ロード・オブ・魔法少女
《――キスしてあげて下さい》
あの時と、同じ答え。
「ふざけて……」
《ふざけてる訳無いでしょう! こんな時に、こんな冗談を言えると思いますか!》
エイダが叫ぶ。今までにない、真剣な声だ。嘘では無い。
《魔力の経路を繋ぐには、粘膜により接触が必要なんです……他の人ならまだしも、アキラさんの魔力はある程度の強度で繋がないとどうなるか……》
そう言うエイダの声には一切ふざけた感情は無かった。俺は、小さく、呼吸を正す。
なんでコイツと経路を通す必要が?
《貴方の魔力量じゃ、本契約をするための最低限の魔力も賄えないからですよ!》
「――アキラ」
抱きとめたアキラを少し離すと、俺はその眼を合わせた。
銀髪の奥、真っすぐな、深く、吸い込まれそうな瞳。その眼が離せなくなる。それはアキラも同じようで、顔を赤くし、ただ俺の瞳を見つめる。
「ふぁ、ふぁいっ!」
呼ばれたと、数秒遅れで気が付いたアキラは、上ずった声で答えを返す。
これは仕方ない事なんだこれは仕方ない事なんだこれは仕方ない事なんだ。
何度も何度も自分自身に言い聞かせ、そして、アキラの髪を片手で触れる。口に少し入ってしまって居たその髪を、優しく外し――
「ごめんな、アキラ」
やっぱ無理だ!! 親父がファーストキスの相手とか嫌だわ!!
――そう言おうとし、『The END』が俺の背を強く、強く打った。
「――ッ!!」
そう、眼と眼が合い、向き合い、髪に触れられる距離――後ろから押されれば、その唇と唇は触れあう。
《接吻キターーーーッ!!!!!!》
柔らかく、甘い感触。朝に食べたハンバーガー、そのケチャップの味がするファーストキスだった。
うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
軽く触れるだけのキスだった。押された為、それに反発しようと、俺の唇はアキラから離れる。
「――キス、しちゃった、ね……」
自分の唇に、指を触れ、小さく、少しずつ、噛みしめる様にアキラは言う。
「……あぁ」
顔には出さないが、どんよりとした調子で答える。
「ふぇ、ふぇぇ……」
顔を真っ赤にし、そのまま、のぼせる様にして、アキラは倒れた。
――そして、それと同時に、エイダはアキラの魔力を元手に、魔法を発動。
《それでは、本契約を始めます》
無数の魔法陣が俺の体を覆う。幾つかの契約内容が現れるが、どれも俺の今まで見たことのある言語ではない。
「エイダこれどうすれば良いんだ?」
「ちょっと、黙ってて下さい」
なんだ、後ろに居たのか。振り返る俺の唇に、エイダの唇が触れる。
「はぁ!?」
「これで契約完了です。上手く使ってください」
そういうエイダの姿がいくつもの文章符号式に分解。それらは纏まり、ワイヤーフレームのように新たな形を形成する。
槍であった。デフォルメされ、肥大化した馬上槍のようなシルエット。
気が付けば、自らの身を包むのは赤い魔法少女装束であり、それには今までになかった蒼いパネルラインが走っている。
「これが――」
俺に向かい、先の『The END』が今一度飛び掛かる。それを槍にていなそうとし、そのまま敵は消え去った。
「――本契約」
《はい! 魔力量の不足は私とアキラさんで賄います。やっちまってくださいよ!》
「とは言え、どうすればコレだけの敵を倒せるか」
倒しきるのは不可能ではないだろう。しかし、時間が足りない。
《魔法の力は、思いの力。望んでください。天下無双の一撃を、完全勝利する自分の姿を》
「そういう事ならッ!」
想像するのは、全ての敵にだけ与える鉄槌。逃げ惑う人々を巻き込まない魔法。
槍を天に向け、お誂え向きに取り付けられた引き金を引く。
イメージは雷――槍の先より天に魔力が昇る。モニターに映された敵のみを狙い、飛来する。
無数の力場が、『The END』を貫き、その活動を停止させる。
『The END』は皆、『零』へと還った。
最後に、プールサイドに残ったのは、嬉しさから倒れたアキラ、力無く膝を付く俺、そして皆を逃そうと見えぬ所で一人、戦って居た六花だけだった。
「終わった……終わったんだ」
何とか、小さく呟く。良いんだ、これで、皆幸せなハッピーエンドだ。だから、これで良かったんだ。そう自分に何度も言い聞かせる。
《えぇ、これで全て解決ですね……》
そう言うエイダの声を聞き、溜息を一つ吐く。何はともあれ、これで全てが終わる。
「やれやれ、全部アキラのお陰か……」
そう言い、茹で上がってしまったアキラの頭を撫でる。今回の一件について全てはアキラのお陰だ。俺はそんなアキラの顔を見る。何処か幸せそうなその寝顔。
《――守りたい、この笑顔》
また変なモノローグか何かを打ってんのなお前。
こうもパターンが出来てしまうと笑うしかない。アキラを撫でながら、なんとなしにその服を見る。それは、たまたまだった。
「……え?」
偶然、その時、視線を下に向けたからこそ、気が付けた。アキラの服が薄らと半透明になって居る事に。
『魔力切れを起こすと衣服が吹き飛び全裸になります』
何時だか聞いた、エイダの言葉を思い出す。
「エイダ、これって……」
血の気が引く。だが、尋ねるしかない。エイダはその質問に答える。
《まぁ、ちょっと魔力が枯渇するレベルで使いましたが……直ちに人体に影響は無いんで……》
「いや、待って! コレ、かなりの問題だろ! 公衆の面前で!」
《あと、ちょっと……すみません……》
「おい! どう言う事だよ!!」
エイダはそれだけ言うと、俺の言葉から耳をそむける。俺は、段々と透けて行くアキラの服をどうするか、とおろおろと慌てふためく。
おい、おい、どうする、どうすれば……と、兎も角ッ!
アキラの身体を抱き上げ、己が身で隠そうと考えた。多少問題が有りそうだが、これならまだ裸で放って置くよりはマシだと、そう判断したのだ。
そうして、アキラを抱き上げようと、その背に腕を通し、しゃがみ込んだ。
「シュート、終わったようだな……」
そう言い、六花が二人の元に現れ――その瞬間、アキラと『俺』の服が全て弾け飛んだ。
「あッ!?」
「シュート……」
驚愕に見開かれた、獣が如き瞳。その瞳は一切を身につけぬ、アキラの姿を映して居た。
今、俺の姿は何も知らぬ人が見れば、全裸で小さな少女を抱きしめる変質者の様に見える。
「……Crazy……Crazy……Sisterfucker……」
「ち、違う!! 誤解だ!」
そう叫び、否定する。が、面と向かう事が出来ぬ為、言い訳する様もまた、危険な状態だ。
「ん……?」
そんな俺の叫びが聞こえたのか、アキラがその眼を眠たそうに擦る。
「あ、アキラ!! 頼む! 俺は何もしてないって伝えてくれ!」
そんなアキラに頼みこむように叫ぶ。そんな俺を瞳に映し、アキラは顔を赤くし、答えた。
「……シューくん、ボクはね、嫌じゃないけどね……何か……あたってる……あててるの?」
――瞬間、空気が凍った。
「Oh,my God」
氷の様に冷たい視線が俺を突き刺す。
「ご、誤解だ!! こんなっ、こんなっ、理不尽だああああああああ!!!!」
雄叫びが、プールサイドに響いた。




