魔法少女は忘れたい
「あー、しかしどうしたもんか……」
「さっきからそれしか言いませんね、もう諦めてアキラルート入ったらどうです?」
そんな話をしながら俺たちは『The END』の元へ移動していた。
「嫌だよそんな人間の屑みたいなルート選択。それよりまだかよ」
「おとと、もうちょっとですよ、だからそうやって荒く運転しないで下さい」
「……何でコレなの?」
チャリで行く。エイダの提案だ。乗った俺も俺だが、言い出したエイダもエイダだ。
「魔力消費を少なく、無駄なく効率的な移動手段――ともなればチャリ! これは最早、魔法少女の常識!」
自信満々で手を腰に、胸を張るエイダ。自転車が地面の段差を踏み、揺れると、大慌てで俺に抱きつく。小さくない胸が背中でつぶれる。その感触が耐えがたい。
(中身はあんなんなのに……)
《悔しいッ! でも感じちゃう! って奴ですか》
ニヤニヤと、思考を読み、エイダは精神感応を用いて言う。
「お前身体だけは最高にイケてるよな! 植物人間か記憶喪失になれよ!」
笑顔で言い放つ。開き直りだ。
「そんな事言うメインキャラは嫌いだ……引くわぁ……」
そんな事を言いつつも、俺からは離れないエイダ。二人乗りの状態では、迂闊な行動は危険だと、理解しているからこそだ。
「あ、二人乗りは道交法によって禁止されています。今回の撮影では安全に考慮し、特別な許可を取っているため、二人乗りをしています。良い子は真似しないで下さい」
「テロップか……」
「今時は頭の弱い駄目な大人が、自分の養育の不手際をテレビ局に押しつけて来ますからねぇ……嫌な世の中になったものです」
「……お前本当に全方位に喧嘩売るの好きだよな」
「嫌ですねぇ、私ほどの平和主義者は居ませんよ。余りの平和主義にブッダとガンジーが筋肉ドッキングを決める程です」
この手の話題を振りすぎては危険だ、そう判断し、無言で自転車を漕いだ。
「……反応が返って来ないってのも詰まらないですね……終わりのないディフェンスしても集人さんが相手じゃぁ……」
言葉を発するエイダ。しかし俺は答えない。
「むぅ……」
ムスッとした調子でエイダが呟く。俺は、静かに魔法少女としての自らの機能を試して居た。
索敵とかできねぇかな? 三面図やスペック表は表示されたのだ、ほかにも出来ておかしくはない。
ゲームの体力ゲージのような物が出ているのだから、メニューのような物、更に言えばヘルプを出せれば万々歳なのだが。
「……ぁむ」
「――ひゃん!? 運転中に耳を噛むな!」
集中し、運転する人間に、これは大きな衝撃だ。
「何してんだよ!」
そう叫び、振り向こうとする。しかし、手をまわし、ぴったりと密着するエイダのため振り向く事は出来なかった。胸元にたわわに実った果実が、背でその形を変える。その柔らかさたるや、俺とて男子だ、それも肉体のみを見れば、エイダは好みだ。
「フフフ……『当ててるんですよ』」
その言葉を聞いた瞬間、ペダルを漕ぐ足は、動きを止め、全身が痙攣を始める。
俺達の眼前には壁。その両の手に握ったハンドルに一切の力が入らない。
「え!? え!? ヤバッ! 集人さん!? 集人さん!?」
回避が可能な距離では無い、スピードも落ち切らない、俺の体の自由も戻らない。
エイダは諦めたのだろう、自転車のリアキャリアに足を乗せ、衝突のその直前に飛び降りた。
「危なかった……」
エイダは額を拭うような素振りを見せつつ、衝突現場を確認する。適当に用意して来た自転車は特に大きな問題も無く、多少の傷が付いた程度。問題は俺だ。
虚ろな目、ずたぼろになった魔法少女服を着た俺が地面に倒れて居る。
露出が少ないとは言え、ヌーディストや、露出狂と比べた場合のものであり。隠す部位の選択が、一般人の服装とは異なる。つまりは、元より性的な服装なのだ。フェチズムに溢れたデザインと言うべきか、脇は開き、その腹部も大きく開いている。
「……ごちそうさまです」
エイダは両の手を合わせ、拝むようにすると、カメラを回す。
「こうした画はやっぱ視聴率と言う物を上げるためには必要なんですよねぇ」
それを俺はメガネに映った映像として、他人事のように見ていた。
「おい、おい、おい」
倒れた状態で言う。やっと体の自由を取り戻した。
何とか立ち上がろうともがいている。その姿もまた加虐心を煽りたてるのだろう。エイダのニヤニヤ笑いが止まらない。
「なんでせうか?」
「せ、せうか? いや、何してくれたんだよお前は……」
「ちょっと「当ててんのよ」を……」
その言葉にまたも意識を失いそうになる。それを見て、エイダはニタニタと笑顔を作る。今のでわかったのだ、これは俺にとって、一種のトラウマであると。俺もここまでのトラウマとは知らなかった。
「どうしました? 集人さん、何か楽しい事でも思い出しましたか?」
「テメェ、次同じようにアキラけし掛けて来たら殺してやるぞ、覚えておけよ」
「Oh……怖い怖い。出来る限り気をつけますよ」
そう言い、そっぽを向くエイダ。反省の色は見えない。溜息を一つ吐く。
――そして鳴り響くアラート。
「チッ! 近付いて来てたか!」
そう言うと、すぐさま構えを取る。先に見えるのは無数の影。全て蜘蛛を模した『The END』だ。俺も知らず知らずのうちに、胸が跳ねる。高まる鼓動。ひりひりと感じる緊張感。小さくその舌で唇を舐める。
(心が滾るな……)
戦闘の高揚感が胸を満たす。元より戦いが好きなのだ。それは男の本能。例えその身を女の子の様に包もうとその欲求は変わらない、本質だ。
《あ! 今のぺロって唇舐めるの、色っぽかったですよ! もう一度お願いします。今度は視線をこっちで!》
エイダが能天気に言う。もう飽きたんで、そんな言葉も無視し、敵との間合いを測る。
蜘蛛の姿をしたソレも、俺に気が付いたようで、ジリジリと近付いてくる。
(――後ろからってのは……無いな、眼の前の一団で終わりか)
五感を頼りに、周りを確認。敵の頭数を数える。その数八匹。
(犬にあれだけ手こずって、蜘蛛が八匹ってどうなんだろうかなぁ……)
《あぁ、大丈夫ですよ。『The END』は元となった生物の知性レベルでその強さが変わります》
(つまり?)
《まぁ、正直楽勝でしょうね》
「なるほどな……有益な情報ありがとさん!」
叫びを上げ、俺は敵に向かい、走り出した。




