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スエドとスネブの異世界無双?!解明道中記 〜「普通なんて全部檻だ」万年床を愛する男と、キレッキレお説教の美容オタク美少女と、愉快な仲間たちの世直し旅〜  作者: 稲盛 皆藤
普通という名の檻

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普通という名の檻(前編)

「どっかぁぁぁぁぁぁん!!!!」


「また結界が暴れてるのか」


 唐突な爆音と激しい揺れが、最果ての地に佇むボロ小屋を叩き割らんばかりに揺さぶった。

 天井の隙間からパラパラと大量の砂埃が舞い落ち、腐りかけた木造の柱がギシギシと悲鳴をあげる。

 だが、俺――スエドは、せんべいみたいに薄くなった古布団にくるまったまま、ピクリとも動かない。

 視線の先にあるのは、ボロい木枠にはめ込まれた魔法結晶テレビ(ブラウン管風)の画面だ。画面の中では、青いスライムが手下に家を建てさせ、すげー楽しそうに街づくりに精を出している。

『僕は悪いスライムじゃないよ』

 その魔法結晶テレビからは、何だかどこかで聞いたことがあるセリフも聞こえて来る。


「……なぁ、ピヨちゃん。見てみろよ、これ」


 俺は布団から片手だけをヌッと出し、テレビの画面を指差した。


「バカだなぁ。スライムにまでなって働くなんて正気の沙汰じゃないよね」


「俺なら秒で湿地帯の泥の陰に潜んで、一生サボるね。労働なんてものは悪だ。生きてるだけで偉いんだからさ」


 俺の肩の上で、フワフワした桃色の羽毛をまとった手のひらサイズのミニ生物が、「ピヨッ」と生意気そうに小さく鳴いた。

 器用な前脚の爪で、俺の手元から『ナッツ』を一粒つまむと、カリカリと軽快な音を立てて美味そうに齧り始める。


「だろ? 人間もスライムも、働くから戦争とか紛争とかって、ロクなことにならないんだ。

 この『干し芋』の素朴な甘みとナッツの香ばしささえあれば、人生の9割は完成してる。残りの1割は二度寝だ」


 干し芋をポリポリと噛みしめ、至福の溜息をついた、まさにその直後だった。


 バターンッ!!!


 今度は立て付けの悪い木製ドアが、爆音と共に力任せに叩き開けられた。


「――ス! エ! ド! 布団の上で、お菓子食べながらテレビ観ないでっていつも言ってるでしょ、もういい加減にそのボロ布団から出なさーい!!」


 仁王立ちで怒鳴り込んできたのは、同居人の美少女・スネブだった。

 ヨレヨレのパジャマ部屋着姿だというのに、その右手には無駄にスタイリッシュな高級ガラスコップが握られている。中身は、ケールとスピルリナを低温搾りしたという、ドロリとした濃い緑色の『特製濃縮酵素デトックススムージー』だ。


「ヒッ、ピヨッ!?」


 スムージーから漂う凶悪なまでに健康そうな緑色の香気と、スネブの雷のような怒声。

 そのダブル攻撃に恐怖した羽毛生物は、瞬時に俺のパジャマの袖の中へとダイブし、ブルブルと小刻みに震え出した。


「いいかげんにしなさいよ! 小屋の中に脱ぎ捨てた靴下と、空き缶と、ナッツの殻が山になってるじゃない!少しは片付けたらどうなの!?」


「嫌だね。俺は布団から一ミリも動かないよ。布団こそが人類が到達した最高の聖域であり孤独の領地なのだよ」


「なっ……! なんで開き直るのよ! 掃除! 整理整頓!

 それは人間として最低限の嗜みでしょうが!」


 スネブは緑色のスムージーをスタイリッシュに一口煽り、「くはぁっ、酵素が全身の細胞に染み渡るわ……むくみは美肌の天敵なのよ!」と悦に入ってから、再び俺を鋭く睨みつけた。


「とにかく片付けなさい! 部屋の乱れは心の乱れ!

 整理整頓できないヤツにまともな人間生活は送れないの!」


「やれやれ、これだから『普通』という洗脳に犯されたヤツは困る」


 俺は半目でスネブを見上げ、干し芋をもうひと噛みした。


「スネブ、お前は大きな勘違いをしている。片付け……つまり『整頓』とは何だ?

 乱雑な自然状態に対して、人間側の勝手な都合で人工的な秩序を強制することだろ? それは即ち、空間が持つありのままの自由を奪う暴力だ」


「はあ!? なに屁理屈こねてんのよ!」


「いいか、『普通はこうする』『綺麗に並べるのが正しい』……そうやって枠にはめ込もうとする発想そのものが、人間を不自由にさせる『普通という名の檻』なんだよ。


「俺はこのボロ小屋のカオスを愛している。散らかりの中にこそ、真の自由と静寂があるんだ」


「ただサボって散らかしたいだけの自堕落ニートが、なに高尚な哲学っぽく語ってんのよバカ!!」


「屁理屈こねてるヒマがあったら指一本でも動かしなさいよ!!」


 キーン、とスネブの大声がお説教として空間に響き渡る。

 その声の物理的な振動だけで、壁の埃がパラパラと落ちた。

 ――次の瞬間だった。


 ズズズズズズズズガガガガガガッ!!!!!


 先ほどの比ではない猛烈な地響きが、ボロ小屋全体を強烈に揺らした。

 最果ての荒野の向こうから、地獄の底から響くような猛獣の叫びが迫ってくる。


『グラアアアアアアオオオオンッ!!』


 窓の外を覗くと、体長十メートルを超える凶悪な魔獣――『結晶魔獣ガルド』が、狂乱した様子で小屋へ向かって全速力で突進してきていた。鋭利な紫色の鉱物結晶に覆われた巨大な体表が、太陽光を浴びて禍々しく光り輝いている。

 遠くに見える開拓集落では、停滞した魔素の影響で枯れ果てた畑を前に、農民たちが「外に住む者の宿命だ」と力なく肩を落としていた。教団から与えられた不条理な貧困を「これが普通」と受け入れ、ただ耐えることしか知らない人々である。


「きゃあああっ!? なにあのバケモノ!? こっちに来るわ!」


(後編に続く)

 ご覧いただき、誠にありがとうございます!

 ボロ布団から一秒も出たくない自堕落男・スエドと、キレキレでお説教してくる健康オタク美少女・スネブのドタバタな日常はいかがでしたでしょうか?

 これから二人の「サボりたいだけの屁理屈」が、世界をどんどん巻き込んで変革していく爽快なストーリーをお届けしていきます!

 少しでも「面白い!」「今後の二人の掛け合いが気になる!」と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク追加】や、評価(☆☆☆☆☆)で応援していただけますと、毎日の執筆の大きな励みになります! 初回5話連続投稿、その後毎日18:10更新予定です。 どうぞお楽しみに!

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