぎが完了した。そう思うと、気が抜ける。膝が地に付く。もう、立てそうにない。
「じゃあ――」
しかし、視界の中、アキラの姿がぶれる。消えたと思えば、大きくなる。
近づかれた!?
「――ねっ!」
そうして、額に感じる熱。
軽いキス。何故――回復魔法。
そういう奴だ、アキラは。本当に、これでただの美少女なら、心奪われていた。
キスした後、ウィンクをするその姿。眩いほどだ。何故、これで親父なのだろうか。
知っているのは今、俺だけ。だけれども、俺は知っているのだから。
俺は辛くて、倒れ込んで、そのまま意識を手放した。
最悪は、回避できたと思う。
願わくば、安らかな目覚めを。




