どろろっ
顔の左半分を覆い隠す黒い仮面。透き通る白い肌に光を逃さぬ黒いドレス。黒と白の立ち姿。
目につくのは血色の靴と、その唇。言葉が漏れる。
「ャはり、【虚無】相手じャ、効きが悪いンですねェ」
その言葉を聞き。急いでサヨコを見る。
「――ヵハ」
流石の実力だ。いかなる理由によるものかはわからないが、内より込み上がる血を綺麗に吐き出している。
二流は決して傷を受けない。傷に対応できないからだ。一流は傷を綺麗に受ける。その立ち直りこそが一流たる所以だ。
「まァ、それでも皆動けないようでェすねェ」
ニヤリと破顔を浮かべる女。
「え?」
「ン?」
二人して顔を見合わせる――俺、動けるんだけど?
「アァ、なンででしョうヵネ。一人忘れてィました」
半笑いで答える女。そりゃ、二人に比べりゃ弱いが、酷くねェかコレはよぉ。
そう思いながらも、天叢雲剣を両の手で握り、肩口の辺りまで上げる。
まぁ、むしろありがたい。こうして侮られている方が対応は楽だ。
《それで、どうします?》
アキラは大丈夫かアレ?
《ええ、生きています。魔法で一気に治してます》
とはいえ、同じことをされれば、手が出ない。サヨコさんは生きているが、肩で息をしている状態――戦う事は出来ない。そして俺は実力差が――
――瞬間、身体の内からねじ切れる様な痛み。
「にぃ!!」
それは瞬間的なものであった。恐らく、既に痛みを脳が受け付けていない。身体の内、内蔵全てが鉛の塊に置き換えられた様で、重さと熱を感じる。
重い何かがどろりと眼孔から流れ、痛む。
「にぃ! 吐き出して!」
ナギの声が脳裏に響く。紅く染まる視界が終わりなく回転。耳が聞こえない。内から込み上げる血の味と匂いが全てを書き換える。
「ャはり、違ゥ。効きが悪ィ? むゥ?」
声が何とか聞き取れた。俺に対して何か手を打ったが、それが上手く行ってないという事か?
ともかく、困惑し、手を、動きを止めている。つまりは――隙だ。
「――ィまアァ!」
今だ。そう言いたかったが、声に出来ない。しかし、エイダはそれを汲み、アキラに指示を出す。
「うぉぉおおおおっ!!」
アキラが飛び掛かる。女は声に驚き、声の元を探し、それを確認する。
随分と大きなスキだ、魔力による莫大なバックアップと共に叩きつけるアキラの拳が当たる。
「死なないでねっ!!」
自分を殺そうとした相手に、そんな事を言いながら殴れるあんたは本当に凄いよ……。
アキラの一撃。その拳に遅れるように、浮かされる女の身体。一瞬遅れ、俺の腹の内が痛むほどの衝撃が放たれた。空気の振動が、眼に見えるほどだ。
浮かび上がった体が、無気力に重力に従い、堕ちる。
派手に外部への影響のある力の使い方で無く、内にダメージを残すやり方。むしろ殺意が高いと思うが……。
《凄い一撃ですね》
本当だよ。俺は血を吐き出し、やっとこさ息を吐いた。




