魔法少女と秘密の事
散々な目にあったとしか言いようがない日を超え、日常が俺の元に戻っていた。
数日もしないうちに学校は元に戻っていた。エイダに訊けば。
《魔力があればなんでもできる! 魔法だ! 魔法だ! 魔法だぁああ!!》
とのことで。なんともまぁ、むちゃくちゃなものだ。
本契約時にアキラから奪った魔力の余剰でちゃちゃっと直したらしい。
だったら最初からそうしてくれよ。そうならばデートなんて行かなくてもよかったのに。
と、嘆きは止まらないが、しょうがない。
なにせ、六花の誤解が解けていないのだから。
《誤解ってか、間違いないとおもいますよ。集人さんあの状態じゃ、捕まってますよ》
うーん。わかんないだろうな、エイダみたいな異次元人には、俺の気持ちが。
《嫌って程わかってます。本契約ってそういう事ですよ?》
聞いてねぇぞそれ。と、エイダの思考も流れてくる。
つまりは、意識の深い所で接続されるので、感情が共有されるし、思考に壁がなくなると。
なにそれ、クーリングオフしよ……。
《出来ねーんで。残念ながら集人さんは、アキラさんルート極めてバカみたいなあの魔力量で無理矢理に契約解除するか、私ルートを開拓して仲良く暮らすか、二択ですね》
えぇ、なにそれは……。
《私のオススメは私ルートです! まぁ、それは茨の道ですが。無理に契約解除するとどっちも変な後遺症残りかねませんし、アキラさんといちゃいちゃしてんの横で見てるのもつらいんで》
めんどくさい。もう話半分で聞きつつ、俺はその姿を魔法少女に変える。
「で、数は?」
《数は一、でもちょっと大きいです》
その言葉を受け、俺は現地へと向かう。あれだけの事があったのに、まだまだ数の減らない 『The END』共。
海の近くにはまぁ、よくテレビだドラマだで良く見るオシャレ街と言う感じの一画がある。ちょうどそのあたりで出たらしいそれは確かに大きかった。
「ちょっとは、ウソだろ」
《だって、聞いたら来ないでしょう?》
鯨に取りついたらしいソレは、異常なまでに肥大化し、高層ビルのように見上げなければならない大きさであった。
歯車、蒸気機関、真空管。それらが黒い油に浸され、巨大な鯨を形作る。鯨の髭まであるぜ。
賢ければ強い、デカければ強い。まぁコイツが弱いわけはないわな。
――だが。
「まぁ、お前と俺なら楽勝だろう」
《良いですよ、そうやって好感度を稼ぐのはGoodです。いずれご褒美を上げましょう》
「今じゃねぇのかよ」
軽口を叩きつつ、『The END』に飛び掛かる俺”達”。
――戦いはこれからだ!!
「打ち切りみてぇだ」
《今ので一応二部は終りです。後は結果を待つだけですよ》
鯨の『The END』はかなりいいところまで行ったが、アキラが来て数発殴ったらすぐ倒れた。バケモンだなアキラは。
戦いが終わると、一応俺の怪我が無いかチェックしてくれた。一応ってのはそれだけすると、「急いでるからごめんね」と飛んで行ってしまったからだ。アキラからまだ俺はバレていないようで。まぁ良かった。
「さぁて、学校行くか。アキラもなんか急いでたようだがなんだか」
《そうですね、誤解を解かなくちゃいけませんしね》
「だんだんわかってきたようだな……なんか怖いわ。学校休もうかな」
《それで大事になると泣きついてくるんでしょう? そういうのわかっちゃうんですからね》
あぁ、なんか怖いんだよなぁ。
まぁ、なんとか学校に遅刻もせずに到着し、大体いつも通りの時間に教室に入り、六花と会う時を待つ。
あの時は、誤解したまま逃げるようにして行ってしまったからな……。
「あぁ、Sisterfucker。おはよう」
「なぁ! 酷くねぇかそれ!!」
六花は俺の後ろから声をかけてきた。いや、マジで酷いだろソレ。
あまりに流暢に妹に手出した奴扱いするもんだから、クラスメイトが俺の事変な目で見てるじゃん!?
《いや、貴方の反応も悪いのでは?》
「挨拶もできないのか、これだからSisterfuckerは……」
「おはよう! こういえばいいのか!? 何っていえばそれをやめてくれるんだよ!」
「ふふっ、冗談さ。こうやって遊んでやるのも楽しいかと思ってな」
「俺は楽しくねェ!」
「私は楽しいぞ!」
ダメだ、平行線だ。
「まぁ、冗談はさておき」
六花は声のトーンを下げ、小さく俺に訊く。
「あの時、二人とも服が消えたのは君の言う戦う力が原因か」
「あぁ、そうだよ。貰い物のシステムなんで変なんだよ、作った奴も」
あんなもん作った奴、本当に頭がどうかしてるとしか思えない。
《人の事だと思って言いたい放題言ってくれますね》
それはお前もだろうが。
「まぁ、良い。本当に手でも出していれば開き直りがあるだろうが、それがない以上、ハプニングかなにかだろう?」
「お、おう」
六花は流石、物分りが良い。
「つまりあのくらいまでなら私がハプニングでしてしまっても仕方ないという事だな」
「……はぁ?」
「全裸の付き合いくらい運悪くや、そうなってしまってと言うのは仕方ない事だろう? ポロリもまぁ仕方ないだろうそのくらいは。そのぐらいの美味しい目を私も味わいたい」
「そんなの俺に言われても困る……」
困る……。
「別にシュート、君とハプニングでもいいのだが」
「はぁ!?」
ちょっとそれはとんでもないことになってきたぞ。
「まぁ、その前にコレを着てほしいんだが」
そういい、彼女は紙袋を小さく開き俺に見せる。学生服だそれもウチの学校の「女子用」だ。ご丁重に黒のウィッグも見えた。
「それは、いやだ」
それ着たら本当に戻れないところに行ってしまう。
《えっ!? 集人さんそんな趣味が!?》
お前が言うな。
「まぁ、なら仕方ないか」
しょんぼりとした六花。まるで悪い事をしてしまったような気分になるが、まぁそれ着た方が悪い事だ。
「まぁ、誤解というか、本当に手を出していないと理解して貰えて助かる」
最初から変に誤解しないでもらえるともっと助かるが。
《無理でしょそれは》
「まぁ、なんとかアキラちゃんと一緒に遊べたりすると良いんだがな……君の家に行けば会えるか」
「どうしても会いたいってなればそれしかねぇな」
うんうん唸りながら、アキラとどうしたら親しくなれるかと考える六花。
まぁ、面白くはないが、変に思われるよりはマシか。
《私も六花さんの事ばかり考えられるのは面白くないんですけど……》
へぇ、そう。
《酷っ!?》
そんなコントじみたやり取りをしていると、担任が入ってくる。ホームルームの始まりだ。
こうして六花と話し、クラスメイトと勉学に勤しむ。日常が帰ってきたのだ。
――故に、目の前の現実が信じられない。
「今日も転校生が来てます、入って」
「失礼します」
聞こえたその声。声の方向に視線をやると、そこには 白い装束――ワイシャツ――を身に纏う影があった。
一歩、一歩と『その影』は歩みを進める。その動きに合わせ、白い長髪が揺れ、クリクリとした大きなその赤い瞳が煌めく。その瞳の中には無数の『学友』とその一人である『俺』の姿が映っていた。
白い軟肌、可愛らしい顔つき。人形を思わせるその顔は、凛々しい表情で強い意志を感じさせる。
「本日付でこのクラスの仲間になることになった、あー」
担任が言う。
赤く輝く瞳が『人』を、俺の姿を写したその瞬間、その影の呼吸が小さく乱れる。だが、それを意思と肉体で抑え込み、口をまた開く。
「はい」
地面を強く踏み締め、告げる。その声に『学友』が皆その姿を見る。
俺もしかと見た、その顔を、その姿を。
――これは自己紹介。自分が何者であるか伝える為の。
「今日から皆さんと一緒に、このクラスで学ぶことになりました」
言葉と共に、影はその手を大きく振り、身振り手振りを混ぜる。
小さなその体を何処か大きく見せる。その立ち振る舞いは子供の話し方を思わせる。
「わからないことばかりですが、皆さんと一緒に楽しい学園生活を送れたらと思います」
――これは決意表明。何故ここに来たのか、何の為に、自らにも言い聞かせる為の。
影はそこだけ黒く染まった前髪の下、その表情を緩ませながら、『学友』に微笑みかける。
「折井 アキラです」
大きく、頭を下げる。ガチガチに凝り固まったその姿勢。
「よろしくおねがいしますっ!」
その構えを解き、大きく体を広げる。
――瞬間、輝きが。
きらめく粒子。光の跳ね返しが白のワイシャツを更に輝かせる。
そこに立つは美少女。少女の姿をした俺父親がそこには在った。
「アキラちゃん……?」
六花が夢でも見ているのではないかと、自らの頬をつねっている。
その姿を、その顔を、その声を俺は良く知っていた。良く知る人の物だとようやっと理解した。恐怖に震え始めた身体に鞭打ち立ちあがると、腹の底から叫びを上げる。
「何やってるんだよォオオ! アキラァアアアアアアアア!」
俺の生活に日常は戻らないらしい。




