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スエドとスネブの異世界無双?!解明道中記 〜「普通なんて全部檻だ」万年床を愛する男と、キレッキレお説教の美容オタク美少女と、愉快な仲間たちの世直し旅〜  作者: 稲盛 皆藤
普通という名の檻

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普通という名の檻(後編)

「小屋ごと踏み潰される!!」


 スネブがスムージーのグラスを抱えて悲鳴をあげる。

 だが、俺は布団の中から出る気すら起きなかった。面倒くさい。立ち上がるのすらダルい。


「ちっ……静かにテレビで三十路ニートが異世界で本気出すアニメを観ることもできないのか」


 俺は重い溜息をつき、顔にかかったボサボサの前髪を払い上げると、右目にかけていた『偏光グラス』のフレームを、指先でほんの数ミリだけ上へとずらした。


 ――能力表示(ステータス)画面、起動。


 右目の視界だけに、青と金の透き通った幾何学模様の光彩が広がる。

 一般の人間が見るような自分の能力値を表示するステータスではない。突進してくる魔獣の周囲に、真っ赤なエラー警告の文字列と、空間構造の不連続面が透けて浮かび上がる『管理者用の裏ステータス』だ。


(まったく……世界を覆う大結界のせいで、魔導の不連続面が暴走してやがるな。だが、俺は絶対に布団から出ん。立ち上がって避難するなんて重労働、死んでもお断りだ)


 俺は色眼鏡の奥の瞳を冷ややかに細め、口元に残った干し芋の風味を味わいながら、ボソリと呟いた。


「やれやれ、カオスの美学が分からない連中だな。ボロ小屋ごと踏み潰す気か? 『普通という名の檻』には絶対に入らないね。俺はここから、テコでも動かないよ」


 ただの自堕落な言い訳。

 ただのサボりたい男の屁理屈。


 ――しかし、世界を記述する基幹システムは、ボロ布団の中から吐き出されたただの屁理屈を、全く別の意味として誤認識した。


『――警告。最高管理者ログインを検知。』

『――言語コマンド【普通という名の檻(コード・リファクター)】を受理。』

『――対象の不条理な結晶構造を物理解明(再構築)。永続的な構造秩序への変換を開始します。』


ブワッ……!!!!


「な、なに……!?」


 オロオロと慌てふためいていたスネブが目を見開いた。

 突進してきていた巨大な結晶魔獣が、小屋の手前数メートルの位置でピタリと停止したのだ。


 次の瞬間、魔獣の凶悪な結晶の身体が、まるで聖なる光の粒子に分解されるように弾け飛んだ。

 弾けた光は不条理な破壊をもたらすのではなく、美しい白銀の流体となってボロ小屋の周囲を包み込み、見る見るうちに高貴な輝きを放つ『最高級大理石の巨大柱』と『重厚な宮殿の回廊』へと全自動で組み換わっていく!


 ズズズズズ……ッ!


 ほんの数秒前まで貧相な掘っ建て小屋だった場所が、白磁の大理石と黄金の意匠で彩られた、神威あふれる『絶対不可侵の宮殿』へと変貌を遂げていた。

 なお、俺が包まれているボロ布団のエリアだけは、一切の変更を受けずにボロい板間のまま維持されている。


「は……? え……? 宮殿……!?

 なんで!? 何が起きたのよ!?」


 スネブが素でアゴを外しかけていると、崩れ去った魔獣の中心から、光を纏った一人の人影が歩み出てきた。


 深紅の長髪に、額から伸びる一本の誇り高き角。

 かつて帝国最強と謳われた近衛総騎士長――鬼人族の女武者、ルリだった。


 ルリは、自身の身体を蝕んでいた結晶の毒呪いが完全に浄化されたことを悟ると、ボロ布団にくるまる俺を見つめ、その場にズサァッ!と激しく膝をついた。


「おお……おおおっ……! これぞ神域の奇蹟……!

 恐ろしい魔獣の狂乱を、あのような一言で『完璧なる宮殿の理』へと上書き昇華されてしまわれるとは……!」


 ルリはボロボロと感涙を流し、大理石の床に額をこすりつけた。


「お聞きしました、至高の主よ……! 『普通という名の檻を破れ』というお言葉……!

 既存の愚かな概念に囚われず、この地に新たなる聖域を打ち立てよという深遠なる神託、このルリ、魂の奥底まで刻み付けましたぞ!!」


「……」


 俺は、すっかり豪奢な大理石の床になった部屋を見回し、深く、深く溜息をついた。


(……最悪だ。ボロ小屋のままサボりたかったのに、キンキラキンの宮殿になっちまった。目立ってしょうがねえだろこれ……)


 袖の中から、羽毛生物が「ピヨ……?」と恐る恐る顔を覗かせ、俺の指先からこぼれたナッツをポリポリと齧り直す。


 スネブは手の中の緑色スムージーをゴクリと飲み干すと、プルプルと震えながら俺を指差した。


「スエド……あんた、また何かしでかしたわね!?」


「俺は何もしてない。ただ布団の中で干し芋食って、言い訳しただけだ」


「それが一番タチ悪いって言ってんのよーーーっ!!」


 最果ての地に響き渡る、美少女の甲高い怒声。

 俺のステータス画面の右目の隅で、不気味な赤き凶兆が静かに明滅していた。


『――警告:|将来的な構造クラッシュの可能性《システム・クラッシュ》。世界の残存演算フェーズ、あと79』


「やれやれ……」


 俺は干し芋の最後のひとかけらを口に放り込み、静かに目を閉じて布団を頭までかぶった。

 こうして、俺の「一生サボって石ころになりたい日常」を守るための、不本意極まりない解明道中記が幕を開けたのだった。

 ご覧いただき、誠にありがとうございます!

 ボロ布団から一秒も出たくない自堕落男・スエドと、キレキレでお説教してくる健康オタク美少女・スネブのドタバタな日常はいかがでしたでしょうか?

 これから二人の「サボりたいだけの屁理屈」が、世界をどんどん巻き込んで変革していく爽快なストーリーをお届けしていきます!

 少しでも「面白い!」「今後の二人の掛け合いが気になる!」と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク追加】や、評価(☆☆☆☆☆)で応援していただけますと、毎日の執筆の大きな励みになります! 初回5話連続投稿、その後毎日18:10更新予定です。 どうぞお楽しみに!

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