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スエドとスネブの異世界無双?!解明道中記 〜「普通なんて全部檻だ」万年床を愛する男と、キレッキレお説教の美容オタク美少女と、愉快な仲間たちの世直し旅〜  作者: 稲盛 皆藤
普通という名の檻

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元刺客と元五将の道中記(後編)

 一方その頃。

 可動式神殿(キャンピング・パレス)の前庭外の岩陰。物陰に身を潜めていた元・特務鎮圧五将たちは、恐ろしさと崇拝のあまり一度は逃げ帰ったものの、「どうか下僕として奉公させてほしい!」と必死の嘆願に来た矢先の出来事だった。

 1個しかない魔導双眼鏡を全員で奪い合いながら、恐る恐る神殿の様子を覗き込んでいた。


「おい見えねぇぞ! 代われ!」


「押すな! いま大事なところだ……って、ひ、ひぇぇ!?

 あの美人さん、朝から刺客に緑色の毒薬を飲ませようとしているぞ……!?」

 

「な、なんだと!? 貸せっ! ……ヒィィッ! 刺客が逃げるどころか一気飲みしたぁぁぁ!?」


「い、いつ声をかければいいんだ……! いま『奉公させてください』なんて突撃したら、俺たちもあの緑の液体で処刑されるぞ……!」


 遠目から双眼鏡を揉み合いながら奪い合い、ガクガクと震え上がる五将たちであった。

 

 一旦その場を離れた五将たちであったが、今度は頃合いを見て再び神殿の前庭へぞろぞろと、整列とは程遠い隊列を成して現れた。


「おい見ろ! あの恐ろしい魔法国の暗殺部隊長が……フリフリのエプロンをつけて、満面の笑みでスエド様の万年床を干しているぞ……!?」

 

 五将の頭(かしら)が、信じられないものを見るように目をひん剥いて叫んだ。

 

「頭(かしら)! さすがはスエド様、あの冷血漢を立派な『家内制手工業』に仕立て上げるとは!」

 

「お前、そんな言葉よく知ってたな、だが、それを言うなら『専業主夫』だろ!」


「まさに……まさに『品質記証』の極み……!」

 

「副将! 魔導コンロじゃないんですから! 『1年にしますか? 5年にしますか?』じゃないでしょ! 暗殺者に保証書つけてどうするんですか! それを言うなら『品行方正』とか『洗脳解除』ですよ!」


 すかさず三の将が的確にツッコむ。


「お前らうるさい! とにかく、スエド様の恐ろしさが骨身に沁みたはずだ!

 指一本触れずに最強の刺客を落とし、あんな笑顔で雑用をさせるほどの精神支配力……!

 俺たちが寝返ったのは、まさに『牛に一生』の判断だったな!」


「頭(かしら)! なんで急に酪農家の覚悟みたいになってるんですか! 牧場でも始める気ですか!

 それを言うなら『九死に一生』ですよ! 語彙力が相変わらず終わってますね!」


「そうだそうだ! ここは俺たちの『全体腹痛』な忠誠心が試される場面だ!」

 

 三の将が親指を立てて口を挟む。

 

「それを言うなら『絶対服従』だろ! なんで急に部隊全員下痢したみたいになってんだよ! 役に立たねぇな!」


「ええい、細かいことはどうでもいい!

 おいお前ら! スエド様の御言葉を、この最外殻地区の『絶対憲法』として制定するぞ!」


「絶対憲法、ですか!?」


「そうだ! 思い出せ、あの恐ろしい刺客ですら最後に『にどね……』と改心して倒れたのだぞ!  

 スエド様にとって二度寝こそが絶対の憲法なのだ!

 つまり、この最外殻地区において『静寂を破る争い』や『早朝の大声』はすべて万死に値する重罪ということだ!」


「頭(かしら)! それってただの『静かにしてくれ』っていうおっさんの独り言じゃないですか!?」

 

「黙れ! スエド様のご意向を完璧に汲み取って最外殻を統治するのが、我ら新興勢力『怠惰愚連隊』の務めだ!

 治安を乱す奴は全員、有無を言わさず五体投地で反省させろ!」


「「「応!!」」」


 これまで血で血を洗う無法地帯だった最外殻地区は、五将たちの勘違いによる猛烈な取り締まりによって、「誰もが静かに暮らし、お互いの二度寝を尊重し合う」という、世界で最も平和で治安の良い『絶対怠惰特区』へと奇跡的な変貌を遂げ始めていた。


 * * *


 その頃、最外殻から遥か遠く離れた【魔法国・中央作戦本部】。

 巨大な水晶鏡を囲む幹部たちが、青ざめた顔で悲鳴を上げていた。


「報告しろ! 『夢たぐりの暗殺者』からの定期連絡はどうした!

 最外殻のターゲットは排除できたのか!?」


 通信兵が、震える声で画面を操作する。


「は、はい! 探知魔法による現地の映像を接続します! ……っ、これは……!!?」


 水晶鏡に映し出されたのは、あまりにも恐ろしい光景であった。

 あの冷酷無比な暗殺部隊長が、穏やかな笑顔で布団をパンパンと叩いて天日干しし、その横では、かつてバルナス王国最強と恐れられた特務鎮圧五将たちが涙を流しながら「スエド様万歳! 二度寝万歳!」と神殿に向かって平伏している。


「な……なん……だと……!?」


 作戦参謀の男が、持っていた作戦書の束をポロポロと落とした。


「あの『夢たぐりの暗殺者』の洗脳を完璧に上書きし、最外殻の無法者どもを一瞬で一枚岩の『熱狂的スエド軍団』に仕立て上げただと……!?」


「バカな……! 我が国が誇る最高レベルの精神呪印だぞ!?

 一体どんな恐ろしい精神支配魔法を使っているんだ……!?」


「恐ろしい……スエドという男、ただの怠け者などではない!

 人の心を一瞬で破壊し、自分を信奉する傀儡に変えさせる、最凶の『洗脳魔王』だ!!」


「まずいぞ! あの男が率いる熱狂的スエド軍団が、最外殻を完全に統一しつつある!

 このままでは我が魔法国の中枢領域まで侵攻してくるぞ!!」


「直ちに第二陣を編成しろ! 今度は生半可な刺客ではない!

 守備隊全軍をもって、あの恐ろしい移動神殿を食い止めるのだーーーっ!!」


 魔法国の作戦本部は、大いなる勘違いによって激しいパニックに陥っていた。


 * * *


 そんな外部の大騒ぎなど、知る由もないスエドの万年床。


「ふぁぁあ……。なんか外がやけに静かになったな」


 布団を引っぺがされた板間で、スエドはぐでーっとカエルみたいに横になっていた。そのすぐ横では、ガウとピヨが「ガウッ!」「ピヨピヨ!」と声を掛け合いながら、ゴロゴロ転がるスエドの背中を飛び越えたり、はためく裾に飛びついたりして楽しそうにじゃれ合っている。


 スエドは遊ぶ二人を薄目で見守りながら、時速六十キロで爆走する神殿の展望バルコニーへと視線を向けた。そこでは、強烈な爆風に全身を煽られながらも、エプロン姿の元・暗殺部隊長が爽やかな笑顔で元気にスエドの布団を干していた。


「……なんだあいつ。刺客やってた時より活き活きしてねぇか?」


 スエドが呆れたようにつぶやいた。

 開け放たれた換気口からは、太陽の光をたっぷり吸い込んだ布団の良い匂いが漂ってくる。


「それに、パノラマ窓の向こうのバルコニーに、新鮮な野菜とかハッカの葉が山積みになってるぞ」

 

「ええ、最外殻の住民たちが『スエド様への献上品です』と言って置いていったようです。すっかり治安が良くなりましたね」


 執事ヴァルカンが、銀縁メガネを光らせながら静かに紅茶を注ぐ。


「へー。治安が良くなったなら結構なことじゃねぇか。飯の差し入れが増えるのは大歓迎だ。

 ヴァルカン、この調子で結界の中央方向に向かって移動してくれ」


『御意、ロード・スエド。次なる障壁【中殻の大結界】へ向けて、進路設定いたします』


 ゴゴゴゴ……と床下に響く軽いエンジン音とともに、可動式神殿(キャンピング・パレス)が優雅に方向転換した。


「ちょっとスエド! 差し入れの野菜で、特製『モロヘイヤとゴーヤのネバネバ超健康サラダ』作ったわよ! 残さず食べなさい!」


 スネブがボウルいっぱいに盛られた、深緑色の凄まじい物体を抱えてやってきた。

 青臭い野菜の匂いと、ネバネバした視覚的破壊力がスエドの精神を削る。


「げぇっ……!? 勘弁してくれスネブ!

 魔法国の刺客の攻撃より、その緑色の物体の方がよっぽど俺の生命の危機だ!!」


「何言ってるの! ネバネバ成分は胃粘膜を保護して、二度寝の質を高めるのよ! ほら、あーんしなさい!」


「嫌だ! 俺は二度寝の質を高めるために生命を落としたくはない!!

 おい、そこの元刺客! 助けてくれーーっ!」


「お任せくださいスエド様! 私タグリが毒味……もとい先食いをいたします!

 んぐっ……がはっ……! こ、このゴーヤ、凄まじい苦みが脳に突き抜ける……!

 だが……長年の暗殺稼業で傷ついた体が、凄まじい勢いで喜んでいる……っ!」


「お前、タグリって名前だったのか。知らなかったよ」


「ほら見なさい! タグリさんも美味しいって言ってるわよ!

 さあ、スエド、逃げないで食べなさい!」


「うわあああ! 健康になんかなりたくない! 頼むから寝かせてくれーーーーっ!!」


 最外殻の奇跡的な平和と、魔法国のパニックの裏で。

 スエドの「二度寝を懸けた絶対平和な戦い」は、ゆっくりと次なる舞台【中殻】へと向かって進んでいく。

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