クロカメン
「――クッ」
息を飲み、今一度構えるサヨコ。
「できれば、引いて欲しい」
構を崩す事もなく、引くように促すアキラ。
しかし、よく見れば呼吸が乱れている。やはり、サヨコの一振りは速かったか。
空間がピリピリとした空気に包まれる。先ほどよりもさらに鋭い殺気の応酬。
「帰ろうかな」
ぼそりと言葉が漏れる。正直帰りたいわさっさとさ。
《上とアキラさんに話通しておきました》
エイダの声が聞こえる。ナギには少し我慢してもらった形だ。
《言われた通り、引いてもらうようにしました》
こうもなればかなり話は楽だ。
「ナギ頼む」
「ん」
本当に手のかからない、いい子だ。どっかの誰かとは大違いで。
《それって誰の事ですか!! だいたい集人さんは――》
会話が途切れる。本当に、いい子だよ、ナギは。
「天之尾羽張の! 今は引くぞ!」
俺が言って通じる者ではない。だからこそ、ナギが声を出している体で叫ぶ。
どういうトリックかは知らないが、声に妙なノイズが混じるし、俺の眼が赤く光るから雰囲気も完璧だ。
「なッ! シュ――天叢雲剣!」
今俺の名前言いそうになったよな!? まぁギリギリばれてなさそうだから許してやる。だから早く帰ろう。
それを聞き、アキラも息を吐く。素直に信じるのかお前……。
「ォヤ、オャ。もう、辞めちゃうンですかァン?」
知らない声。俺たち一家はその主を見る。
「【虚無】を加工したァ剣。それを制する程ノ理の使い手」
カツカツと、刃の靴底を鳴らし歩み寄るその影。全身を黒で着飾るその少女。真っ赤な靴の色が目を引く。
「潰し合ってくれるとォ、嬉しいかッたンですがねェ」
黒い外殻によりに形成されるドレス。背のぱっくりと開いた、フィギアスケートの衣装を思わせる。そこから除く肌は、ハッとするほどに白く眩い。
「まァ、良いでしョう。お相手しましすよ」
顔の半分を覆う、黒い仮面はその皮膚の変化したのであるとわかる。
「――コイツ! ”穢れ”!?」
「そうかっ!」
気が付くことができなかった。コイツ、剣を使いすぎた人間と同じ症状!
――つまり、人に憑いた『The END』!?
《人に憑いた『The END』!? そんなの私聞いてないですよ!?》
アキラが弾き飛ばされる。壁を砕きながら、天へ向かい、飛び上がる。
全く、見えなかった。あのアキラが何の手も出せずに吹き飛ばされた、車田漫画のようにだ。
「何をしたッ!!」
声が出る。恐怖を感じている。勝てるのか、コイツに。
「ィエ、別に。少し、手助けしてあげたダケですョ」
ニコリと笑う赤いスケート靴の女。背筋がゾクリとした。




