思いがけない戦い
「シュート。自分で呼んでおいて、寝て居るとはいい度胸じゃないか?」
凛とした、それでいて何処か呆れた調子の混じった声。そんな声に呼ばれ、眼を覚ました。
思ったよりも疲れて居たようで、既にホームルームが終わってから十分は経っている。
「うぉ!? わ、わりぃ……」
「ふん、気にするな」
あわてて立ち上がると、六花に謝る。思った以上に普通に接してくれるその様を見るに、それほど不審者扱いはされて居ないのだと、安心する。
――『怒ってない』、だなんて言って貰えるほど好かれても無いがな……。
「さて、ここでは話難い内容なのだろう? そして場所によっては――言っては悪いが見世物。何処か人気の少ない場所にでも連れて行ってくれ」
「あ、あぁ。わかった、屋上へ行こう、昼は基本騒がしいが、放課後なら」
そう言い、俺はゆっくりと屋上へと向かう。六花はそれに静かに付いて来た。
「で、だ」
一息つくと、話を切り出す。
「氷室さん、話があるんだ」
なんとか話を付け、俺は『自分が家族に手を出す危険人物である』、と言う認識を辞めさせたかった。
だが、そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、六花は指を三つ伸ばしながら、口を開く。
「……先に聞きたい、失礼とは思うが良いだろうか?」
「どうぞ」
「ここに連れ込んだのは、私を襲うためである、Yes or No?」
「違う、誓ったっていい」
「先ほど、君の妹さんが来ていたが、あんな爛れた行為をするためである――Yes or No?」
六花は手の背を向けながら薬指を曲げ、ピースの様に手の形を変える。
「絶対にあり得ない、そんな事を望んでするなら、その前に死を望む。てかその指やめろ、あんまり良い意味無いぞ」
「それは失礼」
そう言い、人差指を残した全ての指を曲げる六花。残ったその指を俺に向け、口を開く。
「最後だ、君は妹に性的な興奮を覚えるYes or No?」
「Noだ。俺はあんなちんちくりんに興味は無い」
「よし、さっきのは私が悪かった、どうやら早とちりをしすぎたようだ」
そう言い、少し上機嫌に語る六花。そんな彼女の仕草にドギマギする。
「君はあの子に性的な興味がない、ならば私が貰っても良い、そう言う事だな」
――どぎまぎして、ちょっとがっかりした。
「はっ、まぁ誤解が解けたってんなら、俺はもう話す事もねぇや」
そう言い、軽く笑う。俺にして見れば、ちょっとした笑い話として処理する事が出来、これ以上ないと言うくらいの状態だ。
いや、同級生が親父を少女として見ていて、そのせいで何か変な感じになってるのよくわかんないや。
「おっと、私には話がある。アキラちゃんの話だ! 彼女は何が好きなんだい? 一体、どうしたら私に懐いてくれるのだろうか? 何か案は無いだろうか?」
まぁ、コイツの性癖と言うか、何と言うかは無視しよう。
そうして、少々げんなりする。
「なぁ、本当に頼むよ、アキラちゃんに何をしてあげれば気に入って貰えるだろうか……」
こう言った扱いをされれば、俺としても少々苛立ちを覚える。
まるであて馬にでもされている様な現状。それが自分にとって気になる人からされて居るのだ、小さくだがアキラに対し嫉妬を燃やす。
ちょっと、面白くないよなぁ……。
《嫉妬はいけません。フッハハハハハハハ! ですが笑えますねぇ、あの一件であなたは真っ当な人の枠から追放、一方御父上は今では彼女の愛しの人、随分と差がつきました。悔しいでしょうねぇ》
――てめぇ! と、何だ? 今日はもう終わりじゃないのか? さっきそう言ってた気がするが?
先までの会話を思い出し、訝しむ。
また面倒事か? そんな考えが脳裏を過る。
しかし、そんな俺の心配を他所に、明るい声色でエイダが続ける。
《あぁ、大丈夫ですぅ~、面倒事じゃないですぅ~》
少々おどけて、煽って見せるエイダ。嫌な予感しかしない。そんな俺にエイダは伝える。
《敵です。目の前です、彼女の後ろ、危ないですね、今、かなり、危険、あ、触れますね》
そうして六花の後ろを見れば、そこには黒く、不快感を与える塊『The END』だ。
「エイダァアアアアアア!!! 止めろッ! 時をォオ!!」
叫びを上げ、俺は六花に走り寄る。それに合わせ、エイダが俺に魔力を与える。
俺自身は魔力を持って居ない為だ。魔力は、それだけでは世界に影響を与えない。外部からの命令を受け、その動作を始めるの。
赤い魔力の粒子が、身体から放出される。そうして放たれる魔力が体を包み、戦う為の姿を形作る。
無駄な布を分解し、魔力変換。不足した力を周囲から集める。空気中の原子分子を取り込み、俺の体を包む様に深紅のメイド服が構成される。
不足する魔力を空気中からも取り込むため、触覚とするために、その髪は長く、長く、そして紅く変わる。
血の色、命の色、炎の色、それが俺に与えられた個性色。瞳が燃える。闘志からか、命を燃やしているからか。走る魔力の渦が、深紅のメガネフレームを形成する。
――炎が一つ、そこに起った。
灼熱色の魔法少女、名乗る名も無き一人。これは戦う形。
《さて、収録を始めましょう》
「それ、怒られる奴じゃねぇかな……」




