戦争と人間
眼前に広がる『穢れ』の群。
手に握った剣をただ、振るう――そうして払われる塵芥。
「数だけは多いか、塵共め」
吐き捨てるように呟く。黙々と処理するには、少し気が立っていた。
もう一度、重たいこの剣を振り抜く。地表が露わとなり、また塵芥に隠される。
「隊列を崩すな! 怪我人が出た班は全員下がれ!」
声を上げ、周囲を確認する。育成も終わりきっていないと言うのに、こうして戦場に出さねばならない現状。知らず知らずのうちに剣を握る手が強張っていた。
「誇りを持て! 我々こそが剣持たぬ人々のための刃だろう!」
こうして精神論にすり替えることしか出来ない自分に歯噛みする。確かに戦場まで出てしまえば、そこでは精神論しか心を奮い立たせる術は無い。
だからこそ、平時にこそ学ばせねばならない、戦う術を、生きる業を。
だからこそ、生きねばならない、こんな戦場を超え、命を繋ぎ。
先陣を切り、声を上げ、仲間を鼓舞し、敵意を集める。
戦場の歌、鬨の声。
「我が名は、折井 小夜子! 天之尾羽張の剣姫騎士なり!」
そうして、敵の群れの中、ただひたすらに剣を振るい、ただひたむきに戦い続けた。
いくらの時間が過ぎたか、いくらの塵芥を殺したか、覚えてもいない。
気が付けば、視界から敵は消えていた。
戦いは終り、生き残った者は数人。
「”たった”八人か」
「八人”も”残ったんです」
何時からの付き合いになるか、同期の剣姫騎士が言う。やはり長く戦うような者ほど長く生きるわけだ。
「百人集めて、ほぼ無限の敵を相手に生存者が八人。元々今回の戦闘は全滅覚悟で皆集まっています」
「それはどの戦場でもそうだろう。死なない保障はないのだから」
何を今更。何時だって死は隣にある。
「私も今回は駄目だと思いましたよ」
「お前が死ぬような戦場はまだ先だ」
「その前に、辞めたいものですね」
「それもまだ先の話だ」
後続が残っていないのだ、隠居されては困る。
「……天叢雲剣を起動する」
「それは!」
「現状、剣姫騎士で戦える人間は生き残った八人、護国の為に残した五人、計十三名。魔法少女を名乗る戦士の情報は聞いているが、不足が過ぎる」
ゆえに、寝かしている戦力である天叢雲剣を起動する。
「天叢雲剣を起動することがどういう事がわかっているでしょう!?」
「その為に、アレを用意していたんだ」
「自分の家族でしょう……?」
「国のため、人のためだ」
そのために、ここまで戦って来た。生きて来た。
「貴方、まともな死に方しないわ」
「こんな戦いを続けている以上、畳の上で死ねるとは思っていない」
その言葉を最後に、皆とは別れた。
私も、覚悟をしなくてはならない。
「もう、時間はない」
これは、長い時間を掛けた、いずれ来る時のために準備された計画。
ついに、集人から平和な日々を奪うことになる。そう考えると、自然と暗くなっている自分に気が付く。
「集人、楽しかったか、日常は」




